ゴジラ

1954年11月3日公開
モノクロ、スタンダードサイズ
1時間37分

解説

言わずと知れたゴジラシリーズ最初の作品。 日本映画史上初の特撮怪獣映画であり、世界的にも非常に評価は高い。 公開当時はゲテモノ映画として評論家からは酷評されたが、結果的には観客動員数961万人の大ヒットとなった。

これは単なるモンスターパニック映画ではなく、反戦のメッセージを込めた作品である。 名もない人物の「長崎の原爆から命拾いしてきた」などという何気ないセリフ。 また、ゴジラの襲撃の際に逃げ遅れた母が子を抱いて「もうすぐ、お父ちゃまのところに行くの」と言うシーン。 ゴジラ襲撃後の、負傷者が廊下にまで溢れている病院、そして平和の祈り。 こういった細かい部分で、戦争映画を見ているような気分にさせてくれる。 これは数年前に戦争を体験した人達が作った、その時代の映画なんだと実感させてくれる。 この濃厚なメッセージ性は、ゴジラ映画史上この作品以外では見ることが出来ない。

そもそも核実験で眠りから覚めたという設定自体が強いメッセージ性を持っている。 が、以降の作品で登場する怪獣は核実験の影響で登場するというのが単なる方便になっている。 作品のテーマが違うとは言え、少し残念。

ゴジラを倒す手段となる、オキシジェンデストロイヤーの扱いも秀逸。 発明者である芹沢博士は、これが公表されれば兵器として使用されることになるという理由で使用を拒否する。 結局使用することになっても、絶対に兵器として使用されないように、全ての資料を廃棄した上に自らも死を選ぶ。 この映画では人類の英知がゴジラに勝ったのだなどと言いたいのではなく、科学のあり方を批判しているのだ。

ところでその芹沢博士、オキシジェンデストロイヤー使用に踏み切ったきっかけの一つが恵美子の存在。 彼は恵美子の婚約者候補だったのだが、戦争で隻眼となり顔もただれてしまったので身を引いている。 しかし今でも彼女を愛している。ところが当の彼女は彼を兄のようにしか感じていない。 彼女が愛しているのは尾形であり、その現実を目の当たりにした芹沢はそこで死を決意したものと思われる。 恐らくは、尾形の説得よりも東京の惨状よりも、恵美子が自分を見ていないということが彼に決意を固めさせたのだろう。 ここで悲しいのが、その心を理解している人間が一人もいないということだ。

彼を孤独にさせているのは戦争で受けた傷。それさえなければ彼も恵美子に堂々と自分の気持ちを打ち明けることが出来たろうに。 結局、ここでも悲劇の原因は戦争なのだ。ドラマの全てのベクトルが戦争に向いている。 なんと精巧なドラマ仕立てだろうか。

ところで、このオキシジェンデストロイヤーって一体何だろう。 水中酸素破壊剤と称されるこの代物。酸素を破壊したらどうして生物が白骨になるのか? 単に魚が水中から酸素を摂取できなくなって窒息するくらいじゃないのか?

いや多分これは、水を媒介して、あらゆる化合物に含まれる酸素原子そのものを破壊するものではないかと思う。 とすれば、生物の体には酸素原子なんて腐るほど含まれていることだし、体全体が崩壊するのも無理なきことかな。 恐ろしい発明だ。

ちなみに、作中でジュラ紀が200万年前と語られている。 実際と2桁ほど違っているのだが、これは間違えたのではなく、怪獣がいる世界を身近に感じさせようという演出だという説が濃厚。

ところでこの作品ではやはり、以降の日本特撮映画を支えた人材が揃っているのが感動。 本多猪四郎監督、特撮の神様・円谷英二、ゴジラ音楽を最後まで支えた伊福部昭。 それから特撮映画お馴染みの顔となる、平田昭彦に宝田明。 やはり日本特撮の原点がここにある。 ちなみに必殺シリーズの中村主水の母上でおなじみの菅井きんも出てるというのも有名な話。

なお余談ではあるが、読売テレビに「CINEMAだいすき!」という深夜番組がある。 あるテーマを決めて、そのテーマに合う映画を集めて一週間ほど毎晩放映するというもの。 そこで核がテーマになった時、一般映画に混じってセレクトされた映画のひとつがこのゴジラだった。 あの時は結構感動した。スタッフによく分かってる人がいるんだなあと思ったもんである。 このゴジラほどストレートに反核を訴えてる映画もそうはないと思うのだが、どうだろうか。

そしてこのゴジラの放映で大反響を得た読売テレビは以降、事あるごとに特撮映画を放映してくれるという快挙を成し遂げてくれたのである。 様々なOVAを放映してた「アニメだいすき!」も快挙だけど。

登場怪獣

ゴジラ (GODZILLA)

身長50m、体重2万t。

白亜紀に生息していた、海棲爬虫類から陸上獣類に進化する過程の巨大生物。 水爆実験の影響で眠りから覚めて、日本に上陸する。 最初に大戸島に現れたことから、島の伝説にちなんで名付けられた。

口からは放射能火炎を吐き、その際に背びれが光る。 核兵器にも耐える生命力を持っており、近代兵器と言えども通用しない。

ストーリー

大戸島付近で原因不明の沈没事故が続出した。生存者である大戸島の漁師は、巨大生物に襲われたという。 大戸島では厄ばらいの祭が行われたが、その晩暴風雨と共に何かが島に現れ破壊の限りを尽くした。

そこで大戸島の調査が行なわれることになった。南海サルベージの尾形、古生物学者の山根博士、その娘の恵美子らが大戸島に向かう。 島では一部の場所にだけ放射能が検出され、巨大な足跡からは絶滅したはずの三葉虫が発見された。 そして謎の足音が鳴り響き、山の向こうから巨大な生物が現れた。その生物は海に消えていった。

生物は山根博士の分析によって、白亜紀に生息した爬虫類の生き残りが原水爆実験によって眠りから目覚めたものと断定された。 生物は大戸島の伝説にちなんでゴジラと名付けられ、災害対策本部が設置された。 そしてゴジラが潜む海域にフリゲート艦隊による爆雷攻撃が行なわれた。それを見る山根博士の顔は暗い。

が、やがて、ゴジラが何事も無かったかのように再び姿を現した。山根博士が対策本部に呼び出される。
「いかにしたらゴジラの生命を絶つことができるか、その対策を伺いたいのです」
「それは無理です。水爆の洗礼を受けながらも、なおかつ生命を保っているゴジラを、何をもって抹殺しようというのですか」

山根博士の愛弟子だった芹沢博士がゴジラ対策に役立つ研究をしているというネタを掴んだ記者の萩原は、恵美子に頼んで博士を訪ねる。 が、萩原は体よくあしらわれて帰る羽目になる。しかし芹沢は恵美子には自分の研究を見せる。誰にも言うなと念を押して。 そしてその研究成果を見て悲鳴を上げる恵美子。恵美子が見たものは…。

その晩、ついにゴジラが東京に上陸した。破壊を重ね、ゴジラは海に消える。 そこで海岸線に高圧電流の流れる鉄条網が張り巡らされ、防衛隊が再上陸に備えて待機する。 そしてゴジラが再び上陸する。高圧電流や防衛隊の攻撃をものともせず、ゴジラは辺りを炎の海に変えつつ都心部へと進んでいく。 やがてゴジラは悠々と海に消えるが、東京は焼け野原と化してしまった。

病院に溢れかえる負傷者達。その惨状に耐えられない恵美子は、尾形に芹沢の研究内容を告げる。 あの日、恵美子が見たものは、水中の酸素を一瞬にして破壊し尽くしてしまうオキシジェンデストロイヤーだったのだ。 砲丸大のものがひとつあれば、東京湾全体を死の海に変えてしまうという。 が、芹沢は研究の平和利用への道を見つけ出すために、誰にも秘密にしておいたのだ。

尾形と恵美子は芹沢を訪ね、オキシジェンデストロイヤーでゴジラを倒すように頼む。 しかし今のままでは悪用されかねない破壊兵器に過ぎない。芹沢はかたくなに拒絶する。 だが尾形の説得と、テレビに映し出される惨状が芹沢の心を動かす。 芹沢は全ての書類を焼き捨て、オキシジェンデストロイヤーの1回限りの使用を決意する。

芹沢は尾形に頼み込み、自らもゴジラの眠る海に潜る。 そしてゴジラのところにたどり着いた芹沢は尾形を先に浮上させ、オキシジェンデストロイヤーを作動させる。 が、芹沢は浮上しようとしない。命綱を断ち切る芹沢。 白骨と化すゴジラ。芹沢もまた、オキシジェンデストロイヤーの秘密と共に海に消える。 悲しみの中、山根博士はつぶやく。
「あのゴジラが最後の一匹だとは思えない。もし、水爆実験が続けて行なわれるとしたら、あのゴジラの同類がまた世界のどこかに現れてくるかもしれない」

スタッフ

製作...田中友幸
原作...香山滋
脚本...村田武雄・本多猪四郎
音楽...伊福部昭
特殊技術...円谷英二
監督...本多猪四郎

キャスト

尾形秀人...宝田明
山根恵美子...河内桃子
芹沢大助...平田昭彦
山根恭平...志村喬
田畑博士...村上冬樹
萩原...堺左千夫
大沢婦人代議士...菅井きん

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