THE LAKE OF SOULS |
「お別れです、閣下」 この展開、賛否両論あると思います。いえ、むしろ否定意見の方が多いんじゃないでしょうか…。ハーキャットの前世が何者であるかはともかくとして、その人物に再会する、というエピソードです。 でも。以前交わせなかった会話をする機会を得た事、そして、最後の挨拶を見られたのは…個人的に、嬉しかったです。 クレプスリーの死に打ちのめされるダレンを救ったのは、トラスカの優しさでした。自分の中の虚無に溺れてしまいそうな彼を助けたトラスカの言葉一つ一つが優しくて暖かいんです。身内を失う悲しみを知る彼女だからこそ、自分だけが不幸だと思うな、という言葉に重みがあって。自分のことで手一杯だったダレンにも、周囲の人の心配はわかっていたようですが…トラスカが、歩み寄る事ができなかったダレンと彼を気遣う周囲の人々の橋渡しをしてくれたからこそ、ダレンもようやくクレプスリーの名を口にして、その死を悲しみ、受け入れることができたんでしょう。 それにしても、デビーとアリスの申し出には驚きました。バンペットに対抗する人間達、という構図は想像だにしていなくて。人間の認識を変えるのは容易なことではありませんから、参加できる者がどれほどいるのか…。また、二人が抱いたバンペットへの危惧「敵がいなくなれば新たな敵を探す」は人間にも当てはまると思うんですよね。仮にバンパイアと人間の連合軍が勝利したとして、その後に争いが生まれる可能性も大いにありうるのではないか、と。最も、この段階でそこまで心配しても仕方ないんですけど。 バンパイアマウンテンでバンチャが取りなしてくれるのを期待する反面、またアリスを口説くのかなぁと思ってしまいます(笑)。トラスカとの仲はどうなってるんだろう。 デビーは今回、一途にダレンを想ってますね。自分の中で壁となっていた年齢差を乗り越えてからは気持ちに正直です。ただ、最初のダレンはクレプスリーの死のショック、次はハーキャットの事と、デビーと想いを交わすゆとりがないので、一方通行に見えてしまうのが難点かも。全てが落ち着いたら、周囲が呆れるような恋人たちになりそうですね(笑)。 アリスは前回にも増して戦う女性という感じがします。人間であることが揺るぎなく根底にあるのでバンパイアとは少し異なるようですが、強い女性です。 ちょっと話が飛びますが、中盤に声を大にして叫びたくなったこと。 巨大ヒキガエルを見開きにしないでください!!(泣) タイミング良すぎて思わずページ閉じてしまいましたよー! これまで見開きページの余韻を楽しんでいたんですが、今回のここだけは…(泣)。 後ろのキッチンの絵はがきはいつも通り、含みが持たせてあって良い感じだと思います。これはこれで重要な意味を持ちますが、見開きページという意味で救われました…。 さて、いよいよハーキャット。 二人のやりとりは相変わらずですが、「前世はカエルの王子さま」「ゲロゲロゲロ」に大爆笑。ハーキャットってば、こんな冗談も返すようになるなんて〜!他に「眠り姫」発言もありましたっけ。今回はやたらとユーモアセンスに溢れてる気がします。 実は。10巻を読む前に、某所でハーキャットのフルネームのアナグラムが彼の正体じゃないか、という話を読んだんです。実際に試してみると確かにとあるバンパイアの名前になるので、うすうす正体は気づいてました。 そのせいか、今回は読みながらハーキャットと「彼」の共通点を探してしまいました。クラシュカを同じ人間として考え、進んで彼らを殺そうとしたスピッツへの嫌悪感が平和主義に通じるように思えたり、10巻でいくつか出た軽口が何となく似てるかも、と思った程度でしたけど(苦笑)。 でも、頬の傷でまず間違いない、と思いました。 旅の途中で同行することになったスピッツ・エイブラム。 ちょっとうさんくさい人間だとは思っていましたが、ダレンとハーキャットに出会うことで叶うといわれた彼の夢…途中から身震いがしました。怖すぎます。 い、いいんですか、児童書なのにこの内容……。 おぞましさは十二分に伝わるんですが、正直、読みながら狼狽えました。 ただ、この内容からは、本能的に感じるおぞましさが伝わってくるんですよね。きちんと読み手に伝えなければならない感情を含めて書かれているのであれば、いわゆる暴力シーンといわれるものが、ある程度含まれてもいいのではないかと思えました。 ここでの見所はスピッツを止めようとするハーキャットでしょう!その凛々しさに惚れ直しました。 クライマックスで、いよいよハーキャットの正体が判明。 やっぱりカーダだったんですね! しかし、精霊の湖の魂は引き上げれば肉体を得て復活する、という設定は賛否両論別れるところではないかと思います。ハーキャットが記憶を取り戻して前世を知るのはともかく、よもや再びカーダが出てくるとは…こちらは完璧に予想外でした。 もう一度カーダを見られたのは嬉しい。でもハーキャットも好きだし、カーダが再び生を受けるのは無理があるんじゃないか、第一バンパイアたちが受け入れると思えないし…。この辺りはそんなことを考えつつ読み進みました。 6巻では見られなかったカーダとダレンの会話。6巻ラストのあの時は、互いに(特にダレンが)言葉を交わせる状態ではありませんでしたけど…。 カーダの謝罪とそれに対するダレンの静かな答え。 ……読みたかったんです、これが。 5巻6巻では、友達を殺した裏切り者、という意識の方が強烈だったダレン。もちろんこれも事実ですけど、独断で突っ走ったとはいえ、カーダの行動は一族の未来を憂えてのものでもあった事を受け止めて…理解して欲しかったんです。 カーダの全てを否定したままのあの別れが、あまりに切なくて。 また、カーダにも、友達であったダレンに対して、直接あの行動を謝罪して欲しかった、という気持ちがありました。6巻の後悔しているという発言は、裁判の壇上でしか聞くことが出来ませんでしたし。(ダレンが面会に行けば直接話せたかもしれませんが…) また、淡々と進む会話、言葉のやりとりが8年という歳月を感じさせるようでした。 ちょっとした軽口が見られたのも嬉しかったです。「見た目から言えば」っていう辺りはカーダらしいというか…(笑)。対するハーキャットも負けてないのがミソ。 再び生きる可能性を見出しつつも、人生の幕引きを選んだカーダ。 最後のメッセージを直接ダレンに伝えたカーダの姿は、いつもと変わりありませんでした。対するダレンの挨拶は元帥に対する敬意を表したもの。 この辺りは泣けて仕方なかったです。 雰囲気の変わったハーキャットは、カーダの記憶を持ちながら、これからもダレンと一緒にいてくれるんでしょう。そう思うと、少し、安心できます。 そして、残された絵はがきの謎。あの世界が未来であるらしい、ということ。 7巻のエバンナが見た未来のひとつもここに関わってくるような気がします。 最後にひとつだけ。 ダレンの最後の挨拶、原書では「Farewell Sir」でした。 なんとはなしに、クレプスリーの口調を連想して……余計に泣けてきました。 |