THE VAMPIRE PRINCE |
今回心に残ったシーンがいくつかあるんですが…一番はやはりカーダの台詞、 「My one real source of sorrow is that I had to kill Gavner Purl」 ……これに尽きます(泣)。詳細は、最後の方でじっくりと。 読みながら感想を書き連ねていたので、今回やたら長くなっております…。 (この中の引用は私が勝手に訳したものです) マウンテンの濁流に飲まれたときはどうなるのかと思いましたが、奇跡的に生きて外に出たのち(この道中冷静に状況を判断している彼の落ち着きにも驚いた)、ストリーク達に助けられた時はほっとしました。 で。偶然にも、濁流に飲まれて死んだと思われる彼を捜しに来たクレスプリー、エラ、カーダ達の会話を、ダレン自身が耳にする事になるんですけど。この時のクレプスリーの台詞が!恐らくは死んでいるだろうけれども、その確証を得るまでダレンを捜してやりたい、火葬して家族の墓に届けてやるためにも、という言葉を見た時は、もう…。この中に、ダレンを思い遣るクレさんの気持ちが凝縮されているように感じました。 また、マウンテンに戻ったダレンがシーバーに話した時の言葉が印象的でした。 濁流に飲まれた時も、森でダレンを探索に来たメンバーの中にその姿を見た時は激しい憎しみが伝わってくるほど、ひたすら裏切り者呼ばわりをしていたのに。 「裏切り者だけど、カーダは友達なんだ」…この一言に絶句しました。 ダレンのあの憎しみは、カーダに裏切られた悲しさを隠すためのものだったのではないかと思えたんです。悲しみや痛みを覆い隠すため、より一層強い憎しみを抱いていたのではないか、と。この台詞を読んだときに、ダレンの心の奥には友達であるカーダを好きな気持ちが存在しており、だからそあれほど強烈な憎しみを見せたのだと気がついて…。 そして、スティーブのことを思い出したんです。 「いつか殺してやる」と宣言して走り去った親友の背を見つめながら、「それでもスティーブは僕の友達なんだ」っていうダレンの気持ちが切ないと、あの時も思いました。これ以上悲しい事なんてそうそう起こらないだろうと。…確かに、ガブナーを喪ってしまったけれども、ダレンの親友エブラはきっといつまでも仲の良い友人でいてくれるだろうし、サムはダレンの中で一緒に生きているのだと思いますし。 この言葉によって、ダレンの心に穿たれた深い傷に、改めて気づかされました。 |
そして、元帥叙任式典での糾弾。 この時、一言も発することなく静かにダレンを見つめるカーダの態度が…何とも言えませんでした。傷をなでながら(クレさんにしてもガブナーにしても何故かこういう癖がある?)自身へ向けられる視線を受け止め、一切弁明せずに頷いて。 彼の発言はCryeへの制止と、無駄な血は流すなという説得、そして皆に対しての、弁明はないという言葉だけしかないんです。特にそれまで黙っていたカーダが初めて発したCryeへの制止の声はインパクトがありました。…どう言えばいいんでしょう…あまりに静かすぎる彼の態度が、まさに静謐と呼べるような気がして。 裏切り者だ、と最後に呟いて涙を流すダレンが痛々しかったです…(泣)。 最後まで読み終えると、この時の彼の静謐さは諦観だったのかもしれないと感じます。計画に支障を来すものは、それが親友であっても全て排除した彼が、唯一危険を犯して助けようとした少年。グラルダーに言ったように、ダレンは貴重な人材だったのかもしれませんが、それだけではなかったと思うんです。(むしろ手助けを求めるためにこう言ったフシもありますし)友達だから助けようとした、仲間だから無駄に命を落として欲しくなかったのではないか、と。 でも、死んだはずの彼が生還して自身の企てを暴露したわけですよね。…計画が潰えたのは、ダレンを救おうとした自分自身の行動によるものだった、そう捉えたのではないでしょうか。同時に…ガブナーを殺めたことを思い出したのではないか、と。 計画の遂行者として、その行動は判断ミスと言えるのかもしれません。でも、その優しさがあるからこそカーダなのではないかな、と思えて…。 しかしここで完全に蚊帳の外だったクレプスリーがちと哀れですね(苦笑)。 その後、食堂での会話で、ハーキャットがダレンの行方を喋らなかったくだりでは「我が輩にすら話さんかったぞ」というクレさん。……ひょっとして拗ねてません?式典ではシーバー&ダレン、逃亡ではハーキャット&ダレンの共謀があったのに、自分は蚊帳の外だったせい??「お前が死を恐れるのも無理からぬことだが」というクレさんの台詞も、普段なら皮肉めいてるハズなのに、どこかつむじを曲げているというかやっぱり拗ねてる感じがするというか…(笑)。 でも久々の師弟会話やハーキャットとの会話が見られて嬉しいです。 ダレンにナイフを渡しつつ、「こいつを使う時はためらうな」というバネズ。当たり前のことですが、バンパイアにとって戦うことが自然なんですね。でもダレンにはつらい台詞じゃないかと思います。ましてや彼はガブナーが刺されるところを目の当たりにしているわけですし。 ただ、バネズがこの戦いの抱える矛盾を指摘した事には驚きました。誰もが気づいていない、あるいは気づかない振りをしている部分をあっさり指摘した上で、それでも戦うところがやはりバンパイアたる所以なのかとも思えます。 そして。 前巻で登場していたグラルダーが再登場、エラと一騎打ち。彼女を女だと見くびる姿勢にはエラ視点で腹立たしく思いましたけれど、彼女なら勝利するだろうと考えてました。…なのに。グラルダーがエラを刺した時、正直信じられなかったんです。 バンパニーズの攻撃でマウンテンが占拠されるかもしれないとは思いましたが、エラが死ぬなんて全く想像の外だったんですよね。戦の女神の如く必ず生還すると信じていました。……だからこそ、クレプスリーの驚きと心が事実を受け入れられない状況に、感情移入できたのかもしれません。 しかしまさか横から入ってきたダレンがグラルダーを殺してしまうとは意外でした。まさに青天の霹靂。直前に戦いそのものに対して疑問を持っていただけに…。 クレさんとエラのやりとり。 気遣うクレさんへの容赦ないエラの台詞は彼女らしかったけど、もうこの辺りは…普段は感情を滅多に表にしないからこそ、クレプスリーのエラへの想い、優しい仕種、こぼれる涙、どれも切なくて。 特に自分がダレンを認めていた事を伝えて欲しい、というやりとりが…(泣)。 最後にダレンに向けられた死のサインは彼女らしかったけれど、ウィンクが、なんだか悪戯っぽくて少し驚きました。ひょっとしたら大丈夫かもしれないと思えて、むしろエラはそう思わせたくてそんな仕種をしたんだろうかという考えが浮かびましたけれど…。 エラが死んだ後も、クレスプリーが彼女の遺体から離れなかったという話を聞いただけでも切なかったのに、ダレンの元へやってきた彼の悲嘆に暮れる様子は本当に痛々しかったです。いつも余裕綽々で人を食った態度のこの人が、エラの名を口にする時の表情、仕種、向けられる想い。腕の中で逝った彼女の最後の言葉を聞いてやれなかったと涙を流して。 その様子が本当に痛々しくて、どこか子供のようだとすら思えたのは、気のせいじゃないと思います。彼をいたわり慰めるダレンが大人びて見えたのは、大切な人を喪う悲しみを知っていたからではないでしょうか。 この辺りは読みながら半泣き状態…(泣)。 悲しみにくれながらも、クレプスリーが言った「お前を誇りに思う」という言葉は、だからこそダレンにとって心に響いたんじゃないかと思います。 この辺りはハーキャットが言ってた通りでしたね。後になってダレンを必要とするから、と…。 この子もいい子だと思います。ダレンがバンパニーズを殺した時の気持ちは率直に訊きたかったんでしょうけれども、彼が嫌がっていると解った途端に話をやめるところも。 裁判で、淡々と計画を語ったカーダの口から明かされた真実。 この時、何故かそのバンパニーズ大王=スティーブかと思ってしまいました。バンパイアを根絶やしにしてやると叫んでいたスティーブなら、予言通りバンパイアを抹殺して、返す刀でバンパニーズも根絶やしにできるような気がしたんですよね(汗)。さすがにそれは有り得ないだろうと思い直しましたが(苦笑)。 閑話休題。 つまりカーダの目的は、戦争を望まないバンパニーズとバンパイアの間に同盟を結ばせて、その同盟の名の下にバンパイアの全滅を防ぐこと……だったんですね。 唯一バンパニーズと接触していたが故に知った事実によって、カーダがどれほど悩んだか、同胞であるバンパイアに相談を持ちかけることもできずに一人で悩み抜いて出した結論は、彼には重すぎたように感じました。せめて、その事実を分かち合える仲間がバンパイアの中にもより多くいたのなら、別の手段を講じられたかもしれないのに。 彼がバンパイア達に、そしてダレンに向けた「死の手」のサイン、おそらく運命を覆せる最後の手段を失ってしまったという事実、青い瞳が流した涙の意味。…あまりに深いカーダの悲しみがやるせなくて、痛々しくて。 そして、時期を逃すことができなかったためにガブナーを自身の手で殺めてしまったことが、悔やまれてならないと…。 読みながら何度声を上げそうになったことでしょう(泣)。 カーダの刑が決まった後、一同に弁護を求めた時。 この時、カーダはダレンを見ていたんじゃないかと思います。だから、ダレンが身動きをしつつも結局動けなかったことに気づいたのではないでしょうか。もしもダレンが顔を上げたなら、入廷した時のような…あの悲しげな笑みを浮かべていたような気がしてなりませんでした。 また、ダレンは動くことが出来ませんでしたが、ここにガブナーがいれば、と思わずにはいられませんでした。彼なら……彼だけは、カーダに何か言うことができた気がしてならなかったんです。おそらく最後に彼を弁護出来たであろう人物を殺めたのはカーダ自身なのだから、自業自得といえばそれまでかもしれませんけど……でも、切実に、ガブナーにここにいてほしいかったです。 ガブナーの葬儀で涙の止まらないダレンの肩をそっと抱きよせていたクレさんが印象的でした。この二人らしくて。 エラの葬儀では…最中に涙を堪えていたクレさんが、部屋で涙に暮れていた様子が本当に切なかったです。 また、この時戦いで右目を失って失明したバネズと需品長の職を退くと言っていたシーバーの両名がマウンテンに残留する事になった話は、数少ない朗報だったと思います。戦う力を失ったバンパイアが命を落とす慣例をあえて退け、来るべきバンパニーズ大王の予言に備えてバネズが残留を決めた事に、ダレンは皮肉を感じているようでした。でも、これはカーダの行動がバンパイアたちのしがらみを少しずつ解いているひとつの答えのように思えたんです。自身の行動がバンパイア達の記憶に残ることを願っていたカーダの意を汲んだ形ではないかと…。急激な変化は難しくても、バンパイアたちが少しずつ変わっていくきっかけになったのだと思いたいです。 で、最後に回されたダレンの処置。 試練をリタイヤしたバンパイアの処遇が慣例に則れば「死」になると知って激怒するクレプスリー。あのクレさんが元帥相手に啖呵を切った上、バンパイアの仲間と袂を分かってバンパニーズに汲みするとまで断言したんです。頭を冷やさせようとしたシーバーが痺れを切らして珍しく叱咤の声を上げた程ですから、その激昂ぶりも想像できるかと(苦笑)。 …しかし、その後老獪なパリス元帥の提案には驚きました。 「ダレンを元帥にすればいい」 …何ですって!?サブタイトルの「THE VANPIRE PRINCE」ってそういう意味だったんですか!? 思わず真夜中に叫んじゃいましたよ(苦笑)。 (このタイトル、カーダのことだとばっかり思ってたのに、大誤算) ここでのクレさんとダレン元帥候補の会話が楽しいです。調子に乗るダレンに釘を刺すところもこの人らしくって(笑)。 無事元帥となったダレンのお披露目で、集まるバンパイアたちの背後にガブナーとエラ、そしてカーダの姿を見たというシーンに涙が出そうになりました…。 5巻を読んだときは、正直こんな大事件が潜んでいるとは思わなかったです。 ただただカーダの行動が理解できなくて、納得できる理由が欲しかったんですが、いざその理由を知ると、カーダの行動が、そしてその心情がどうしようもなく痛々しくて…。 でも、彼の投じた石は、間違いなくバンパイア達に波紋を広げたと思います。 そして、この波紋がいずれ、誰もが無駄に命を落とさない手段に繋がることを信じています。 ──カーダが望んでいたように。 |
最後に邦訳版の感想を少し。 予想通り、ちょこちょこと意味を取り違えているところがありました(苦笑)。(ここにもありますが笑って見逃してくださいませ) また原書で意味が取りづらくて飛ばし読みした部分が、ようやく解ってすっきり。 しかし、橋本さんの訳はやはりいいですね〜。 地の文はもちろんですが、やはり台詞。クレプスリーの独特の言い回し、ダレンは畏まった台詞が多かったせいか、クレさんと喋るときは素になっている所とか。個人的に普段きつい口調のエラの少しやわらかな表現や、真実を明かす際のカーダの言葉の使い分けが好きなんです。あと、アロー元帥が案外お茶目な人かもしれないな、なんて思えたり(笑)。 邦訳版で印象的だったのが、尋問で「後悔はしていない」というくだりのカーダ。 ダレンを見つめたまま口にしたこの台詞。原書で読んでいるときは気づかなかったんですけど……カーダって本当にダレンを殺すつもりだったんだなぁ、と解ったんです。確かにダレン探索の時に剣を手にしていましたけど、その時はダレンのことを心配していてほしいという希望的観測がありまして。 原書でこの発言を読んだときは、ガブナーの一件に気を取られてそこまで頭が回らなかったんですよね。でも、この一文を読んで……たとえ我が身を顧みず助けようとした友達であっても、計画の邪魔になるならその手で殺したんだろう、と思えました。そうせざるを得ない状況と、それだけの行動力を持っているが故に。 このシーンで、ますますカーダにいたたまれないものを感じてしまいました…(泣)。 |