─2002 SUMMER TOUR─
嵐になるまで待って
(再々演)



「なんでもないよ、姉さん」

 波多野が誰かと何らかの形で衝突して、その場を取り繕った後、傍らの姉に話しかける言葉。
 大丈夫、心配しないで、と。耳が聞こえないために状況が解らず、何があったのかを問いかけてくる姉・雪絵へ、優しく微笑んで手話を交えて言い聞かせる彼。
 繰り返し思い出すのは、このシーンです。



 疑心を抱きつつも弟の言葉を信じて、常にその傍らにいる雪絵。
 姉を傷つけるもの全てを排除しながら、決してその顔を彼女に見せない波多野。彼が他者を害する行為の根底にあるのは、たった一人の姉を守りたいと願う、唯一無二の気持ち。
 …こういう設定に弱いんです…(泣)。


 波多野の台詞に被るもう一つの声。初めて聞いたときはインパクトが強くてびっくりしました。もうひとつの声が鋭い分、にこやかで人当たりの良い波多野の様子が却って恐怖心を煽りますね。この辺りはユーリに感情移入しているので、彼女が怯える気持ちが手に取るようにわかります。
 幸吉が声が出なくなったユーリの言葉を、あたかも心を読むかのように理解する所や、同じような能力を持つ人間がすぐ近くにいた、というのは出来すぎのような気もしますけど(笑)。(あ、でも幸吉は携帯で電話を受けていたから、相手がユーリだと知っていたから解ったのかな…?)
 幸吉も場面場面でさりげに笑わせてくれます。むしろ周囲を巻き込んで常に笑いを忘れないというか…(笑)。この辺りはさすが細見さん。
 そしてやっぱり楽しい西川さん。この人の話し方は聞いているととても安心できる気がします。精神科医という役はまさにぴったりなのではないでしょうか。
 ちなみにローカルネタ「スルッと関西」が嬉しかったです(笑)。

 今回主役の岡内さんを始め、若手メンバーが頑張ってますね。
 岡内さんは体当たりで演じていたという印象があります。…ただ、ユーリは自分の声が嫌いという部分が、どうも伝わりにくかった気がしますけど。(この辺りは、むしろ周囲の人物、幸吉や波多野や滝沢の台詞を聞く事で彼女が声を嫌っているのがわかった印象があります)

 嵐のシーンはとにかく迫力ありました。嵐の中の屋外シーンと波多野がユーリや幸吉を追いつめる緊迫した静寂のシーンと、そこからまた動きのはいるラストへのたたみかけはやはりすごいですね。細見さんは本当にガラス割ってるし、火薬の臭いもしていた気が。

 この芝居では実際に耳の聞こえない女優・忍足さんが出演しています。もちろん彼女のお芝居は手話なので、その場で台詞はわからないんですけど、その手話で話している時の表情や仕種を始め、他の役者さんが入れる合いの手、後からの説明で大まかな意味は読みとれると思います。
 クライマックスのシーンは無音状態だけど緊迫感があって…。角度のせいですが、この時の波多野と雪絵の表情が見えにくかったのがちょっと悔しくて。後で広瀬教授が雪絵が弟に向けた言葉を説明した時、改めてそのシーンを思い起こして、二度衝撃を受けた感じですね。
 後日、この波多野と雪絵の様子が見られました。「傘を渡しなさい」と話す雪絵の手を波多野がそっと握る、その波多野の手を押し戻して「私は一人でも大丈夫なのだから」と言う雪絵。この時の波多野が浮かべた表情と、その後の力無い笑みと…きちんと言葉にするのは難しいんですが、彼が全てを失ったのだと確信出来ました。最愛の、守るべき存在によって断罪された彼の結末は…やはりああいう形でしかありえなかったんでしょうね…。

 雪絵の手紙にあった「もう二度と私の前に現れないで下さい」という言葉は、逆に真実味が感じられた気がします。広瀬教授に会うことはできても、ユーリには会いたくないと思った彼女の素直な気持ちが伝わってきました。


 さて、今回波多野を演じていた岡田達也さん。
 元々岡田さんは少し気障な仕種や言い回しをする人だと思いますけど、そういう仕種を際立たせる時は大抵コケるシーンがあって、気障一辺倒という事はまれな気がします。決めるときは決めるけれど、どこかでコケるというか…(笑)。(すぐに浮かぶのはミスター・ムーンライトの石岡刑事だったりします)
 でも、この波多野は見事に格好良さが凝縮されている感じがしました。立場としては悪役になりますが、彼の心の底にあったのは姉を守りたいという気持ちであり願いでもあり、その純粋な想いが切なくて。
 ……無茶苦茶ツボでした。格好良すぎです(笑)。白いスーツがまた素敵でした♪

 ところで、このお芝居で使われているダンスの曲「The Riddle」。…これってひょっとして、波多野をイメージしたものなんでしょうか。歌詞がそう思えて仕方ないんですけど…。


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