HUNTERS OF THE DUSK
─黄昏のハンター─



 いよいよ新シリーズ三部作突入ですね。
 話全体が重い内容でしたが、だからこそシルク・ド・フリークの面々との再会が心に響きました。

 前作の事件以降、バンパイアとバンパニーズの戦いが各地で繰り広げられる中、ダレンはバンパイアマウンテンで元帥としての仕事を全うしつつ6年経過。
 序盤にクレプスリーがパリスへ呼びかける際の「御身」…やはり橋本さんの訳はいいですね!
 読み始めてすぐ思ったんですが、ダレンの口調が一段と大人びたように感じます。可愛い口調からずいぶんくだけた様子で、ちょうど中学か高校生くらいというところでしょうか。
 大人になれない事を不満に思っていたダレンが「まだ子供時代が楽しめる」と思ったというくだりで、考え方が変わっている事を感じましたが。クレプスリーのからかいにあった「青二才」という言葉のニュアンスからも、ダレンが幼い子供ではなくなっているように思いました。
 また、ミッカーの「かけだし元帥」という台詞。成程、そうきますか〜。原文では「cub Prince」でしたけど、このままだとどこかしら可愛い、子供というイメージがありますね。でも、この単語は好きなんです。普段は厳格なミッカー元帥がこの時はかなりくだけた様子で、6巻より更に親近感がわいてきました。密かに好みです(笑)。この方本当は親しみやすいバンパイアなんじゃないかしら。

 ハーキャットがシーバーの右腕になっているということも嬉しいですね。元来まじめで働き者、飲み込みもいいと思いますし、優秀ですから。しかもいい子だしvv
 そしてハーキャットといえばダレンとの友情。ダレンを気遣うハーキャット、そんな彼を心配するダレン、二人の間にある優しさがいいなぁ。二日酔いに苦しむダレンとくすくす笑っているハーキャットのやりとりも楽しいです(笑)。

 さて、今回初登場のバンチャ・マーチ元帥。野生的な御仁で、とにかく強いです。さっぱりとしたそれこそ「竹を割ったような」というんでしょうか、一本筋が通った人物で、太陽と真剣に戦うお茶目な(に見える)ところがまた魅力(笑)。
 そしてなんとシルク・ド・フリークのトラスカといい雰囲気なんです♪でもってお似合いなんですよこれが!トラスカは清楚な美人で人当たりが良くてみんなに優しい女性、対するバンチャはあれで結構やきもち焼きっぽいのがまたよくて。ダレンにお別れのキスをする彼女の姿を見て歯ぎしりする所なんてもう…(笑)。

 続いてこちらも初登場のレディ・エバンナ。バンパイアたち、引いてはバンパニーズにも縁があり、魔術に長ける洞察力に富んだ女性です。公正な人物という印象が強いですね。バンパイアに肩入れしないのは、それがいけないことだとわかっているから。とても魅力的な女性だと思います。
 しかしクレプスリーの傷のエピソード……若気の至りというやつですか(笑)。ダレン同様に戦いで出来た傷なのかとばかり思ってましたよ〜。エラが知ったら冷たい視線を向けられそうです。エラといえば、エバンナの計らいにもらい泣きしそうになりました…。いい人です。

 バンパイアとバンパニーズの戦いにおいては、種族の外であるミスター・トールも中立であらねばならないわけですが、彼自身はクレプスリーやダレンを友と見てくれるのが嬉しいです。ミスター・トールやエバンナが中立であるのは当然のことで、手出しできないことだと思えますし。
 この辺りを読んでいて感じたことなんですけど。
 どちらかに肩入れすることはできないというミスター・トールやエバンナの立場を知った時、ダレン自身はショックを隠しきれない様子でした。読者は概ねダレンに感情移入しますから、彼と同じように物事を捉えますけれど、逆を言えばダレン視点であるからこそ、読者は一歩引いた見方が出来るようにも感じますね。

 ミスター・タイニーといえば、ようやく根性悪なところが見えてきた気がします。物事を見通す力のある人物で、人を食った男、謎に包まれている、くらいの印象しかなかったんですが、7巻に至ってようやく不気味さが少しわかった気がします。
 序盤からおぼろげな気味悪さを醸し出していましたが、少しずつ見聞きする彼の性癖が、本来の歪んだ(と断言はできないかも…)性格と心の深淵を垣間見せつつあるようで。

 さて。バンパニーズ大王を倒す機会を得る星の巡り合わせを持つとされるダレン、クレプスリー、バンチャ・マーチは、久しぶりにシルク・ド・フリークを訪れます。
 ここで懐かしい再会を果たすわけですが……エブラが父親になっていたとは!年齢から考えれば充分に有り得ることですが、いつの間に、という感じです(笑)。ですが、優しい奥さんと可愛い子供達に囲まれる姿は立派な一家の大黒柱。何よりエブラが本当に幸せそうで、見ているこちらも嬉しくなりました。
 ただ、ダレンとエブラは年齢差も開く一方ですし、ダレンが取り残されるのではという危惧がありました。1巻でクレプスリーが友人知人に置いて行かれるという話をするくだりがあったと思いますが、それが頭に引っかかっていまして。
 けれど、実際には、時間の流れこそ違えども二人はそれぞれに成長していましたね。時間の流れが違う二人の間には、隔たりが生まれ、やがてそれは大きく広がっていくのではないかと…。けれど、「子供は悩みがないんだな」という台詞に重みが感じられて。流れる時間に差はあれども各々前に進んでいるんだと思えました。
 外見のあまり変化しないダレンが一人取り残される印象が強かったんですけど、そうでないことに安堵した反面、いずれ友人知人を見送らねばならない事を思うと、やはり寂しいし切ないですね。
 でも、エブラの目線の高さが変わらなかったことが、嬉しいです。
(彼に子供がいることは7巻を読む以前から知ってたんですが、だからこそ視点が変わる気がしていたので)

 後は…そう、ダレンがクレプスリーをラーテンと名前呼びした事に驚きました!
 真剣な話をするとき、ダレンがフルネームで名を呼ばれることがありましたけど、ダレンがクレスプリーを名前呼び、しかも全く違和感がないんですよ。
 こういうシーンからも、時間の流れを感じました。

 半バンパニーズの存在は意表を突かれました。
 でも、考えてみれば、そういう存在がいるのもおかしくないわけで。バンパニーズが人間の血を飲み干して殺す理由…ああそうか、と思えました。確かに2巻でクレプスリーが言ってましたし、実際にダレンも経験している事ですけれども、「血を飲んだ相手を殺さないのは恥」「人間は血を飲むだけの相手」というのがバンパニーズの思考だと思いこんでいましたし、またバンパニーズが殺戮を好むらしいこと、3巻のマーロックをバンパニーズの代表のようにとらえていたので意外だったんです。
 3巻でのクレプスリーの発言、「善悪というものは見方によって変わる」という言葉を思い出しました。思考の違いというところが大きくもあったんですね。

 バンチャの過去と弟との葛藤。
 ダレンが闇の帝王になりうる存在であること。
 バンパニーズ大王の殺害に失敗した場合、ダレン、クレプスリー、バンチャのうち2人が死んで1人が最後を見届けること。
 ひとつとして明るい話はありません。いえ、むしろバンパニーズ大王を倒せなければ、容易に暗い未来を予想できてしまいます。
 でも、希望があると信じたいです。

 最後に気になった事なんですが。
 バンパニーズ大王を取り逃した後、ハーキャットの抱いた感情のシーンで、ハーキャットがひとつひとつ感情を取り戻しつつあるのではないかと思いました。
 ……エバンナと面識のある、死んだ人物……ひょっとして、その正体は生き別れになったという彼女の兄弟なんでしょうか……?



-BACK- ・ -HOME-