ぼくドラえもんです

ドラえもんを知らない人はいないだろう。 2112年9月3日に製造されたネコ型ロボットで、身長129.3cm、体重129.3kg、胸囲129.3cm。 これくらいのことは日本人、いや地球人の常識である。 もしあなたがこの程度のことを知らなかったなら、ひょっとしてあなたはバルタン星人かもしれない。フォッフォッフォッ。

そしてそのドラえもんは、セワシくんの家で子守ロボットとして活躍していたが、セワシ君のご先祖である野比のび太の家に派遣され、のび太と共に暮らすことになる。 なぜ現代ののび太の家にやってきたかと言うと、ダメ人間であるのび太が残した大量の借金がセワシくんの代にまで響いているためだ。 そこでセワシくんはドラえもんの力でのび太を立派な大人にして、自身が借金ダルマの生活から逃れようとしているのである。

これはあまりにも有名な設定である。 これをあなたが知らないとしたら、あなたは地球人どころか、もはやバルタン星人ですらありえないだろう。 ひょっとしてあなたは、魔王の襲撃に備えて地球に来たのはいいが時間を間違えて1万年眠り続けていたのでは?(こんなの誰も知らねーよ)

とまあ、誰もが知ってるドラえもん。 誰もがよく知っているだけに、ドラえもんの物語に疑問を持つ人はあまりいないのではなかろうか。

だが私はふとしたはずみに疑問を持ち、冷静に分析してみた。 すると驚くべきことが明らかになった。 ドラえもんはセワシくんの思いつきで現代に来たわけではなく、22世紀の超国家級プロジェクトの特命を帯びて現代に派遣されているのである。

どうしてそういう結論になるのか? またそのプロジェクトとは何なのか? それを知るためには、以下しばらく私の駄文につきあって頂きたい。

子守ロボットだよドラえもん

とりあえずはドラえもん自身の性能についてチェックしてみたい。 先に何やらたいそうなことを書いてしまったが、するとドラえもんはそのプロジェクトとやらのために作られたロボットであって子守ロボットではないのだろうか?

まずドラえもんの外観から見てみよう。 ドラえもんはネコ型ロボットである。 小さい子供にとっては、こういった動物をモチーフにしたロボットというものは親しみやすいものであろう。 なるほど、子供がすぐになつきそうである。

更に、ドラえもんは非常に丸っこい。つまり尖った部分が全くと言っていいほどない。 皆さんご存知であろうが、玩具では尖った部分をつけるか否かは非常に気を遣うところである。子供にとって危険だからだ。 子供向け番組で新キャラクターが登場する際、玩具メーカーであるスポンサーの都合で尖った部分を削られたりするのは珍しいことではない。 ましてや、子供といつも一緒に遊ぶロボットがトゲトゲしていては話にならない。 そう考えると、なるほど、形状も子供の遊び相手に適しているようだ。 ただ、唯一ヒゲが尖っているのは多少危険かもしれない。 ネコ型ロボットであるが故のやむをえない欠点といったところか。

そしてドラえもんにはもっと優れた機能が備わっている。 ドラえもんは、ロボットでありながら人間と同じものを食べてそれをエネルギー源にするのだ。これは凄いテクノロジーだ。 子供と一緒におやつを食べたり、ままごとの相手をしたりするのにも好都合。

だがそれだけではない。オイルだの固形燃料だのを外部から補給していると子供に悪影響が及ぶ。 なぜなら子供は何でもマネしたがるので、オイルを飲んだりするかもしれないからだ。 だから、わざわざ普通の食べ物をエネルギー源にするようにしているのだろう。うむ、よくできたロボットだ。

以上、ドラえもんは機能的には子守ロボットとして優れた性能を持っているということが分かった。 だがドラえもんには重大な欠点がある。

ドラえもんの体重は129.3kgである。身長は129.3cm。この身長でこの体重では、比率から言えばほとんど相撲取りだ。 はっきり言って子供の遊び相手としては異様に重すぎる。 もし何かの間違いでドラえもんが幼児の上に倒れ込んだりしたら、命にかかわる重傷につながる危険だってある。 こんなので大丈夫なのか?

が、ここに注目すべき事実がある。 例えばのび太とドラえもんが廊下でぶつかるなんてのはそう珍しくもない光景だが、その顛末に注目したい。 ぶつかった結果、のび太もドラえもんも尻餅をつく、なんてのがありがちな結果。のび太だけが一方的にふっ飛ばされるなんてことはまあない。 貧弱な小学生が、いわば幕内力士のぶちかましを食らってこの結果である。なんかおかしい。 ひょっとしてドラえもんには、たとえ誰かとぶつかっても衝撃を吸収したりして極力相手を傷付けないようにする機構が仕込まれているのでは?

そんな高級な機能を備えているとすれば、子供の上に倒れ込んだりしないように何か特別な機構も仕込まれているとしても不思議ではなさそうだ。 実際にドラえもんのせいで怪我をしたという人がいない以上、その方が自然な考え方であろう。

ほう! こうしてみるとドラえもんは、ハイテクに支えられた非常に優れた子守ロボットと言えそうだ。

ただ、ドラえもんにはどうしても理解できない不思議な部分がある。 先に述べた通り、ドラえもんの身長は129.3cm。で、胸囲も129.3cmである。 仮にドラえもんの頭部及び胴体が完全な球形であり、頭部と胴体が同じ大きさだとする。 するとその周囲が129.3cmであるので、直径は41.18cmとなる。 ならば、もし頭部と胴体が二つの球として接している状態だとしても、頭部の長さが41.18cm、胴体の長さが41.18cm。 身長が129.3cmだから、残る足の長さは49.94cm!頭や胴より長いじゃないかー!

ましてや、ドラえもんの頭部と胴体は完全な球体ではなく、球状のものが互いにめり込んでいる状態となっている。 両方とも、その長さは41cmより明らかに短いのである。すると足は60cmくらいあるのでは? おお、身長の半分くらいが足の長さだとは、人間並みのプロポーションではないか!

そう、ドラえもんの体のサイズは、見かけとは全く異なるのである。 どうも現代の科学知識では、この事実に対して合理的な説明を加えられそうにない。 一体この秘密は何なのだろう。何故そんな風にしてあるのだろう。私には全く分からない。

これだけでも充分怪しいのだが、しかしドラえもんには更に、その体に隠されたテクノロジー以上に様々な謎が隠されている。 だがまあ、それは後で指摘していこうと思う。 その前に、ドラえもんが現代に来たそもそもの原因について論じてみたい。

未来の国からこんにちは

のび太の机の引き出しから、突如現れた謎のロボットと一人の少年。 それは子守ロボットのドラえもんと、のび太の孫の孫であるセワシくんだった。 のび太が残す借金のせいで貧乏暮らしを強いられるセワシくんは、のび太を立派な大人にするためにドラえもんを連れてきたと言う。

なるほど、うまい方法だ。 時間旅行が可能であれば、結果を修正するには原因を操作すればいい。 「ターミネーター」だって「バック・トゥー・ザ・フューチャー」だってそうしてるじゃないか。

が、時間航行を利用した事象の修正には因果の破綻が付き物である。 そう、タイムパラドックスというやつである。 のび太が借金を作らなければセワシくんは貧乏にならず、ドラえもんを派遣する理由がなくなる。 それどころか、未来が変化すればセワシくんが生まれなくなる可能性もある。 原因が結果に依存しているために、因果関係が破綻しているのだ。 そしてなんと驚くべきことに、ここでそれを鋭く指摘したのはのび太自身であった!

のび太はセワシくんの話を聞いて即座に、セワシくんが生まれなくなる可能性もあると指摘する。 多分タイムマシンを扱ったマンガでも読んでいたおかげだと思うが、のび太のくせに生意気だぞ。((C) ジャイアン)

しかしそんなことはどうでもいい。 それに対してセワシくんが返答する、その答が重要だ。彼の言い分はこうだ。 電車を使っても自動車を使っても、目的地が同じなら同じ場所に着く。 経路が違っていても結果は同じにできるのだ、といったような答えを返すのである。

なんか分かったような分からんような答えだ。これでのび太はあっさり納得したようだが、私はそうはいかない。 時系列上で因果関係を持った事象に変動が生じても、それを修正することで目的の未来を得ることができると言いたいようだが、そんなものなのか? それって、ドラえもんが現代に来たことによる事象の変動を全て計算して、その変動を修正するための要因を各事象に作用させていかなければならないということでは? そんな計算、少なくとも子供の思い付きで解決できる問題ではない。 それにそもそもこれでは、ドラえもんが現代に来たせいでセワシくんがドラえもんを現代に送り込む理由がなくなるというパラドックスの解にはなっていない。

そう、セワシくんの答は答になってないのである。 ではなぜそんな答を返したのか?

その理由は二つ考えられる。 一つはセワシくん自身、全然理由が分かっていないという場合。 もう一つは、セワシくんは非常によく分かっていて、のび太を煙に巻こうと企んでいる場合である。

前者が正しいとすると、ドラえもんを派遣する決定を下したのはセワシくんではない。 タイムパラドックスの危険を吟味せずに過去に干渉することが許されるとは思えないからだ。 セワシくんのバックには賢いブレインがいるに違いない。

後者だとすると、セワシくん自身がブレインだ。 何故ごまかそうとしているのか、その理由も二つ考えられる。 詳しい理論は難しすぎるから適当にごまかしたか、もしくは本当のことは言えないから嘘をついたか、である。 理論が難しいのならいいのだが、嘘をついたとすれば気になるところである。

が、その他様々な要因を各種観点から検討すると、理論が難しいだけではなさそうなことが分かる。 セワシくんは確かに何か隠している。そして彼のバックにも何か巨大なものがありそうなのである。

何故そうなるのか? とにかく怪しいのである。何もかもが。以降を読めば分かって頂けると思う。

便利な便利な四次元ポケット

ドラえもんの四次元ポケットからは、様々な夢の道具が飛び出してくる。 タケコプター、どこでもドア、もしもボックスなどなど。 こういった数々の道具によって、ある時はのび太を助け、またある時はのび太に教訓を与え、のび太を成長させていくのである。

が、ドラえもんの道具の中には妙なものも沢山ある。 そりゃまあ元々子守ロボットであるから、他愛もないお遊びの道具が出てくるなら話は分かる。 しかし、子守の道具でもなければのび太をサポートするためのものでもないようなものが色々とあるのだ。

例えばドラえもんは強力なレーザー銃や地球を破壊できる爆弾などを所持している。一体何のために!? とても合法的な道具とは思えないのだが。

合法的でないと言えば、悪魔のパスポートなんてものもある。 これを見せればどんな悪事も見逃してもらえるというもの。 ドラえもんはこれを焼き捨てようとしていたようだが、そもそもこれはどう考えても非合法な、闇ルートでしか出回らないような道具だ。 どうしてこんなもの持ってるんだ?

逆に、表ルートで流通はするだろうが、一般ルートでは手に入れられそうにないものも持っている。

例えば天気予定表。ドラえもん自らが語ったところによると、これは未来の気象庁御用達の逸品で、政治経済等の様々な影響を加味して気象を制御するために用いられるものだそうだ。 こんなもの一般人が手に入れたら大混乱の元である。どう考えても政府の管理下において製造・使用されているものだろう。

また、強力岩トカン(トカシの誤植じゃないかと思うんだが…)なんてものもある。 海底で仕掛けると岩盤を弱くしてくれて、海底火山の爆発を誘発して新しい島を作るという凄いもの。 これもどう考えても、国土庁なりなんなりの政府機関が管理するものだろう。

とまあ、こういったとんでもない道具までドラえもんは持っているわけだ。 一般ルートでは手に入れられそうにない道具の数々を、子守ロボットが持っている。 ほら、ドラえもんは怪しくないか?

そもそも持っている道具の数が多すぎるのも怪しい。 これらは子守ロボットの標準付属品とは思えないから、こういったものは現代に来るために揃えた品物だろう。 リースだろうか? にしてもとてつもない費用が必要である。 大体セワシくんの家は貧乏じゃなかったのか? どうしてこんなたくさんの道具を、しかも非合法な入手品も含めて揃えることができるのだろう。

さあ、今度は疑惑の目がセワシくんに向いた。 そこで次に、セワシくんにスポットを当ててみたい。

セワシくんと貧乏一家

セワシくんの家は、のび太が残した借金のためにいつまでたっても貧乏暮らしらしい。 ところが、時折登場するセワシくんにはそんな暗い影は見られない。ごく普通の生活をしているように見受けられる。 そりゃまあ、現代と未来では生活水準が大きく異なるだろうから、現代の感覚でいう貧乏とはずいぶん違うことだろう。 しかしそうは言っても、どうもセワシくんの家は貧乏ではないのではないかと思われるフシがあるのである。 それは先ほどののドラえもんの道具の件もあるし、まだ他にも状況証拠はある。

セワシくんの家には、ドラえもんとドラミちゃんという2体の子守ロボットがある。 一説によればバーゲンセールで買ったそうな。 それと、少なくともタイムマシンが2台。ドラえもんが現代に乗って来たものと、セワシくんかドラミちゃんが使っているもの。 ひょっとしたら、セワシくん専用・ドラミちゃん専用と合計3台あるかもしれない。

さあ、少なくともロボット2台とタイムマシン2台を有する家庭。 これのどこが貧乏なのだろう。

いや、未来の物価がどんなものかは分からない。 ひょっとしたらロボットもタイムマシンも二束三文で手に入るのかもしれない。

とは言っても、ちょっと考えて頂きたい。 同種類の電気製品を2台以上買う場合とはどんな場合だろう。

  1. 安くて、沢山あると便利な場合
  2. 生活上、どうしても必要な場合
  3. 生活に余裕があって、趣味でこだわる場合
なんてのが挙げられるだろう。

さあ、貧乏なセワシくんの家ではどうなのだろう。 生活に余裕はないから3番は即却下、1番か2番である。 確かに貧乏でも、安くて二束三文で手に入るなら沢山買ってしまうこともあるかもしれない。 が、品物の性質を考えて頂きたい。 子守ロボットとタイムマシンである。

そもそも子守ロボットって贅沢品ではないか? 普通は親が子供の面倒を見るものだろう。 まあせっせと共稼ぎをしていて面倒を見られないということかもしれない。 が、未来世界にだって託児所なんかがありそうなものだ。 どう考えても、ロボットに任せるより安上がりではないか? 忘れてはならない。購入資金がいくら安くても、このロボットは人間同様に飯を食うのである。 子供の面倒を見ない分で稼いだ金も、このロボットが食いつぶすのだ。

それに、セワシくんに兄弟姉妹がいるのかどうかは知らないが、いても子守ロボットは合計1台で済むだろう。 たとえ抱き合わせ販売で2台も買わされたとしても、2台とも動かしておく理由はない。 貧乏なのに食い扶持を無意味に増やすのは馬鹿ではないか。かわいそうだがドラミちゃんはスイッチを切っておけばいい。 なぜ2台とも動かしているのか。生活上必要とはとても思えない。

それに、タイムマシンである。 どうして2台も必要なのか。しかもその内1台は過去(現代)に放ってあるのである。 まあこれはドラえもん用にもう1台用意したということかもしれない。 では、なぜ自分たちの分も必要なのか? 生活上タイムマシンが必要なのか? 仕事でタイムマシンを使っているのだろうか? それってどんな仕事なんだ?

タイムマシンで大旅行

推測の域を出ないのでセワシくんの家庭の事情はさておき、次にタイムマシンを使うということに着目したい。 先に述べた通り、タイムマシンの使用にはタイムパラドックスが付き物である。 タイムマシンの使用に当っては、このことに注意しておく必要があるだろう。

未来世界にはタイムパトロールが存在する。時間犯罪者を取り締まる偉い人達だ。 しかし、時間犯罪者なる用語があるということは、時間航行は法律で制限が設けられているということだ。 実際ドラえもんはのび太に対して、タイムマシンで金もうけしちゃいけないなどと言ったこともある。 ちゃんと時間法とでも言うべきものがあるのだ。

とすると、タイムマシンの使用に当っては時間法を熟知している必要がある。 そうでなければタイムマシンを使用してはならない…となると、タイムマシンの操縦は免許制度になっていることが容易に推察できる。 自動車の運転免許のように、時間航行士免許試験なんてものを受けるのだろう。 マシンの操縦自体は簡単なようだから、おそらく時間法に関する知識の試験がメインになると思われる。

さて、ドラえもんはその免許を所持していることは言うまでもない。 ロボットだから、わざわざ試験を受けなくてもメモリーにインプットしておけば良い。 実際ドラえもんは時間法の知識も豊かなようだし、タイムマシンの修理までできるようだ。 現代に来るためには当然の技能だろう。

さあ、そこでまたセワシくんに話を戻す。 セワシくんもまた、タイムマシンで現代に来たりしている。 じゃあ時間航行士免許を持っているのか?

しかし、セワシくんはまだ小学生である。 普通の法律だって難しいのに、時間法となると因果律がどうこうなどといった法律以外の専門知識も必要となってくるだろう。 そんな試験に小学生が合格するのか? とするとセワシくんって実は大天才なのではなかろうか?

そんな大天才であれば、奨学金なんかが支給されそうな気がする。 うーむ、ますます貧乏とはかけ離れていく。

とにかく、セワシくんは時間航行に関して熟知しているようだ。 だとすれば、ドラえもんを現代に派遣することが何を意味するのかも知り尽くしているだろう。 そもそも、ドラえもんを現代に送り込むことは時間法違反ではないのか? セワシくんは非合法にドラえもんを送り込んできたのだろうか?

さて、ここでもう一度ドラえもんに話を戻してみよう。

ドラえもんは時間航行士免許を持っているにもかかわらず、時間法違反とおぼしき行為を幾つも行なっている。 例えば先に述べた通り、タイムマシンで金もうけをしてはいけない。これはドラえもん自身の口から語られた規則である。 が、損失を埋めるためとは言え、当たると分かっている宝くじを買おうとしたことがある。まあこれは未遂に終わったので良しとしよう。 しかし、現代の有名画家がまだ無名だった頃の時代に行って、その人の絵を安く買おうとしたことがある。 まあこれも失敗に終わるのだが、絵を買って帰ったことは確かであり、明らかに時間法違反である。

まだある。 なんとジャイアンはツチノコの発見者であり、未来社会ではツチノコをペットにするのが流行しているというのをご存知だろうか? そしてなんとのび太とドラえもんは、タイムマシンを利用してジャイアンの名誉を横取りしようとするのである。 まあこれも失敗に終わり、めでたくジャイアンはツチノコの発見者となるのだが、これまた歴史を改ざんしようとする、どう見ても時間法違反行為だろう。

とまあこういった具合に、いくつもの違法行為を行なっている。 確かに行為はことごとく失敗に終わるが、だったらいいのだというわけではあるまい。 ドラえもんは時間法違反の罪状で、いつタイムパトロールにつかまってもおかしくないのだ。

が、ドラえもんは捕まらない。なぜだ? タイムパトロールの監視の目をごまかしているのか? いや、一介の子守ロボットに出し抜かれるほど甘いタイムパトロールではあるまい。

するとドラえもんは元々非合法に現代に来たのであり、タイムパトロールはそのことを知らないのか? いやそれも違う。ドラえもんは映画「のび太の恐竜」でタイムパトロールと接触しており、なんとのび太たち共々現代に送ってもらっている。 タイムパトロールはドラえもんの存在をしっかり把握しているのだ。

するとタイムパトロールはドラえもんをワザと見逃しているとしか考えようがない。 これは一体どういうことなのだ? ドラえもんは時間法違反の罪を免除してもらえる特別な存在なのか? さあ、ますますドラえもんは怪しくなってきたぞ。

ドラえもんが町を歩けば

こうして相手が怪しく見えてくると、今まで当たり前のように思っていたことも不審に思えてくる。 そう、ドラえもんが町を歩いていることさえも。

あなたの町であんなロボットが歩いていたらどうだろう。 みんなみんなが振り返るどころじゃすまないはずだ。 誰かが写真を撮り、新聞社や出版社に連絡され、マスコミは来るし科学者は来るし、と大騒ぎ。 やがてはその騒ぎに乗じて某国の情報部員が町に潜入し、ドラえもんの秘密を探ろうとする。 あわよくばドラえもんを捕獲し、本国に持ち帰ろうとするに違いない。

そしてそれを防ぐために日本政府の手でドラえもんは保護され、結局は同じようにその秘密を探られる。 のび太は脅迫されたり自白剤を打たれたりして全ての秘密をしゃべってしまい、ついにはタイムマシンも押収されてしまう。 が、そうはさせじとタイムマシンを爆破する某国の工作員。 またドラミちゃんを捕獲した工作員も、日本を出る間もなく別の工作員に殺される。 …などなど。

かくして全世界規模の大争奪戦が繰り広げられる。 何しろロボットと四次元ポケットの秘密を手に入れたら、簡単に世界を手に入れられるのである。 これが誇張でも何でもないことは分かって頂けると思う。

…が、そんなことはのび太の住む町では全く起こらない。 いつも穏やかな毎日が繰り広げられるだけだ。 どうして?

ひょっとして、近所の人以外はドラえもんの存在を知らないのだろうか。 いや、そんなことはない。ドラえもんはテレビ局や芸能人にも接触している。

のび太の頼みで、ある特撮番組を打ち切りから救うために道具を駆使したことがある。 予算がないのをカバーするため、タイムマシンやら何やらを駆使して白亜紀の本物の恐竜を撮影に使えるようにしたのだ。 この時に、タイムマシンの秘密がばれたらいけないと言いタイムマシンの出口とどこでもドアをつないだりもしているが、それで済むわけじゃない。 本物の恐竜をお茶の間に放映させたのだ。ここからドラえもんの秘密が嗅ぎ付けられる可能性は非常に大きい。

芸能人に接触したことも何度かあるが、代表的なのはおそらく話がもれる心配がない人。星野スミレだ。 なぜこの人からは話がもれないかと言うと、秘密は守ってくれそうだから。 なにしろこの人は少女時代、パー子ことパーマン3号だったのだ。 ウソじゃないぞ。「ドラえもん」は「パーマン」終了後の世界なのだ。明言はされてないけど。

ま、それはさておき、とにかくドラえもんは町の外でも結構活動している。 見知らぬ他人のために道具を使うことも珍しくはない。 ドラえもんの秘密が外にもれる危険は非常に高い…と言うか、全然もれてないのがおかしいくらいだ。

そう言えば、ドラえもんとは初対面の人でも何の違和感も訴えずにドラえもんと話をしている。 これもどう考えてもおかしい。 町にロボコンだとかカブタックだとかのロボットが溢れているならともかく、ドラえもんは明らかに異質な存在であるはずなのに。

謎だ。
町に完全に溶け込んでいるドラえもん。
時間法違反行為も特例で免除されるドラえもん。
実は裕福で天才のセワシくん。
これらの事実から、ドラえもんが現代に来た背景に何か巨大な黒い影を感じると言ったらあなたは笑うだろうか? ドラえもんは、少なくともセワシくんの単純な思いつきで現代にやってきた子守ロボットではない。 この裏にはタイムパトロールをも動かす何か巨大な計画が隠されている!

きみ、のび太くんのなんなのさ

そもそも、ドラえもんが現代に来たら世界的争奪戦になることはバカでも分かる。 ならば、タイムパトロールなり政府なりがドラえもん派遣の認可を出したのはどういうことだ? その理由が、人々がドラえもんを見ても驚かない原因ではなかろうか。

派遣の認可が出たということは、ドラえもんが現代に来ても騒ぎにはならない保証があるということだろう。 だとすれば、人々がドラえもんを見て騒がないのは、未来の政府がそう仕組んだからではないか? 例えば町の人々は皆、何らかの精神制御を受けているからではなかろうか。 ドラえもんがいるのを当たり前と思い込むような。

更に未来政府は、騒ぎを起こさせないだけではなく、ドラえもんのことがマスコミや情報機関にもれないように絶えずチェックも行なっているはずだ。 ドラえもんに関する情報の流布範囲を完全に限定しているのだ。 たとえ情報がもれたとしても、精神操作などの何らかの操作を用いて情報の拡散を防いでいるに違いない。 こんな大規模な事は、まさに政府機関なりの巨大組織でないとできないだろう。

なんか話が凄いことになってきた。 1ロボットの派遣認可にしては、バックアップが大袈裟すぎる。 セワシくんの先祖の過去を変えるためなんていう個人的な事情でドラえもんがやって来たというのはどう考えてもウソである。

するとドラえもんの使命とは何なんだろう。 仮にセワシくんの言葉通り、のび太の借金を防ぐことだと考えてみる。

では実際にのび太の借金は回避されるのだろうか? のび太は、自分がパパになった頃の時代にタイムマシンで出かけたことがある。 その時の雰囲気では、家は普通の中流家庭のように見受けられた。 孫の孫にまで響く借金を作るなら、今のだらしなさそのまんまだろうと思うのだが、その時は多少頼りなさそうだけれども普通のパパに見えた。 とてもそんな大借金をしそうにない。それにご存知の通り奥さんはしずちゃん。頭もいいし、しっかり者だ。 そんな手のつけられない大借金をする前に、彼女が何か手を打つだろう。

するとドラえもんのおかげで借金は回避されたということだろうか。 そこでもうひとつ近未来の話。しずちゃんとのび太の婚約の時の話がある。 大学生くらいの時、ある事件がきっかけでしずちゃんはのび太にプロポーズする(注:のび太がしずちゃんにプロポーズするのではない)のだが、その時ののび太は相変わらず今と同じ情けなさだった。 ドラえもんがいても何も変わっていないのだ。 じゃあドラえもんの存在理由はなんなんだ?

どうも、ドラえもんがいようがいまいがのび太はあまり変わらないということのようだ。 すると、もしのび太が借金ダルマになるとしたら、その未来は回避できない。 セワシくんの行為は無駄だということになる。 これでタイムパラドックスは生じなくなるが、なんか釈然としない。ドラえもんが現代に来ることに何の意味があるんだ。

タイムパラドックスを生じない解はもう一つ考えられる。 そもそものび太は借金ダルマになどなりはしない。それはセワシくんのウソだということだ。 これならつじつまが合う。やはり借金など無く、セワシくんは裕福なのだ。 するとドラえもんの目的は、のび太を立派な大人にすることではないのか?

そこで、ドラえもんが現代に来たことで何が起きたかを考えてみる。 いや、データが少ないため因果関係は明らかにできない。 ただ少なくとも、ドラえもんと共に育ったのび太はしずちゃんと結婚してパパとなり、平凡な家庭を築くのだ。 そして孫の孫であるセワシくんは大天才であり、結構裕福に2台の子守ロボットに囲まれて育つ。そして、やがて彼はドラえもんを現代に派遣する。 万事めでたしめでたし。特に問題はない。

なんかおかしいようだが、これが真実ではないかという気がする。 未来において、のび太のところにドラえもんがいたという過去の歴史があったからこそセワシくんが生まれ、育つことができた。 すなわち、もしもドラえもんがのび太のところに行かなかったら、のび太の未来は変わってしまいセワシくんは生まれなくなるのだろう。 だからセワシくんはドラえもんを現代に連れていった。歴史を安定させ、自分の存在を守るために。

そう、セワシくんはのび太がダメ人間でもどうでもよくて、自分のためにドラえもんを連れていったのである。 そんな自分勝手なこと、見知らぬご先祖様の前では言えないではないか。セワシくんがのび太に嘘をついたのも無理もない。

更に、私は時系列上の因果理論に関しては無知だが、もしセワシくんがドラえもんを連れて行かなかったら、セワシくん個人の問題では無くなるような気がする。 のび太の未来が変わったら、のび太に関連する全ての事象に変動が生じる。セワシくんが生まれなくなるどころではなくなるのではないか? のび太の知人、ドラえもんによって助けられる人々、その他もろもろの人々の未来も変わってしまう。

タイムパトロールだか政府だかがバックアップしているのもそのためか。 歴史が変わらないように、ドラえもんの周りを絶えず監視しているのだろう。 未来に、ドラえもんの存在が明るみに出て大騒ぎになったという過去の歴史が記録されてないのなら、マスコミも工作員もことごとく排除せねばならない。

天才のセワシくんかもしくは時間管理局か、誰かが過去にドラえもんがいたということを知っており、未来の社会を守るために政府の全面的バックアップの元にドラえもんは派遣されたのだ。 政府の特別認可があるとすれば、非合法に思える道具の数々を所有しているのも分からないではない。非常事態に備えてのことだろう、多分。 セワシくんが自分のタイムマシンを持っているのも、ひょっとしたら自らの手で細かい事象の補正を行なったりするためかもしれない。

しかし考えてみれば、ドラえもんがいることで驚くほど歴史は安定している。 例えばさっきのツチノコ事件だが、ドラえもんがいなければジャイアンはツチノコを発見しなかったはずなのだ。 ドラえもんは時間犯罪者どころか、歴史を安定させている功労者だ。 ドラえもんがタイムマシンで何かやった後の後始末は別にしなくてもいいのかもしれない。 タイムパトロールが見逃すのはそのせいかも。

過去にドラえもんがいたという歴史があったからセワシくんはドラえもんを派遣した。 このループした因果関係に混乱する人もいるだろう。そんなややこしいことホントに考えてるのか?と。 だが、実際に同様の因果関係を持つ事象がドラえもんの手で解きほぐされている。

ある朝、のび太の前に謎の正義の味方、セルフ仮面が現れる。 ドラえもんも預かり知らぬその謎のヒーローは、のび太の危機をことごとく救ってくれるのだ。あんまりカッコ良くないけど。 結局正体は謎のままで彼は去って行くのだが、その晩にその正体が分かる。 それは、その日起きた数々のピンチを全て知っている、今ののび太自身だったのだ。 ドラえもんはのび太に、セルフ仮面となって今朝に戻らなければピンチの数々を切り抜けられなかったことになると説く。 のび太はさっぱり理解できないままにタイムマシンで今朝に戻る、という案配。

この、のび太に取らせた行動はまさしくセワシくんの行動と同じだ。 セワシくんの行動の正当性が裏付けられる。

つまるところ、ドラえもんの使命とは現代にいること、それだけなのだ。歴史はそうなっているのだから。 あとは好きなようにやっていれば、事象は安定して歴史は流れるべく流れるのだろう。 セワシくんも無事生まれるに違いない。

以上、ものものしいことを言った割りには、大したことのない結論になってしまった。 だが、これはデータ不足であるために(何より時間軸上の因果律に関する知識がないために)一番信憑性のある結論を出したに過ぎない。

詳しい事情を知りたければ、現代のドラえもんは何も教えてくれないだろうから、ドラえもんが現代に派遣される時を待つしかなさそうだ。 とりあえずは気長に2112年9月3日を待つとしよう。


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