THE VANPIRE'S ASSISTANT
─若きバンパイア─


 この話で一番印象的だったのは、最後近くのクレスプリーの台詞。
 「ならばなおさら飲んでやれ」
 未だ吸血が禁忌という認識のあるダレンにとって、この上なく残酷に響く言葉であり、既に闇に生きる存在になった事実を突き付けるものですが…同時に、クレプスリーがダレンを思い遣る気持ちの表れでもあるのではないかと思います。その中に込められた意味が深くて…。

 半バンパイアになったものの、最後の一線を越えることをひたすら拒むダレンが、なんだか切ないです。元に戻れないと頭では解っていても、それを認めることができなくて、頑として同じ人間の血は飲まないと言い張る彼。……ダレンの脳裏には、妹にかみつこうとした時の自分の表情が焼き付いて離れないのかもしれません。
 クレプスリーはダレンの態度でバンパイアと人間の価値観の差、隔たりというべきでしょうか、それを実感した部分もあるのではないかと思います。血を飲むことを拒むダレンに無理強いせず、バンパイアの習性や生きる術などを説明しながら様子を見ている感じですし。
 それにしてもクレさん。1巻であれだけ脅していた割に、ダレンに対してどこか甘い印象があるのは読み手の気のせいですか?(笑) バンパイアについてダレンに色々教える所は厳しい教師に近いし、普段は皮肉な口調でからかいながらも、態度の端々に優しさが感じられます。でもクレさんがダレンをからかうシーン、好きだなぁ(笑)。
 ただ、血を飲まないためにどんどん弱っていくダレンに対しては、さすがに苛立っている模様。眠ってる所に血を飲ませようとしたのは無茶ですけど(笑)、それだけ心配していたんでしょうね。大体、もしそれでダレンが血を飲んでいたら、彼のクレプスリーに対する恨みは憎しみに繋がって、更に深い溝を作っていたかもしれないのに。
 エブラとお友達になるところは好きです。そして、シルク・ド・フリークで生活する人々が、みんな明るくて楽しくて和やか雰囲気をかもしだす、暖かな場所だと改めて気づきました。ダレンの母親が想像していたサーカスなら、こんなことは有り得ないはず。団員は皆、このサーカスにいることが嬉しくて、誇りに思っているようですね。
 そしてサム。こまっしゃくれた頭のいい子です。ダレンやエブラと意気投合して遊ぶ姿はもう見てるだけで微笑ましくて。2巻の冒頭ではダレンが友達を作ることができないと思えただけに、彼の喜びが伝わってきます。
 そんなサムとダレンの友情は、ダレンが考えていたよりずっと深いもので……だから悲劇が起こってしまったんでしょうけれども、サムの優しさは文字通りダレンの中で、息づいていくんだろうと思います。
 ウルフマンに襲われて間一髪の所で現れるクレスプリー!あああ、やっぱり好きですこの方。思わずマントにしがみついてお礼を言うダレンも可愛い。本人は自覚していないのかもしれませんけど、頼りにしているんですねぇ。
 サムの血を飲み干したダレンへのクレさんの台詞がまた印象的でした。
(何のかんの言ってダレンの後始末してくれるんだもん、クレさん…)
 ダレンを慰めるエブラがまたいいんですよ〜。自己嫌悪に駆られるダレンへ、一生懸命言葉を尽くす彼の優しさがもう。ミスター・トールに出会った幸運はもちろんですが、何よりエブラ自身がまっすぐな子です。
 あと、レフティ!サムの墓穴を掘ってくれたんですよね。この行為には驚きましたけど、普段からついて回っていたダレンに対して、何らかの好意的な感情を抱き始めたんじゃないだろうか、と思えました。改めて、他のリトル・ピープルとは一線を画す存在ですね。
 ……しかしサムのあのシーンは、ものすごくリアリティがあって怖かったです(汗)。


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