膝枕〜side zoro 「ロロノア」 声が聞こえる。 暖かで、優しく、静かな声。 えらく懐かしさを感じさせる、声。 「あなたがロロノアで、海賊だったとは!!私をからかってたんですね!許せない!!」 ――ああ、覚えてる。こいつはあの海兵だ。 怯むことなく俺を見据え、挑みかかってきた女。 俺の知る中では、かなり腕の立つ奴だった。 武器屋で耳にした、名刀を集めるという決意を口に出すだけのことはある。そう、思った。 幾度となく刃を交え、腕を上げてゆくその剣術を間近にしながらも。 いつしか俺は、戦いの場以外でのこいつの顔を見てみたい、と。そう思うようになっていた。 こいつはどんな顔で笑うのか。 どういった顔で話しかけるのか。 驚いた時には、どんな表情を見せるのか。 |
「――どういう、つもりですか」 発せられた声は、感情を必死で押さえつけ、冷静であろうとしてるように聞こえた。 しかし、その瞳に浮かんだ鋭い光は、何よりこいつが内面に抱く怒りをあらわにしている。 「何がだ?」 「ふざけるのもいい加減にして下さい」 相手が背を預けている壁に手を付き、俺はそいつを見下ろした。 ともすれば触れそうな程、顔を近づけたままで。 「ふざけてるつもりはねェよ」 一瞬、唇を引き結び、俺を睨みつけていた女は声を荒げる。 「馬鹿にしないで!」 「惚れた女に口づけるってのは、馬鹿にした行為かよ?」 「……な…」 困惑、怒り、動揺。そういった感情の中に、わずかに喜びが混ざっていたのを、俺は見逃さなかった。 ――こいつは、俺に惚れている。 そう、直感した。 傍らで見下ろす俺には、それがどういう感情から根づいたものかまでは知る術がない。 何より、こいつ自身がそれに気づいているのかもわからないが。 俺の姿を見かけるたび、鋭い眼差しを向け、決死の表情で追いかけてきた。 刃を交えると腕力の差は歴然としていたが、それを跳ね退けるように、否、それを逆に利用して、鋭く軽やかな太刀筋で敵を斬りつける、あいつはそんな剣術を得意としていた。 だからこそ、想像以上に華奢で、頼りなげな身体だったのか、と。 …それを知ったのは、初めてあいつを抱いた時だ。 目を開く。 同時に視界に入ったのは、見慣れた人影。 そいつの黒い瞳が、やや寝ぼけた俺の顔を映し出す。 「…目が覚めましたか?」 優しく微笑む女に小さく笑って見せ、俺はその首の後ろへと手を回す。 「ロロノア…?」 少し驚く顔を抱き寄せ、口づけた。 「もう、いきなりどうしたんですか?」 腕の力を抜くと、女は身を起こし、羞恥と困惑の入り交じった表情で、俺を見下ろした。 「夢を見た」 「どんな夢ですか?」 小首を傾げたそいつに、笑ってみせる。 「お前の夢。お前しか出てこなかった」 思わず頬を染める女に、俺は人を食った笑みを返す。途端にそいつは八の字に眉を寄せて、口をとがらせた。 「また、そうやってからかうんですね」 「からかってねェよ。…たしぎ」 やや目を見開いた女を再び抱き寄せ、その唇を塞ぐ。 「俺も、お前しか見てなかったからな」 目を閉じる直前に視界に映ったのは、たしぎのひどく幸せそうな、満ち足りた微笑みだった。 |
──fin
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<あとがき> ワンピ小説第二弾です。 ちなみに初書き小説は「ゾロたしファンクラブ」に投稿させていただきまして、そちらはたしぎ視点で書きました。この話はゾロ視点になります。(少し言い回しを変えていますけど) このカップリング大好きなんですよ〜。そして私はほのぼの甘々な話が大好きで(笑)。とはいえいざ書いてみたこの話、あまりに恥ずかしくて読み返すのが大変でした。また、ゾロの口調がまだよくわからないので、彼の言い回しがどうも違っている気がして…(汗)。こういう点も難しいです。 ゾロの女性に対するスタンス(?)は、「女心が皆目見当のつかない奥手」と「女性に不自由したことがなく経験豊か」という両方のイメージがあるんですが、ゾロたしでは後者の印象が強いです。でもってたしぎより上手で、彼女の反応を楽しんでる所があるような感じ、かな。 ゾロたしに関しては、二人が互いの気持ちを認識して一緒にいる話と、原作に近い状況の話、両方を書いていきたいな、と思っています。 |