Fantastic Vision 新しく訪れた街で、ウルフウッドはミリィと共に買い出しに向かっていた。 普段なら、買い出しは大抵保険屋コンビの2人が済ませることが多いのだが、今回は珍しくこの組み合わせとなった。 理由は簡単である。街を訪れて早々にヴァッシュがトラブルに巻き込まれ、メリルはその後始末に追われる羽目となったのだ。 もっとも今回は人助けが含まれていたので、小言の絶えないメリルも強く文句が言えない所ではあるのだが。 「それにしても、ヴァッシュさんってホントに相変わらずですね〜」 「ホンマ、あいつとおるとトラブルが絶えんわ。ハニーも仕事とはいえ、かなわんやろ?」 「そうですねぇ。ちょっと大変です」 ミリィが心持ち上を見上げた。今までの出来事を回想したらしい。そして、人差し指を立てると隣を歩くウルフウッドに笑顔を向けた。 「あ、でも書類まとめるのがうまくなりました」 ウルフウッドが苦笑する。 「ちゅうことは、あいつもそれなりに役に立っとるんかもな」 えへへ、と照れ笑いを浮かべてから、ミリィは彼を見上げた。 「それに〜」 「ん?」 「牧師さんに会えました」 一瞬、ウルフウッドは返答に詰まった。 「…せやな、あいつがおらんかったらハニーには会えんかったわ」 今はサングラスのおかげで表情が隠れている。瞳を隠すだけで、心の内が読めなくなることは多いものだ。強い日差しから目を守る為の道具だが、こういう時も役に立つ。 この娘と会話をしていると、不意打ちを受けることが多いのだ。だが、話すこと自体は心地良い。 ウルフウッドをあっさりと動揺させた彼女は、相手の様子に気づくことなく、話を続けた。 「人の出会いって不思議ですよね。私、この会社に入らなかったら、先輩にも会えませんでした」 「……」 「大姉ちゃんが言ってたんです。出会いは大切にしなくちゃいけないって。昔はきちんとわかってなかったんですけど、今はその言葉の意味が少しわかったような気がします」 「…あんたの家族はええ事言うなぁ」 「そうですか?」 きょとんと見返すミリィに、ウルフウッドはようやく笑みを返すことができた。自然と優しい表情が浮かんでくる。 「当たり前のことかもしれへんけどな、それを口にしてくれる人がおるんとおらんのとでは天地ほど差があると思うで」 ミリィがうつむいて、少し考える。 時間をかけてから、やがて彼女はゆっくりと言葉を口に乗せた。 「私、いっぱい家族がいて、大兄ちゃん達や大姉ちゃん達にたくさんのことを教えてもらってたんです。いろんな、たくさんの言葉が胸の中にあります。…忘れてしまったこともあると思うんですけど、でも、そういうものも、たまにふっと思い出したりするんです。心に残る言葉って意味があると思うんですよね。だから、私もいろんなことを伝えたいです。伝えられたらいいな…」 「伝えとるで」 我知らず、ウルフウッドはこう口にしていた。その言葉が自分の発したものかと疑ってしまうほど、内心では驚いていたのだが。 ミリィが顔を上げた。その表情に不思議そうな、少し驚いた色が見える。 「ワイに伝わっとる。あんたが話してくれること、全部な」 もう一度同じ言葉を繰り返した。静かに染み渡るような口調だと、言った当人が思うのはおかしな話だが。 言葉が口をついて出る、というのは、こういう状態を意味するのだろうか。 ミリィの表情が、全開の笑みに変わった。 「はい!ありがとうございます、嬉しいです!」 弾んだ声に、はちきれんばかりの元気と喜びが溢れている。 それを見たウルフウッドの口元にも、笑みが刻まれた。 |
なんで、この娘の言葉はこうも直接響いてくるんやろうか。 望んどる言葉やからか? ワイにできんことをあっさりと選択する。 できへんことを、いとも簡単に。 あの男の行動は、見とうない。見るんが辛うなる…。 せやけど、この娘は。 この娘のことは、見ていたい…。 なんでやろうな? こんな娘は初めてやわ。 「あ。あった!」 傍らに風が起こる。ミリィの栗色の髪が揺れ、彼女は走り出した。 目的地の前に立ち止まり、ミリィがウルフウッドを振り返る。 「ダーリン、このお店ですよ〜」 声を聞きながら、ウルフウッドはサングラスに手をかけた。それを外して、懐にしまう。 前方を見ると、大きく手を振るミリィの姿がはっきりと瞳に映った。 明るい太陽の光を受けながら、笑っている。 小さく笑みを浮かべて、ウルフウッドは彼女のもとに歩み寄った。 |
──了 |
久しぶりのウルミリです〜。今回は今までよりも少し時間を戻して、フィフスムーン後にメリミリが合流した直後という時期を舞台にしています。「ハニー」、「ダーリン」と呼び合ってはいますが、フィフスムーン前よりも少しだけ親しくなった頃です。 言葉には、色々な想いが込められていますよね。そんなひとつひとつの気持ちと共に、人から人へと伝えられる言葉には、不思議な力が宿っているように思います。 ミリィの言葉に宿るのは、暖かな想いではないでしょうか。孤独なウルフウッドの琴線に触れることのできる彼女の言葉によって、彼自身もまた少しずつ変わっていったような…そんな気がします。 |