美女と液体人間

1958年6月24日公開
カラー、東宝スコープ
1時間27分

解説

いわゆる変身人間シリーズ第1作。(「透明人間」は含まれないのね…) 東宝お得意のパターン、核汚染によって体が液化した人間が、人間を襲いまくる。 なんと核に汚染された船が第二竜神丸なんていう、いかにもな名前。 露骨過ぎるほどの反核メッセージがひしひしと感じ取れる。

原作者の海上日出男という人は俳優。 「地球防衛軍」に出演中にこの映画の発想を得たとのこと。 だが、映画化が決定した日に心臓麻痺で亡くなられたそうである。

さて、内容の方はどうなのか。 ドラマのメインは麻薬ギャングをめぐる犯罪捜査。 そして警察は液体人間の存在など全く信じず堅実な捜査を続ける。 こういう映画は現実的な展開を続けることでその中の非現実さが際立つものだから、こういう展開は良し。

しかし物足りないとすれば、液体人間の扱い。 液体人間が積極的にドラマに参加してくれないのだ。 これは、液体人間がその意志を明確に現してくれないせいである。 作中でも、液体人間に人間の意識が残っているのかどうかは不明とされている。

そのため、液体人間の襲撃が単なる不運な事故になっている。 メインキャラの一人、新井千加子の周辺で事件が多発するのも全く理由がなく、単なる偶然にしかなっていない。 そもそも液体人間がなぜ人を襲うのかも全然分からないままなのだが。

それならそれで、このような状況下における作中人物達のドラマをもっと掘り下げてくれているといいのだが、そういう作りにもなっていない。 液体人間の存在を信じない警察側と、その存在を確信している化学者。 そして立場が不利になっていく千加子を、化学者側が支える。 一応こういう関係になっているのだが、何かあっさりしていて、ドラマとしていまひとつ深みがない。 千加子は別に容疑者ではないし、誰かが液体人間のせいで無実の罪を着せられたわけでもない。 そのため、警察と化学者との間の確執に緊迫感が出ないのだ。

どうせなら、せっかく元が人間なのだから、液体人間にもっと明確な意思を持たせてドラマにからめてはどうだろう。 例えば、実は仲間に裏切られた三崎が液体人間になっており、千加子を守るため、そして仲間に復讐するために千加子の周りに現れるとか。 …って、どっかで聞いたような話だな。 あ、「怪奇大作戦」の「光る通り魔」だ。 そういう話が好みならそっちをどうぞ。

まあとにかく、なんか物足りないというか消化不足というか、そういったものを感じさせる作品である。 しかしまだこういう路線の第1作であることだし、不慣れな感じはやむを得ないところか。 そしてこの不満は、変身人間シリーズが作品を重ねる度に内容が洗練されていくことで解消されていくものである。 まずはその原点としてこの作品をお楽しみ下さいといったところか。

なおこの映画、状況設定が怪獣映画より日常的なせいか、妙に生活感溢れるセリフが飛び出すことがある。 しかもそれが時代を感じさせて微笑ましい。
テレビ、三面鏡…大したものを揃えてるそうだね」
「遊んでる三崎にどうしてそんな贅沢品が買えるんだ!」
とか、麻薬を手にして
「おめえがその気になってさばいたらトランクいっぱいの5千円札だよ」
とか。 うーん、いいなあ。

ストーリー

遠洋漁業中の第二竜神丸が、近海での核実験後に消息を絶った…。

ある雨の晩、一人の男が何発か発砲した上、服だけを残して消失した。 警察の調べで、その男は麻薬を盗んで逃走するところだったことが分かる。 遺留品からその男・三崎の家を当たる警察。そこにいたのは、三崎の情婦の新井千加子だった。 警察は彼女を泳がせて三崎を捕まえようとする。

警察は千加子に接触してきた男を捕まえた。その男は富永捜査一課長の友人で、生物化学者の政田だった。 政田は、雨に含まれていた放射能によって三崎の肉体が溶けたのではないかという仮説をたてていた。 だが富永は笑って取り合わず、彼を釈放する。

一方、家に戻った千加子の前に、三崎を探す男が現れた。 男は拳銃で千加子を脅し三崎の行方を聞き、窓から逃走する。 が、その直後に男の悲鳴と銃声が響き渡る。 張り込んでいた刑事が飛び込んでいくと、雨降る道には男の服と拳銃だけが残されていた。

富永の元にまた政田が現れる。そしてまた今度の事件のことを聞き、政田は富永を病院へと連れて行く。 そこには漁船に乗っていて恐怖の体験をした男がいた。 漂流船を見つけて中を調べてみると、何もかも揃っているのに人間だけがいない。 そして謎の液体が乗組員を襲い始めた。それに触れると跡形もなく体が溶けてしまうのだ。

その漂流船は第二竜神丸だった。そして病院に収容された男は、その船に少しいただけで重度の原爆症に侵されてしまっていたのだ。 政田は富永に、放射能でガマを液化する実験を見せる。ガマの細胞は液体に変質しながらも生きていた。 三崎が、第二竜神丸から上陸した液体人間に襲われたとしたら…? だが警察ではそんな話は信じられない。

警察の捜査は難航していた。いら立つ富永は、政田の話に全く耳を貸さない。 政田は第二竜神丸が東京近郊まで漂流してきているのを調べていた。 政田達は、今回の事件が第二竜神丸と密接に関係していることを確信したのだ。

一方の警察は千加子からの情報を元に、千加子の務めるキャバレーに訪れる客を逮捕し始める。 が、そこへ液体人間が襲来。刑事一人を含め、人間達を何人も溶かしてしまう。 富永達も液体人間を目撃しその存在を認め、ついに事は公となる。

高圧電流と火炎放射による液体人間掃討作戦が開始されることになった。 しかし麻薬ギャングの主犯格の男・内田はいまだ逃走中だった。 そして千加子が内田に誘拐される。 内田は以前から彼女に目をつけていたのだ。

下水道で隠していた麻薬を取り出した内田は、千加子を連れて下水道を逃亡する。 だが液体人間掃討作戦のせいで作戦部隊が展開しているため、思うように逃げられない。

政田は、下水から千加子の服が流れてきたのを見て下水道に入り込んでしまった。 そして、掃討作戦は開始された。 片や逃げ回っていた内田と千加子。ついに内田は液体人間に溶かされてしまう。

政田はあわやと言うところで千加子を発見し、保護する。 そして火炎放射とガソリンによって、下水道は火の海に包まれる。 液体人間達はその炎の中に消えていくのだった。

『もし地球が、死の灰に覆われ、我々人類が、全滅した時、次にこの地球を支配するのは、液体人間であるかもしれない』

スタッフ

製作...田中友幸
原作...海上日出男
脚本...木村武
音楽...佐藤勝
特技監督...円谷英二
監督...本多猪四郎

キャスト

新井千加子...白川由美
政田助教授...佐原健二
富永捜査一課長...平田昭彦
宮下刑事部長...小沢栄太郎
真木博士...千田是也
内田...佐藤允
田口刑事...土屋嘉男
坂田刑事...田島義文

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