アイアンキング

放映

昭和47年10月8日〜昭和48年4月8日、全26回
TBS系
毎週日曜19時〜19時30分

概要

国家警備機構の一員である静弦太郎。 彼は日本の平和を脅かす組織を壊滅させていく任務を帯び、無敵の武器アイアンベルトを駆使して敵を粉砕していく。

そんな彼の前に唐突に相棒として登場した陽気な男、霧島五郎。 彼こそ、弦太郎をサポートする特命を帯びてアイアンキングに変身する能力を授けられた男だったのである。

だが弦太郎は五郎がアイアンキングであることなど知る由もなく、二人仲良くでこぼこコンビとして、敵の本拠を目指してさすらいの旅を続けるのだった。 そんな彼らの前に次々と立ちふさがるのは、不知火族、独立幻野党、宇虫人タイタニアン。 果たして日本に平和は戻ってくるのだろうか…?

解説

主人公はどっち?
決まってるだろ、静弦太郎しかいないじゃないかー。 霧島五郎・アイアンキングなんか脇役だよーん。

という、いきなり異色な設定から始まるヒーローものがこのアイアンキングだ。 一般には、ひたすら弱いヒーローとして知られているアイアンキング。 しかしそりゃあ無理もない。主人公は変身ヒーローの方じゃなくてただの人間の方なんだから。

そしてそのただの人間、巨大ロボットや怪獣相手に主人公やってるくらいだから、実はただ者ではない。 鞭一本でロボット/怪獣をしばきまくる、とんでもない男なのである。 そしてアイアンキングが倒せない敵を自ら倒してしまう。 どうだ、凄いだろう。巨大ロボットと戦わせたら間違いなく日本一だ。 ただしその腕前は日本じゃあ二番目だ、などとは言わせない。

制作した宣弘社は、前作「シルバー仮面」が視聴率の面で苦戦したことによる反省から、明るいアクション路線を最初から明確にして企画した。 脚本は全話を佐々木守が担当。 そして主役に抜擢されたのが、「飛び出せ!青春」などで人気絶頂だった石橋正次と、日活青春映画で活躍していた浜田光夫。 この二人がいればこそ、このなんとも言えない独特の作品が生まれたのだ。

脚本が佐々木守ということで、設定も凄い。 大和民族に住処を追われた日本の先住民族である不知火族が、復讐と一族再興のため大和政権を打ち倒そうとする不知火族編。 続いては日本に革命を起こして自分達の世界を築こうとする独立幻野党編。 ヒーローものに今までこんな敵いたか? 反体制派の脚本家として有名な佐々木守ならではの、凄い敵だ。 あ、宇宙から来たタイタニアンというのもいるのだが、まあ細かい話は後で。

さて、こういった設定の凄さは単に奇をてらったというものではなく、実に計算し尽くされた効果を挙げている。 なんと言っても、静弦太郎の性格が実に絶妙。

無邪気な笑顔と軽い口調。一見して軽薄男に見えないこともないが、その実は全く違う。 いざ任務となると非情の男となり、その眼光は途端に鋭くなる。 なんと利用できるものは全て利用し、必要とあらば他人を見殺しにすることも厭わない。

典型的かつ強烈なのは第7話。 敵ロボットを迎え撃つため急いでいた弦太郎は途中で、ロボットの攻撃のせいで死にかけている老人を発見する。 が、弦太郎は無視して通り過ぎようとする。 そこでその話のゲストヒロインが、弦太郎に老人を助けるようにと懇願する。 が、弦太郎はそれでも無視して行ってしまう。 そして、その老人は結局死んでしまう。 どっひゃー!

一体何なのだ、これは。これが主人公の姿か? …が、それがそうなのである。これはまさしく正義の主人公の姿なのだ。 なぜか?

弦太郎が老人を助けてたりすると、その間にロボットが進撃して更に大きな被害が出てしまう。 そう、彼が行かなければより被害は大きくなる。 だから弦太郎は多少の犠牲を払ってでも先に進んだのである。 これは、彼が普通の人間でありながら巨大ロボットを食い止める実力の持ち主であるが故に非情に…あ、いや非常に説得力のある理由である。

これが等身大変身ヒーローだったりすると、そもそも等身大の敵はそんなに大規模な破壊はしないから、老人を見捨ててまで敵を倒しに行くというのはあまり説得力がない。 ならば巨大ヒーローだとすると、スケールの大きい戦いをしてるんだから一人や二人の人間は目に入らないだろう。 それに、他のヒーローものはこういうシチュエーションをずっと避けて通っていたのだ。

が、弦太郎は等身大の普通の人間でありながら巨大な敵を倒す力を持っている。 だからこういうシチュエーションは必然とも言えるわけで、そこにこの作品の本質がある。

大を生かすために小を殺す。 こんな弦太郎を非難するのは簡単だが、別にそれは弦太郎独自の非情な性格のなせる技というわけではない、という点に注意したい。

弦太郎は国家の秩序を守るために戦っている男である。 しかしそもそも国家の秩序というものは、国民の自由(権利)を強制的に抑制する、すなわち国民に多少の犠牲を強いることで成り立つのである。 それを分かりやすく、しかも極端に体現しているのが静弦太郎という男だ。 また弦太郎は敵をひたすら殺しまくったりもするが、これも秩序を守るためだ。 体制を守るとはこういうことなのだ。 そこに佐々木守の痛烈な皮肉を感じ取るのは私だけだろうか。

かくして驚異のヒーローものとして出来上がったこの作品であるが、いかんせん視聴率は全然上がらなかった。 開始当初はまだ裏番組に「ミラーマン」があったとか、すぐに怪物番組「マジンガーZ」が始まってしまったとかいうのもあるが、いくらなんでもこれ、子供向け作品ではない。 こんな凄まじい主人公、情操教育上良くないぞ。 しかも変身ヒーローのアイアンキングはやたらピンチになるばかりで敵ロボットを倒すこともできないし、これでは子供に人気も出ない。 どこの子供がアイアンキングごっこをしたがるものか。

そのため最後にテコ入れ、ということだったのか、最後のタイタニアン編は前の2部とは全く異なるものになっている。 その特徴は、

  1. 敵が宇宙から来た宇虫人。故にありふれた侵略ものになった。
  2. なんだかストーリーがトホホになった。
  3. なんとアイアンキングが敵にとどめをさすようになった!
というもの。 変身ヒーローが敵を倒すという異色作品(あれ?)となったのだ。 が、それでも視聴率は上がることなく、そもそもこんな時期に視聴率が上がったって放送が延長されるわけでもなく、アイアンキングはひっそりと終わりを告げた。

が、この終わり方について一言。

最後はタイタニアンが全滅して、皆で砂浜で戯れるという青春ものみたいな終わり方をするのだが、これがくせ者。 そもそも、不知火族が滅んだ後は独立幻野党が、独立幻野党が滅んだ後はタイタニアンが何の脈絡もなく現れたのである。 そう、この作品はそういう世界。

ならば、タイタニアンが滅んだからとて次に何も現れないとは限らない。 いや、現れるに決まっている。 静弦太郎と霧島五郎は、これからも何度も何度も新たな敵と戦い、そいつらを滅ぼしていくだろう。 そこに体制がある限り、それを崩壊させようとする者は必ず何度でも現れるのだから。

何も終わっていない終わり方。 だがそれこそがアイアンキングらしい終わり方とも言えるだろう。

さあ、与えられた平和の中をのんきに生きる者達よ。 アイアンキングが弱いなどと言って笑ってないで、「国家を守るということ」を非常にストレートに描いたこの作品の深さをもっと味わいたまえ。

P.S.
この作品はゲストヒロインも多彩。一般の有名人から特撮ならではの有名人まで様々な女優が登場している。 要チェックだ。

敵の組織

不知火族

第1話〜第10話まで登場。 不知火太郎(堀田真三)を首領とする、日本の先住民族の末裔。 追放されて以来の二千年の怨みをこめて大和政権を打倒すべく、巨大ロボットを操り侵略活動を開始する。 その中心には不知火十人衆がおり、順一郎から順九郎までの九人の影がそれぞれ炎の形のコントローラを使ってロボットを操る。 だが十人衆最後の十番目の影の正体は仲間の間でも謎に包まれている。

独立幻野党

第10話〜第18話まで登場。またの名を幻兵団。 幻の月光(村松克己)をリーダーとし、「幻の睦月」から「幻の師走」までの十二人で構成される幻十二人衆が中核メンバー。 ドクロの形をしたコントローラで怪獣ロボットを操って大和政府の転覆を図る。 ロボットを「鋼鉄の同志」と呼ぶ、かなり革命に酔いしれている人たち。

タイタニアン

第18話〜第26話まで登場。地球を侵略しに来た宇宙人ならぬ宇虫人。 なぜなら彼らは巨大化し、虫の怪獣に変身するからである。 また、人間をボディジャックして思い通りに操ったりする。五郎もその犠牲となった。 1号から10号まで十人いるが、怪獣になったのは2号から7号まで。 たった10人で地球侵略に…と思わないこともないが、ゴリとラーよりましだ。 1号がリーダーで偉そうにしているが、全員同じ外見なので見分けるのは慣れが必要。 地球征服というスケールの大きな野望を持っていながら、とりあえず東京のマンションに基地を作ったりするスケールの小さい連中である。

登場人物

静弦太郎(石橋正次)
剣や鞭に変化する武器・アイアンベルトで敵を粉砕する無敵の男。武芸百般、天下無双の技の冴えは、巨大ロボットや怪獣を相手にしてもひけを取らない。 普段は陽気で人なつっこく、無邪気な笑顔がトレードマークのさわやかな男。五郎とはいつも掛け合い漫才をやっている。
だがいざ任務となると鋭い眼光を放ち、非情な鬼となる。例えば親しい人が人質になっても平気で見殺しにしようとするし、可愛い女の子でも敵をおびき寄せるための囮に使ったりもする。 しかしこれは全て己の任務のためで、エゴイストなわけではない。必要とあらば、仲間のために自分の身を投げ出すことでも平気でやってしまう男でもある。
女性に甘いような冷たいような、よく分からん男。しかし例えたるんだ笑顔を見せていても、その裏ではどんな非情なことを考えているか分かったもんじゃない。
非常に洞察力に優れ、何でもお見通しという鋭い男…のはずだったが、タイタニアン編あたりではそうでもなくなる。 しかし最終回まで五郎がアイアンキングであることに気付かない辺り、実は元々そんなに鋭くないのかもしれない。
霧島五郎(浜田光夫)
弦太郎の旅の道連れ。弦太郎のことを時に「弦の字」と呼ぶ。 人情に厚い性格で、シビアな弦太郎とは時々対立するが、大抵は異様に仲がいい。 アイアンキングに変身する能力を得て弦太郎をサポートする…というかサポートされてるというか。
いつも頭にかぶっているターニングハットを使い、「アイアンショック!」の掛け声と共にアイアンキングに変身する。 だがアイアンキングは1分しか活動できない。という割にはウルトラマンより長持ちすることも多かったようだが…。 アイアンキングのエネルギーは水のため、元の姿に戻った後は異様に喉が渇いてやたらと水を欲しがる。
アイアンキングは決定力不足が特徴で、これと言った決め技がない。敵と戦っても最後はいつも弦太郎が爆弾などで倒していた。 が、途中からなんだかよく分からない光線を多用するようになり、タイタニアン編ではそれで敵を倒すようになる。
高村ゆき子(森川千恵子)
第1話〜第6話まで登場し、弦太郎達と行動を共にした旅の女の子。白いギターを持っている。 髪型といいファッションといい、なんか凄いセンスだ。…と思ってたら、第5話から普通の髪型・ファッションになった。 本人曰く、高山植物の研究をしているらしい。
しかしその正体は緑川博士の娘・緑川ルリ子で、最後には本郷猛と共にヨーロッパに旅立ってしまう。…わけないだろ。 あ、ちなみに本当の正体は…ひ・み・つ。(ぉぇ〜)
弦太郎に惚れてしまうが、第6話で敵に殺されてしまう。最後は弦太郎に会うことなく、五郎の腕の中で息絶えたのだった。
藤森典子(左京千晶)
第19話〜第26話に登場。国家警備機構の一員で、弦太郎と五郎のお目付け役として二人に同行する。 非常に真面目で、お調子者の二人に対していつも口すっぱく説教する。 二人からは「てんこ」と呼ばれているが、本人はそう呼ばれるのを嫌がっている。 しかしいつもそう呼ばれてしまうので、あきらめたというか慣れたというか、すぐに文句を言わなくなってしまった。
津島博士(伊豆肇)
五郎を向かうところ敵だらけの巨大サイボーグ・アイアンキングにした張本人。名前は第1話から出ていたが、実際の登場は第19話から。 実は彼の正体は記憶喪失のまま国家警備機構に雇われていた光明寺博士である…わけないだろ。 最終回で五郎からアイアンキングに変身する能力を外そうとして事故で失敗、ところがそれが災い転じて福となしたラッキーな人。

全話リスト

とりあえずリストのみ
特撮メインページに戻る