手のひら




「ロロノアって、手のひらが大きいんですね」
「あん?」
 私が突然こんなことを言ったせいか、テーブルに肘をついたまま、彼はやや訝しそうな顔でこちらを見た。
 ちょっとだけ笑って、私は空いていたロロノアの左手を取り、その手のひらに自分の右手を合わせてみる。
 堅い彼の手のひらは、私のそれより軽く一回りは大きい。
「ね?私の手より一関節は大きいでしょう」
「お前の手が小さいだけじゃねェのか?」
「私、指も長めですし、手のひらは大きい方なんですよ?」
「…まァ、仕方ねェだろ」
 あまり興味なさげに答えた彼の態度のせいだろうか、私は自然と昔のことを口にしていた。
「あなたを追いかけていた時は、悔しかったんですよ。ひとつひとつは些細でも、あなたに及ばないことがたまらなくて…嫌でした」
 この気持ちを抱いていた当時は、まさか当の本人に対して、これほど落ち着いた状態で心のうちを話すことができるなんて、思いもしなかったけれど。
 合わせていた手のひらを少しずらして、彼の指に私の指を軽く、絡めてみた。
 そのまま離そうとしたけれど、指が動かない。
 ロロノアが指に軽く力を入れて、私の手を捕らえていたのだ。
「今は?」
「え…」
「今はどう思ってんだ?」
 改めてロロノアの顔に視線を移す。
 いつしか彼はテーブルに頬杖をついて、興味深そうにこちらを見ていた。
 …ちょっとだけ、焦らしてみたくなる。
 組んだ指先の力を抜いて、私は微笑みだけを返した。
「わかりませんか?」
 彼は左手で私の右手を軽く握って、にやりと笑う。
「お前の口から聞きてェ」

 ――答えを返すのは簡単だけど。

「じゃあ、ロロノアはどう思ってるんですか?」
 逆に訊き返すと、彼は眉を上げた。
 そして、頬杖をついていた右手を伸ばして、私の頬に触れる。
 途端に赤面してしまった私を見る彼は、どこか楽しそうで。
「先に訊いたのは俺だ」

 ――やっぱり、かなわない。

「……好き、です」
 それでもすぐに答えなかったのは、ほんの少し焦らしたかったから。
 だけど、私の言葉を聞いた途端に、ロロノアはしてやったりという表情で笑った。
「そりゃ何よりだ」
 言うなり、彼は私を引き寄せて、口づける。
 優しくて、暖かい。
 …でも。
「あなたはどうなんですか?」
 身を離して開口一番に問うた私の台詞に、ロロノアは苦笑を浮かべた。
「わかってんだろ?」
「あなたの言葉で聞きたいんです」
 攻守所を変えての問答。強気に出られたのは、さっきのやりとりのせい。
 彼が少しだけ、左手に力を込める。
 既に捕らえられていた私の右手は、いつしかロロノアの左手に包み込むように握りしめられていた。
 彼はとても優しい表情で、私を見る。
「惚れてる」
 そう、一言だけ。
 でも、何より嬉しい言葉を返してくれた彼に、私はそっと微笑みで応えた。


──fin

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<あとがき>
 ゾロって大きい手をしてますよね。大柄ですから、当たり前といえば当たり前かもしれないんですが。そんな彼の大きな手の中に包み込まれるたしぎを想像しているうちに…こういう話になりました(笑)。
 いや、でも話というか…本当に短い文ですし、ほとんど内容がないんですが…(汗)。