「これでディープホールも一通り片づいたな」
 あまたのデビルが怖れる世界に対しての発言とは思えぬ言葉を放ち、刹那はワープゾーンを抜けてゆく。
「仮にもディープホールだってのに、よくまぁそんな発言ができるもんだ」
 隣で呆れ顔を向けるクールに刹那は笑う。
「ゼットも言ってたろ?風通し良くしてくれってさ」
 クールの目がデビライザーに向けられる。
 事も無げに先程の刹那と同じ発言をしたディープホールの主は、本日は『気が乗らない』と出て来る様子がない。
 刹那とクールは最上階へと通じる魔法陣に入ると、ディープホールを抜け出した。
 クールがライトパレスの空気を大きく吸い込み、緊張を解く。
「で、これからどうするんだ?」
 刹那のデビダスはディープホールのデビルを網羅していた。当然ながら、ライトパレスのデビルは登録済みである。
 半ば諦めた上での質問だったが、刹那は全く気にしていない。
「ディープホールとライトパレスを回ったんだぜ。次は決まってんだろ?」
 ライトパレスのゲートからダークパレスに戻った刹那は、父親に挨拶をした後、クールを連れて意気揚々とセントラルランドのある施設へ向かった。


 プレゼントカップは白熱していた。
 ただでさえ、バトルネットの戦いは盛り上がる。その上、このプレゼントカップは勝者がレアデビルを入手できるという特典が付いているのだ。
 デビダスコンプリートを狙う刹那には欠かせないものだった。
 魔界を旅している間は関心を寄せる暇すらなかったバトルネットだが、一度遊んでみると、これが時間を忘れる程楽しいのだ。
 ライトパレスとディープホールの仲魔集めを先に済ませるため、一旦はバトルネットを離れた刹那だったが、その目的を達した今、何の憂いもなくバトルネットに夢中になっている。
 そして、刹那はプレゼットカップを制するべく、ほぼ毎日のようにヴィネセンターに通っていた。
 バトルネットには、どこかで聞いた名前を含めて、様々な対戦相手が現れる。
 ヴィネセンターの端末を介しての戦いになるので、直接対戦相手の顔を見ることはないが、たまに意外な人物が対戦相手となる事もあった。
 未来やゼットはその最たる相手だろう。二人とも流石に手強く、互いの勝ち負けは同率だった。
 そして。
 今日の刹那の対戦相手は、Nとしか名乗らなかった。今回が初対戦らしく、これまでのデータもない。
 刹那にとって、詳細データを持たない相手との対戦は初めてだったが、バトルが始まればそんなことは二の次である。
 だが、この相手は強敵だった。
「……負けた!」
 ぎりぎりまで粘ったのだが、相手の方が一枚上手だった。
 こういう惜敗の場合、再戦に燃えるのが刹那の常だ。
 しかし、今回は相手を賞賛したい気分だった。
「大した腕だな。でも次は負けないぜ」
「再戦より、やりたいことがあるんだけど」
 突然、しかも同じヴィネセンターの一角から飛んできた声に、刹那は固まった。
 同じヴィネセンターからバトルネットで戦っていた、その偶然に驚いたわけではない。
 刹那はゆっくりと振り向いた。
 静かに歩み寄る少年の姿を認めた途端、思わず声を上げてしまう。
「な、なな永久!?なんでおまえここにいるんだ!?」
「それはこっちの台詞だよ。せっかく地上に帰ってきたっていうのに、兄さんはデビダスコンプリートを目指して、毎日毎日魔界に入り浸りでさ」
 心底狼狽している刹那に向けられる弟の目は冷たい。
「別にそればっかりってわけじゃ……」
「そうだね、ヴィネセンターにも通ってたっけ。こんなふうにさ」
 ちら、とモニターを見やる永久に、刹那はぎこちない笑みを返す。
「……ほら、あれだよ、誰しも高みを目指すものじゃないか」
「ふーん。レアデビルがいるって聞けば東奔西走してるって話だけど?」
「だ、誰がそんな事」
 全身を緑の色彩で包んだ少年の姿が刹那の頭を過ぎる。
「未来ちゃん」
 てっきりゼットの名前が出るとばかり思っていた刹那は、意外な言葉に一瞬動きを止めた。
「……なんだって?」
「悩み事でもあるのかって心配してくれて。事情を話したら、アドバイスしてくれたんだよ。見事に的中したね」
「あ、永久君!お兄さんは無事つかまった?」
 そこへ、タイミング良く爽やかな笑顔と共に話題の当人が現れた。
 永久が笑顔で頷く。
「うん。ありがとね、未来ちゃんのおかげだよ」
「いーのいーの、気にしないで。たまには兄弟水入らずでゆっくりしてらっしゃい」
「うん。じゃあね」
 にこやかに進む二人のやりとりを呆然と見ていた刹那は、永久に腕を引きずられ、立ち上がった所で我に返った。
「ちょっと待て未来!」
 慌てて弟の腕を振り切ると、刹那は未来に駆け寄る。
「何よ、ほら永久君待ってるじゃない」
「そうじゃなくて!なんでお前が出て来るんだよ!」
「お隣の可愛い弟君が放蕩兄貴の心配してたんだもの。知らないフリなんて出来るわけないでしょ?」
 さも当然という未来の態度だが、どうも引っかかる。
 再び永久が刹那の腕をつかんだ。
「兄さん、ほら行くよ」
「ちょ、ちょっと待った、な?永久。五分だけ!」
「もう〜」
 口を尖らせる永久へ宥めるように笑いかけ、刹那は未来を振り返る。
 未来は腰に手を当てて軽く刹那を睨みつけた。
「ホント、刹那ったら勝手ばっかりして。永久君泣かせたら許さないからね」
「オレがそんなことするわけないだろ。いや、そーじゃなくて……」
 不意に、刹那の瞳が未来の腰に下げてあるデビライザーを捉えた。
 直後、刹那の頭にある事柄が閃く。
「あーーーー!」
 デビライザーを指差し刹那が叫んだ。
 未来はにっこりと笑顔を見せる。
「お前ハメやがったな!」
 現在デビダスコンプリート目指して魔界のあちこちを回り、バトルネットで戦っているのは刹那だけではないのだ。
 未来は肩を竦めて大仰に溜息をつく。
「嫌ねぇ、口が悪いんだから」
 しかし、刹那の発言を否定はしなかった。
 更に問いつめようと口を開きかけた刹那の腕を、永久が強く引く。
「兄さん、時間。ほら帰るよ」
「待て永久、オレにはまだやることがあるんだって!!」
「話は家でゆっくり聞かせてもらうから」
 とりつく島もない永久に無情にも引きずられ、刹那は泣く泣くヴィネセンターから連れられてゆく。
「勝負の世界は厳しいもの。ね、ベール」
 ライバルを笑顔で見送る未来の一言は、確かに正鵠を射ていたと言えるかもしれない。
 複雑な表情を浮かべたベールと、刹那と共にヴィネセンターを出るクールの視線が合う。
 デビルチルドレンのパートナーたちは、どちらともなく溜息をついた。


──fin


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<あとがき>
 デビチル短編第1弾。
 ちょっとコメディ風味の話が書きたくなりまして(笑)。
 コンプリートを目指すなら、こういうこともありかな、と。

 合体は赤黒それぞれ特色がありますので、一概にどちらが有利というわけではありませんが、
幅広く集めるなら黒、強化に勤しむなら赤、と言えるでしょうか。
 赤の純血合体はかなり使い勝手が良かったです。

 うちはやはり未来ちゃん最強かも。