gijyut1.jpga.jpg (47852 バイト)

  巨樹・古木の悲鳴

                          樹木医 安田邦男の体験談 1

 

多くの巨樹・古木は大きな傷を持っています.

その傷の原因を調べることは樹木医にとって大切な仕事の1つです.

原因のいくつかを調べてみましょう.

自然災害  

   天災と呼ばれる災害のうち最も大きな被害を与えるのはやはり

   台風でしょう.太い枝が付け根からポッキリと折れてしまう.

   枝の内部が腐朽していることもありますが健全な枝が折れて

   しまうこともあります.折れた個所からは腐朽菌が侵入し,

   幹までも腐らす原因になります.

   高くそびえる巨木はにがよく落ちます.大きな威力の雷は

   樹木を裂いて倒してしまうこともあります.写真 1のように

   小さな威力の雷でも樹皮をはがしてしまいます.

   このまま放置すると腐朽菌の侵入の門戸となりますので

   早く自らの治癒力で樹皮を再生しなくてはなりません.

   ほんの少し手助けすると腐朽菌は侵入できずに樹皮が

   再生します.

                              富松落雷.jpg (31858 バイト)

        (写真は落雷により樹皮がはがれたクスノキ)

   腐朽菌は一度侵入すると少しずつ樹木をむしばんで行きます

   内部を侵食すると子孫を残すためきのこを発生させ胞子をばらまきます

            マツオオジ.jpg (23140 バイト)

           (生きたマツに侵入したマツオウジ)

これらの他に虫や病気による災害も多くあります.自然災害には勝てない

ですが必死に抵抗する樹木の姿はすばらしいですよ.

人的災害  

    「寄らば大樹の陰」の言葉どおり人は巨木の近くに住むように

    なりました.生活が始まると根が伸びている場所を利用する

    ようになります.長い年月踏み続けられますと土が固まってしまい

    地下に水と空気が浸透しなくなります.その部分の根が枯れ,

    その分だけ枝と葉が少なくなります.少しづつなので気付かれずに

    時間が過ぎます.その期間は20年いや50年くらいのことが

    よくあります.気付いた時にはかなり衰弱した樹木になって

    しまっています.

根元はゴミ捨て場?

    何らかの理由で根が土中に入らない時,根は次第に地表に

    上がってきます.

    付近で土が不要になると,この上がった根の上に捨てることがあります.

    根は呼吸が出来なくなり枯れてしまいます.樹木は自分にとって一番

    過ごしやすいところに根を伸ばしているのです.

     根元は決してゴミ捨て場ではありません.

            露出した根.jpg (36615 バイト)

           この状態で健全な生育をしている

根元に土が盛られると

   根が自らの幹を締め付けるような根が出来てしまう

   幹が太ることにより根が食い込むようになります.

   写真は食い込んだ根をはずした状況です

         幹に食い込む根.jpg (46044 バイト)

幹に鉄線などが巻かれた時

   幹が太ることにより食い込むことがあります

           松の緊縛.jpg (71537 バイト)

この写真は2段に鉄線がまかれていました.ゴムタイヤで保護は

されていたのですがもっと早くに外して欲しかったでしょう

腐らない支柱

防腐加工された支柱は腐りにくいので太る樹木を縛り付ける

ことになります。生長のよいことがあだになりました。

最近のシュロ縄も腐りません。根づいたら早いうちに

はずしてあげましょう。

腐らない支柱.jpg (19063 バイト)

腐らないシュロ縄

最近のシュロ縄は鉄線と変わりません

働きが済む頃には腐るからシュロ縄を使っていたのに

写真のような光景が目に付くようになりました

生産者は何を考えているのですかね

         腐らないシュロ縄.jpg (8549 バイト)

このように天災や人災による被害をこうむりながらも自らの力で回復しています.

しかし自己治癒能力の限界をこえた障害は取り除くことが出来ません

あなたの周りの樹木にこのような状況が生まれたら出来るだけ早くに

解消してやって下さい.