【 蛇足 】 「は、はあ〜〜きゅしゅん!!」 鼻水を垂らしながら、ヴァッシュは大きなくしゃみをした。顔が赤く、熱もあるらしい。 「オンドレでも風邪ひくんやなあ」 「どういう意味?」 ニヤっと笑うウルフウッドを、ヴァッシュは鼻をズビズビいわせながら睨み付ける。 「みごとにうつりましたわね」 やれやれとでもいわんばかりに、メリルは苦笑が隠せない。トンガリ頭は面目なさそうに、枕を抱きしめていた。 ウルフウッドの風邪が全快した。しかし、それと入れ違うように今度はヴァッシュが風邪を引いてしまったのだ。 牧師曰く「天罰や!」 「具合はどうですか、ヴァッシュさん」 濡れたタオルを替えながら、ミリィが聞いた。 「もう、最悪だよ〜。頭痛いし、喉も痛いし、鼻水は出るし……」 「温かくしてゆっくり休むしかありませんわ。大人しく寝て、早く良くなってくださいね」 「うん……」 誰かと違い、とっても優しい女性陣に、ヴァッシュは甘えるような声で答えていた。 …………しかし、 「あっ、先輩。もう時間ですよ。早くしないと!」 「あら、いけない。それじゃ失礼しますわ、ヴァッシュさん」 彼女たちが急にバタバタし始めた。病人の心に一抹の不安がよぎる。 「えっ? 保険屋さん達、いっちゃうの〜?」 「それが急な仕事が入ってしまって、私たち、3,4日の出張ですの」 「そんなあ……くしゅん!」 翡翠色の瞳をうるうるとさせて、精一杯かわいこぶってみせたりして。 「せんぱ〜い。ヴァッシュさんが捨てられた子犬みたいな目をしてる〜。なんか、かわいそう……」 「私だって病人を残していくのは心苦しいですわ。でも仕方ありませんのよ。とっても重要なお仕事なんですもの」 「ふにゅ〜、そうですよね。ヴァッシュさん、なるべく早くお見舞いに戻ってきますからね」 「ヴァッシュさん、大丈夫ですわ。私たちが留守の間は、ウルフウッドさんが面倒を見てくださいますわよ」 それが一番心配なんだーっと、ヴァッシュは思いっきり叫びたかったが、空気を多めに吸ったためか思い切りせき込んでしまった。そのかわり、ウルフウッドが満面の笑顔で女性達に応える。 「おう、まかしとき!」 「では、いってまいりますわね」 ニコッと笑って、 保険屋さんたちが部屋を出ていく。あとには病人と…………そして悪魔が残された。 「あ、待ってよ、げほ、げほ ごほっ、ごほっ」 「ごゆっくり〜……さて」 ウルフウッドの目が一瞬、心なしか妖しい光を放った……ように見えた。ヴァッシュは思わず身をすくめる。 「ギクッ」 「オンドレのことは、ワイがちゃあ〜んと面倒みたるさかい安心し」 優しい笑顔とは裏腹に、男の声は明らかに棘を含んでいた。 「うっ、そんな気を使わないでも」 「いいや。ワイが病に倒れ伏しとるとき、オドレはワイをめいいっぱい、からかい……いや、看病してくれたさかい、今度はワイがた〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぷり、礼したるよって。なあ、ト・ン・ガ・リっ」 言葉の内容は感謝で溢れているのに、ウルフウッドの様子と来たら、指をボキボキとならさんばかりだ。ヴァッシュの不安はさらに広がるばかりである。 「や、やだなあ、そうだっけ?」 「ああ。まあ、ワイにまかしとき!」 イスにかけてあったエプロンを身にまといながら、ウルフウッドは上機嫌だ。 「えーと、まずは栄養をたっぷりとらなあかんな。ちょっと料理してくるわ。チャーハン、五目焼きそば、ステーキ、ブイヤベース……なんにしよか?」 「ちょ、ちょっとーっ! 病人に、そんなこってりしたもん食わす気!?…………がほ、ごほ、げほ、がほっ!!」 「まあ、楽しみにしとけや。ちゃ〜んと、あ〜〜ん、って、食わせたるから。ひゃ〜、ひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ!!!」 全然似合わないフリルのエプロン姿で、牧師は腰に手を当て高笑う。そして引きつった顔のヴァッシュを残し、台所の奥へ消えていったのだった。 「う、ウルフウッドお! ちょっと、ねえ、ねえってば!………………あ、ダメだ。熱が上がってきた」 ヴァッシュ、ベッドに撃沈す。さてさて、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの明日はどっちだ! …………この後は、みなさまのご想像にお任せしいたします(合掌)。
終わりっ!
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