「刹那、仲魔集めに付き合ってくれない?」 突然の未来の頼み事に、刹那は意外な顔を見せた。 既にデビダスはコンプリートしたと聞いている。 「一人で行けばいいじゃないか」 ディープホールですら単独で何度でも往復できるレベルの今、わざわざ刹那の力を借りる必要などないはずだ。 しかし、未来は両手をあわせて片目を閉じ、拝むような仕草をして見せる。 「刹那が一緒じゃないとダメなの。いいでしょ?ね、行こ!」 結局、強引な未来に半ば引きずられるように刹那はライトパレスへ連れてこられた。 無論、互いのパートナーであるクールやベールも一緒である。 「で、どのデビルだよ」 諦め顔で問いかける刹那へ、未来は起動させたヴィネコンから目的の一体をはじき出して見せた。 「この子なの」 しかし、デビルのステータスは綺麗に埋まっている。 「こいつ、もう仲魔にしたんだろ?」 「この子はね。でも、もう一体いるはずでしょ?」 刹那はよくよくその内容を確認した。 傍らでは、クールも同様に画面を覗き込んでいる様子が伺える。 茶目っ気たっぷりの未来の表情から、刹那はようやく彼女が自分を巻き込んだ理由に思い至った。 確かに、『もう一体』のデビルは刹那にしか遭遇できない。未来がいくら仲魔にと望んでも無理な話である。 しかし、刹那と未来の変則的パーティ編成ならば、仲魔にできうるのかもしれない。 無茶な話であることに変わりはないのだが、コレクター魂もここまで来れば立派だろう。 未来の背後でベールがこっそりと溜息をつき、クールと何とも言えない視線を交わす。 それを見て取った刹那の中に、このパートナーへ同情の念がわき上がった。 「さ、行くわよ!」 しかし、複雑な表情の彼らを余所に、上機嫌な未来は元気よく歩き出したのである。 |
ほどなくして、目的のデビルが出現した。おあつらえ向きに一体ずつ、計二体である。 「やったあ!予想通り!!ベール、捕獲!」 ……捕獲じゃなくて交渉だろう、という刹那の内心の突っ込みを未来は知る由もない。 ベールに威嚇され、追いつめられたデビルへ、未来はゆったりと歩み寄る。 「ダメージ受けて仲魔になるか、最初から大人しく仲魔になるか、二者択一よ!好きな方を選びなさい」 高らかな宣言をベールが通訳する。 未来に目を付けられたデビルは顔面蒼白だった。 無理もないだろう。レベルだけを見ても、未来はデビルのそれを優に二倍は上回っているのだから。 その様子を見た刹那の瞳に同情の色が宿る。 未来が相対しているデビルは思わず刹那へと救いを求める視線を向けてきたが、こればかりは彼にもいかんともしがたいもので。 ……結局、デビルは観念したらしい。 未来は笑顔で頷いた。 「賢明な選択ね。じゃ契約、と。あ!その姿、解いちゃダメよ?私は、あ・な・た・を捜してたんだから」 未来が念を押した直後、デビルの姿が消えた。おそらく、ヴィネセンターへ送られたのだろう。 とはいえ、果たしてヴィネセンター内で召喚を待つこのデビルがデビダスに登録されるかは甚だ疑問である。 だが、仲魔になったことに変わりはない。 未来が満足しているのなら、これでいいのだろう。 ……目を付けられたデビルにとっては、気の毒としか言いようがないのだが。 未来が刹那の方を振り向いた。 彼の傍らで残ったデビルがびくりと肩を震わせる。 しかし、未来はその様子に気づかなかったらしい。 「ありがと、刹那。助かっちゃった。じゃあね」 刹那の方はバトルが始まってもいないのだが、ベールを伴った未来は上機嫌で去って行く。 「なんか……あいつに同情しちまうよな……」 ぼそりと呟くクールのセリフが、全員の心を代弁していた。 刹那は肩を竦めると、取り残された感のあるデビルと顔を見合わせる。 「えっと……良かったら、君も仲魔にならないか?ああ、別に嫌ならこのまま立ち去っても構わないよ」 普段は仲魔に一任するはずの交渉を、つい始めてしまったのは、未来につられてしまったせいだろうか。 我に返ったものの、せっかく話しかけたのだから、と刹那は苦笑混じりでクールに通訳を頼んだ。 半ば呆然としていたデビルは、クールの言葉にこくこくと何度も頷く。 驚いたのは、交渉を持ちかけた当の本人である。 「え、いいのか?」 思わず聞き返した彼の言葉はすぐに理解したらしく、デビルはクールに何事かを告げた。 頷いて、クールは乾いた笑いを主人に向ける。 「あの子とまた会うのが怖いんだとさ」 「ああ、そっか……そうだよなぁ」 成程、このデビルの姿ならばもっともな話である。 苦笑が深くなるのをおさえられなかったが、刹那はこうして目の前の少女――未来の姿を模したデビル・ドッペルゲンガーと契約を結ぶことになったのである。 |
──fin
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