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(村川一郎 丸善ライブラリー 平成6年8月30日発行 602円)
日本の官僚についてのかなり良くまとまった本であると思います。「なぜ官僚はこのようになるのか」という原因面からきっちりと書かれていて、しかもあまり感情的にならずに、しかし指摘するべき所は指摘されています。 ただ、基本的に断定で話が進んでいき、調査や分析過程については書かれていないのがちょっと気になりますが、まあ新書サイズの本であることを考えると、それで良いのでしょう。 官僚については色々言われていますが、私が不思議なのは、官僚というのはみんな悪者なのか? という事だったりします。雑誌や新聞などで官僚の体質については云々されていますが、「官僚自身は、自分たちが言われていることについてどう思っているのだろう? 自分たちは悪の組織だと開き直っているのか、それとも本当に一生懸命にやっていることが結果として悪く出ているという事なのか?」と。 そんな疑問を長らく抱えている時に出た『霞ヶ関の掟 官僚の舞台裏』(林雄介 日本文芸社)という本は、実際にキャリア官僚として働いていた著者(しかし官僚を辞めて民主党から出馬)が書いた本で、霞ヶ関の実態が良く分かる本ですが、これを読んでいると官僚たちは(非人道的とも言えるほどに)馬車馬の様に働かされていて、悪だくみをしている暇などなさそう(ただしその中でも色々な馬鹿げたことに縛られて、悪い方向に行っている面は多々あると見えます)。 「うううう〜ん?」と思っちゃいますが、しかし「真面目で優秀な20%の人がつらい思いをして働いていて、80%の官僚はうまく仕事をさぼっている」という様な事も書かれていて、ある程度なるほど、と。 『私物国家 日本の黒幕の系図』(広瀬隆 知恵の森文庫)という本では、ごく一部の高級官僚が官僚社会を支配し、なおかつ政治家たちと婚姻関係を結んで日本という国家を私物化している、ということがややエキセントリックに、思いこみ断定口調で語られるので「この本はどこまで信用できるのか?」という気もするのですが、一方で、人事権を握っている高級官僚がボスとして官僚世界をほぼ牛耳ってしまえることや、あるいはそれらの人々が政治家や実業家たちと婚姻関係を結んでしまおうとするであろう、という事にはかなり納得できるものがあります。というより、婚姻関係を結ぼうとするのは「当たり前」ですらあるでしょう(私は「そうか! なぜこんな当たり前で簡単なことに、今まで思い至らなかったのだろう!」とさえ思いました(^_^;)。 この『日本の官僚』でもこれらの事が語られています。いわく、大部分の官僚は恩恵にあずかることなどできず、本当に一生懸命働いている。ところが、「利け者(世渡り上手)」な一部の(高級)官僚は、政治家や実業家と利益配分、利権調整、婚姻関係で結びつき、「日本社会の選良」として自分たちのグループのために動き、下位の官僚たちを人事権と人脈で支配している……と。 また、明治以来、日本の官僚はエリート大学出身で政治家となる例も多かったので、「公務員」というよりは「支配者」「先導者」としての意識から抜け出ることがなかなかできない、とも。特に著者が力を込めているように見えるのは、官僚が一部大学出身者からほとんど合格者を出し続けてきたことで、これによっても「人脈支配」が横行している、官僚組織改善のため、この出身大学を幅広くしていくべきだ、と言っています。 この本で、官僚制度改革のために挙げられているのは「許認可権の縮小」、つまり規制緩和だということになります。「許認可権が縮小されれば、役人にとっては北極と南極が入れ替わってしまうほどの一大事となる」、つまり自分たちの都合のいいように行政指導が出来なくなるからです。というか、今までが、あまりにも役人たちの都合のいいように行政指導が可能な体制でありすぎたわけですが……。 この本では、この許認可権の縮小については「小沢(一郎)構想」が挙げられており、それ以外では「国民を政・官・財の共同体の一員とする」という事が語られていますが、具体的な面ではあまり紙幅は大きくありません。 私の思うところ、官僚の抵抗は激しく、また狡猾であり、あまり劇的な形での改革はなされ得ないだろうと思います。「小沢構想」と言っても、どこへやら……。ただ、小さな動きや不満の蠢動はここそこに見られると思います。長い時間をかければ、変わっていくことではあるでしょう。 それにつけてもここ最近思うのは、「民間のシンクタンク」の必要性です。日本の官僚が跋扈する一つの原因として、情報を持ち、企画する能力の高さでは日本では霞ヶ関に匹敵するものがなにもない、という事が確かにあるように思われます。ところが欧米先進国では、民間のシンクタンクがいくつもあり、独自に情報収集、政策提言を行っている。こういうものを、日本でもどうにかして作っていかねばならないのでしょう。国から予算を貰うんでなしに……。 ←書評の物置へ |