モスラ

1961年7月30日公開
カラー、東宝スコープ
1時間41分

解説

世界一斉公開された、制作費2億円の超大作。 怪獣ものというよりはファンタジー。そんな言葉が似合うのがこの映画。 普通、怪獣が単体で現れる映画は町を破壊して暴れ回る怪獣とその撃退法を描くのだが、この映画はそんなことはない。 いや、見かけは似てるんだけど、質が全然違う。

悪いのは欲に目が眩んだ人間の方で、モスラはむしろ純粋であり正しい。 だから、街を破壊しているにも関わらず思わずモスラの方を応援してしまう。 人間はやむを得ずモスラを撃退しようとするのだが、モスラはあっさりと攻撃をくぐり抜け、更に強くなっていく。 見ているとそこに爽快感を覚えるのである。

しかし、悪人のネルソンがどうしてあそこまで小美人に固執したのかよく分からないなど、問題点がないこともない。 が、そんな細かい疑問を吹き飛ばすだけのパワーが映像から溢れている。

この映画の見所は、なんといっても三段変身するモスラの美しさ。 特に、東京タワーをへし折り繭をはるシーンは特撮映画史上屈指の美しさを誇る。 いや、でもよく画面を見てると、東京タワーを折ったのはモスラじゃなくて防衛隊のミサイル攻撃に見えるんだけど…。(そんなこと言っちゃいやーん)

その他、豪華客船をあっさり潰すシーンも有名だし、都内をモゴモゴと進撃するシーンも非常にそれっぽい動きで良い。 更に、成虫となり飛び立つモスラの羽ばたく様子など。 とにかくモスラの動きのひとつひとつが芸術品だ。 なんと、人間が中に入れる長さ10mの巨大な幼虫の着ぐるみ(?)も使われたらしい。 モスラの動きをリアルにするためのこういったこだわりが、この芸術的映像を生んだのだ。

非常に細かい部分にまで気を配られた美しい映像と、ファンタジックなストーリー。 この映画は怪獣映画の新境地を開いたと共に、ある意味での頂点に達した作品ではなかろうか。

登場怪獣

モスラ (MOTHRA)

巨大蛾。卵から幼虫として生まれ、繭をはってサナギとなり、成虫となって飛び立つ。 小美人のテレパシーを受けて行動し、小美人の危機に際しては彼女たちを助けに向かう。 が、善悪の区別がつかないので、途上のあらゆるものを蹴散らして突き進んでいく。 本来温厚な性格で悪気はないのだが、迷惑この上ない。

卵は長径100m、短径65m。重さ100t。
幼虫は40mから180mまで成長する。
成虫になると翼長250m。体重1万5千tになる。

幼虫の時には粘着質の糸を吐く。これは繭をはるために使用する他に、武器にもなる。 後にゴジラを倒すのがこれ。侮れない。

成虫になると、マッハ3で空を飛び、風速500mの突風を巻き起こす。 また、羽根からは猛毒の鱗粉を撒き散らすが、これも後にゴジラと戦う時の話。

か弱い平和の使者、といったイメージがあるが、こうしてみるとゴジラやラドンなんかより芸が細かい。 実際、後の活躍をよく見てみると、ゴジラやラドンをあしらう強さを見せている。 うーむ、実は最強の怪獣だったりして。

ストーリー

台風の直撃を受けた大型船が、ロリシカ国の核実験場であるインファント島付近で沈没した。 そして遭難者がインファント島で見つかったが、なんと彼らは全く放射能に汚染されていなかった。 それは不思議な赤いジュースのおかげらしい。更に驚いたことに、彼らはそのジュースを島の原住民からもらったという。 インファント島は無人島のはずだ。

そこで日本・ロリシカ共同でインファント島に調査隊が派遣されることになった。 そのメンバーには言語学の権威、中條博士などが選ばれていたが、隊長はロリシカから来た経歴不明の謎の男ネルソンだった。 そして調査隊は報道陣シャットアウトとされたが、日東新聞の記者、スッポンの善ちゃんこと福田善一郎はちゃっかり船に乗り込むことに成功する。

やがて調査隊はインファント島に到着し、調査を開始する。 単独で調査を進めていた中條博士は謎の碑文を発見するが、吸血植物に襲われる。 そして気を失う寸前、彼は身長30cmほどの小さな二人の女性を見た。

翌日、彼は再び彼女達−小美人−を呼び出すことに成功する。が、ネルソンは彼女達を捕まえて持ち帰ろうとする。 ところがそこに原住民たちが現れ、彼らを包囲する。 そして原田博士や中條博士から非難され、ネルソンは渋々彼女達を解放する。原住民たちは引き下がった。

調査隊が日本に帰って来た。が、調査内容は全く公開されなかった。 そして中條博士は碑文を独自に解読し始めた。彼はそこにモスラという謎の単語が何度も現れているのに気付く。

一方、ネルソンは密かに再びインファント島に渡り、原住民たちを惨殺して小美人を奪っていた。 そしてネルソンは彼女達を見世物にした興行を開始する。 立ち見まで溢れかえるその会場で、彼女達の歌声が響き渡る。

福田や中條はネルソンに抗議に行き、小美人になんとか会うことができる。 するとなんと驚くべきことに、彼女達は彼らの言葉を理解した。 そして彼女達は、自分たちは島へ必ず帰れるがそのために日本に不幸が訪れると言う。
「モスラが、来ます」
「モスラ?」
「モスラが、来るのです。私たちを助けに」

インファント島では島民達によって祈りの儀式が行なわれていた。 そして巨大な卵から、モスラが孵化する。 モスラは小美人の歌声に引かれるように、彼女達を求めて日本へ向かう。 途上で出会った豪華客船を無造作に真っ二つにし、ただ一直線に日本へと。

だがモスラの接近は自分たちとは無関係として、ネルソンは福田たちの非難を全く無視する。 そんな中、洋上のモスラへの攻撃が開始され、モスラは炎の中に消える。 が、モスラは死んでいなかった。 都内のダムの中から突如現れたモスラは、ダムを決壊させてまたしても姿を消す。

世間の非難は更に高まるが、ネルソンは小美人を手放そうとしない。 が、それまで強硬な態度に出ていたロリシカ政府もついに折れ、ネルソンから小美人の所有権が剥奪される。 しかしネルソンは既に小美人を連れてどこかに逃亡していた。

一方、再びモスラが現れる。 町中に進んできたモスラに、空から陸から総攻撃が開始される。 平然と進撃するモスラも、東京タワーにたどり着いた頃には動きが鈍くなっていた。 が、それはモスラの最期を意味するものではなかった。 東京タワーをへし折ったモスラは糸を吐いて繭をはり始めた。成虫になろうとしているのだ。

ロリシカの協力を得て、モスラが成虫になる前に倒すべく原子熱戦砲が用意された。 そしてその威力の前にモスラの繭は炎に包まれる。 一方、ネルソンはロリシカへと逃げ延びていたが、モスラ死滅のニュースを聞いた彼は油断して小美人のテレパシー遮断壁を外してしまう。

しかしモスラは生きていた。黒焦げの繭の中から、更に巨大となった成虫が飛び出す。 辺りを突風で吹き飛ばし、モスラはロリシカへと向かう。 やがてモスラはニューカークシティーに到着し、小美人を求めて暴れ回る。

追いつめられたネルソンは市民たちに包囲され、一人逃げようとして警官に射殺される。 そしてロリシカの要請でやって来た福田たちは小美人を受け取るが、モスラが怒って暴れ回っているためうかつにテレパシー遮断壁を外すことができない。 そこで教会の鐘の音にヒントを得た中條は一計を案ずる。

3時に一斉にロリシカ中の教会の鐘が鳴らされ始めた。 小美人の歌声を思わせるその鐘の音を聞き、モスラはおとなしくなる。 そして、モスラの紋章が描かれた飛行場へと降り立つ。

福田たちはそこで小美人を解放する。 小美人を乗せたモスラは、静かにインファント島へと帰って行くのだった。

スタッフ

製作...田中友幸
原作...中村真一郎・福永武彦・堀田善衛
脚本...関沢新一
音楽...古関裕而
特技監督...円谷英二
監督...本多猪四郎

キャスト

福田善一郎...フランキー堺
中條信一...小泉博
花村ミチ...香川京子
小美人...ザ・ピーナッツ(伊藤ユミ・伊藤エミ)
クラーク・ネルソン...ジェリー伊藤
原田博士...上原謙
国立核総合センター院長...平田昭彦
ヘリコプター操縦士...佐原健二
防衛長官...河津清三郎
天野貞勝...志村喬
中條信二...田山雅充

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