KILLERS OF THE DAWN |
「憎しみに人生をゆだねるな」 ここから一連の台詞。 近しい人物が命を落としたとき、その原因を憎み、復讐を考える事が往々にしてある。でも、復讐にとりつかれて歪んだ生き方をするなと告げたクレプスリーのセリフが忘れられません。ダレンの行く末を案じた彼のこの言葉が……。 今回の展開、ネットでネタバレを少し読んでしまったこともあって、ある程度は予期していましたが、でもやっぱりそのシーンは悲しすぎて…。 普段以上に師弟会話に目がいきました。 「その結果が、この様か」 スティーブの愚かさを嘲るこの台詞、重く感じます。怪物の500年と人間の5年という対比に実感がこもっているというか…。ましてやスティーブの復讐は誤解からきているものだという事実もやりきれない所ではないかと。今のダレンはスティーブを嫌っているけれど、根底には友達であった記憶がありますし、彼への友情が消え去ったわけでもありませんから。 スティーブも、親友だと思っていたからこそ裏切られたという気持ちが強く、それが憎しみにすり替わってしまったわけで。 ……もっとも、その後が問題なんですよね、彼の場合。 ただ、「一族を裏切るぐらいなら死を選ぶ」という台詞は彼にしては意外でした。でも、その分バンパニーズとしてのしきたりを重んじるようになった、その眷属になった…ということなんでしょうか。 バンペットのモーガン警官。なかなか格好いいです(笑)。おいしい役所のせいかもしれませんが。 しかしバンペットが人間世界で情報収集を怠っていないというのがすごい。 バンパイアやバンパニーズはどうしても人間世界とは切り離される部分があるので、ある程度の繋がりはあってもそれぞれ別世界という印象が強かったんですが、未だ人間であるバンペットの性質をうまく活かしていることに感心しました。 3巻でも感じたんですけど、吸血鬼や狼人間が登場する=フィクションというイメージが強いので、現実世界との接点がうまく織り込まれると、現実味を帯びるように思えるんですよね。本当にあったことかもしれないと感じる、現実と虚構が重なり合う部分を楽しめるような、そんな印象があります。 「また強がりを言って…偉そうに」 なんとこれ、ハーキャットの台詞です。あのハーキャットが嫌みですよ!!うわー、嬉しい!(笑)この嫌みもそれだけ二人に打ち解けているってことじゃないですか!?口数が少ないし、あまり冗談も言わないイメージがあったので、余計に驚きました。 ちなみにこの後の師弟漫才(からかうダレンとさらりとかわすクレさん)相変わらずでいいですね。 「夜が明ける頃には、死んだ方がましだと思っとるかもしれんぞ」 ……読んだ瞬間不吉な想像をしてしまいました。 おそらくバンチャの「真夜中決行」にひっかけて、最悪の可能性を示唆しただけだとは思うんです。現に敗色の強い(ように思える)ダレン達には今の状況は不利、エバンナの予言通りなら、ハンターは一人を除いて死ぬことになる…。 先を知りたい、けれど読むのが怖い、そんな気持ちになりました。 追っ手からの逃亡が難しくなり、先に行けというクレさんの命令を拒否するダレン。ここの師弟会話がいいんです。 師弟会話といえば、今回見所がかなりありますね。 「人間の言葉でいう文句なしか」「文無しだろ」のやりとり(クレさん相変わらず素敵です(笑))、倉庫では、手錠外しに四苦八苦するダレンをクレさんが手助けしていたり。 特に印象に残ったのが、かなり後半になりますが、クレプスリーダレンをバンパイアだと認め、ダレンがそれを誇らしく思う所。 特にこのシーンは最後へと繋がりますから、余計に切なくて…(泣)。 前後しますが、倉庫でのクレプスリーの人間の善悪論について。 これは、長年生きてきた彼の哲学でもあるように思います。ハーキャットの見方の方が一般的ですし、頷ける人も多いと思うんですけど…実際、人を見る目は確かだったわけで。 クレプスリーの過去、人間をこう捉えるきっかけとなった出来事を知りたいです。 バンチャとの約束通り、真夜中に地下道で全員が落ち合いますが、ここはアリス警部とバンチャのやりとりが楽しいですね〜。最初はバンチャのちょっかいをかける様子に「この人は…」という感じでしたが、丁々発止なやりとりが案外息が合っているように思えまして。案外2,3年後に再会したら恋人になっているのかも?? いやでもそうするとトラスカは?あの二人もいい雰囲気で好きなんだけどなぁ…。 さて、ここから一気にクライマックスへ。 周到に用意されたどんでん返しだったわけですが。 敵を欺くにはまず味方から、とは言うけれど、ここまで派手に仕掛けるとは……しかもこれ、ダレンとクレプスリーを苦しめる事が目的ですから、スティーブの執念に空恐ろしさを感じずにはいられませんでした。 (実は、スティーブの耳打ちのもったいぶりように、まさかダレン=大王ではと有り得ない想像までしてしまいましたが(苦笑)) それにしても。自分の身代わりを立てて、その男を殺させて、つかの間の安心を与えることまで、計画のうちだったんでしょうか。それではあまりに卑劣すぎる気がしますし、真実を知ったバンパニーズたちがこれに納得できるのかという疑問も残りますけれど……でもあらゆる可能性を想定した作戦というならば、全てが筋書き通りだった、ということになるのかもしれません。 本来、一族を重んじるべき存在が私怨で動いてしまえば、付き従う者もいなくなると思いますし、組織に亀裂が入るきっかけを作ることになるはずなんですけど、タイニーの予言はそれを覆すほど強力だということになるんでしょうか…。 エバンナやミスタートールは、バンパイアとバンパニーズ、どちらかに肩入れすることなく平等に情勢を見極めるべきだと言っていました。第三者という立場の彼らにとって、それが最善の道でしょう。 でも。あのスティーブが上に立つ組織が、他種族と平和共存なんてできるんでしょうか。 仮にダレンを殺すことができたとしたら、その時点で彼は生きる目的を失うような気がするんです。復讐さえすめば満足して、バンパニーズの掟を遵守して生きて行けるとは考えにくいんですけど。大王は存在さえすればいいのかもしれません。それなら納得もできますが、バンパニーズを繁栄させるなんてことが考えられるのか。 むしろ人間社会を壊すことは嬉々として考えてそう……。 ひょっとして、グラルダーたちは大王がスティーブだって知っていたのでは。これ以上争いを続けたくない、またこんな人間についていけるかという気持ちも手伝って、カーダに与したんじゃないだろうか。カーダ自身はスティーブの事までは知らなかったと思うけど。 そして気になるのが、大王のフリをしていた男は自分が大王だと信じ込んでいたのか、という点なんです。…どうもそうではないかと感じるんですが…他のバンパニーズやバンペットならともかく、本人をどうやって騙したんでしょう? この場でクレプスリーを殺すことに執着し、あまつさえ自身の命を失うことも厭わないというその覚悟には、ある意味感心します。それほどまでに憎らしい、ということなんでしょうけれども。 裏を返せば、それほどまでに「悪魔の血だ」という言葉が、許し難いものだったと。 スティーブの行動を考えると、そんな彼を必死になって助けようとするガネンに少し同情してしまう部分があります。一族の繁栄を望む者にとって、スティーブは諸刃の剣になりうる気がして。 また、スティーブとガネンのやりとりですが、原書ではスティーブの威圧感、ガネンの一歩引いた様子が伝わってくるように思います。 最後になりましたが、クレプスリーのあのシーン。 復讐するな、の台詞に泣けました。あの時ダレンに発せられた言葉はむしろ淡々としていましたけれど、だからこそ彼を思い遣るクレプスリーの気持ちが伝わってくるようで。 希望の後の絶望に号泣。「死してなお…」と落ちたときの悲鳴が、つらすぎて……。 命を落としたクレプスリーが、エラやガブナーやパリスのいる楽園に行けたと思いたいです。そこからダレンたちを見守っていると信じたいです……。 …前にダレンが魔王になるかもしれないという予言がありましたけど、ひょっとしてこれはスティーブがらみなんでしょうか…。 |