デビルマンレディー 第26話 「人」

脚本 小中千昭  絵コンテ 平野俊貴・まついひとゆき  演出 平野俊貴  作画監督 西岡忍・小林利充
世界各地に現れたアスカの幻影。今や世界は光に満ちていた。 それは神の子の到来。 その姿を見た全ての人々の表情は安らぎに満ちていた。 祝福された千年王国の時代が訪れたのだ。

気付いたジュン。そこは夢で何度も見たインフェルノだった。ついに自分は地獄に堕ちてしまったのか。 そこにはビーストの骸の山が築かれていた。その無惨な姿を見てジュンは涙する。

が、サトルが現れて彼女を非難する。 アスカに力を与えたのはジュンだ。ジュンは仲間を殺し続け、自分達のいるべき場所を無くしてしまったのだと。 そしてジュンは死ぬことも出来ず、永遠に独りで苦しみ続けるのだと。 ジュンは骸の山に取り込まれ、磔となる。

光満ちる世界。 各国の紛争は全て終わりを告げていた。 猛たちを取り巻く神官達も、猛たちに対して何もしようとしない。 が、多香絵は意気消沈していた。自分の最後の希望が無くなってしまったから…。

インフェルノに捕らわれたままのジュンはつぶやく。
「生け贄として生き、生け贄として死したのがビーストであるなら、私はここで永遠に磔となっていることこそふさわしい…」
と、そこに、懐かしい和美の声が聞こえる。

そして和美との会話でジュンは悟る。 自分が愛していたのはアスカではないことを。自分はまだ死ぬわけにはいかないことを。
「アスカが神だというのなら、それでもいい」
「ならば私は、悪魔となって、アスカを滅ぼす!」
「私に獣たち全ての力を、全ての怨念を!」
和美も含め、全ての獣たちの骸がジュンの中に取り込まれていく。 そして地獄の地に、ギガイフェクトを起こしたデビルマンレディーが立つ。

地上を地響きが襲う。多香絵は感じ取っていた。
「戻って来る、あの人が…」
魔法陣が崩壊し、怒りの炎が地上に吹き上がる! 光に満ちた青空が、たちまち暗雲に包まれる!

炎の中から現れる、怒りに満ちたデビルマンレディー。 その前にアスカが現れる。
「悪魔…この世界にどんな未練があるの、ジュン?」
「あなたを地獄に連れて行くことだ。アスカ!」

天使の放つ光がレディーを捉える。が、レディーはその光を跳ね除ける。 そこでアスカはその真の姿をさらけ出す。猛々しい爪と翼があらわになる。
「地獄へ堕ちろぉーっ!」
アスカに突っ込んで行くレディー。 が、アスカの放った雷がレディーを地上に叩き落とす。

再び飛び上がろうとするレディー。だが、アスカが再び放った雷がその両翼をもぎ取ってしまう。 そして続いてアスカの放った光の一撃が、辺り一帯を完全に吹き飛ばす!

一面廃虚と化した地上に悠然と降り立つアスカ。 と、その時、突如地面の下から延びてきた手がアスカをつかむ。レディーだ!
「この死に損ないが!」
「自分で私の名を呼んだはず、私は悪魔! 幾度でも地獄から甦る!」
レディーはアスカの雷撃をものともせず、アスカを地面に叩き付ける! 響き渡るレディーの咆哮。それを目の当たりにする世界中の人々。

対峙するアスカとレディー。 アスカはレディーに向けて突っ込んでいく。 アスカから放たれる無数の光の矢。 それはレディーの全身を貫き、その両腕をもぎ取る。 すれ違う両者。血にまみれて崩れ落ちるレディー。

ほくそ笑むアスカ。が、次の瞬間、その顔は驚愕に包まれる。 アスカの体が真っ二つになった! アスカは大爆発を起こし、跡形もなく消え去ってしまう。

そして立ち上がり、咆哮を轟かすレディー。 人々は、神の王国が滅びたことを知った。

…名残の羽根が舞う地上。佇んでいるジュンの姿があった。
「アスカ…やっぱり私、あなたのこと好きだったのかもしれない」
「あなたと私とは、全てが裏と表。でも、私とあなたはとってもよく似ている」
「だから…愛せない」
「自分自身が愛せないのと、同じように」
そして朝日がさしてくる。

これからどうなるのかと不安がる今日子たち。 片や、多香絵の胎内には猛の子が宿っていた。多香絵は猛と共に生きていくことを誓う。

…月日は流れた。 以前と同じ様相の都会の雑踏の中、一人の長髪の、両腕のない女性が歩いている。ジュンだ。 そのジュンの横を一人の女子高生が駆け抜けていく。ジュンはその姿を悲しげに見送る。

そしてまたジュンの目の前を、二人の小さな女の子が楽しげに駆け抜けていった。 その子達には尻尾が生えていた。 しばらくその姿を見送っていたジュンは、やがて雑踏の中へと消えていった…。


ついに最終回。 これまでは画面の隅に不安定に配置されていたサブタイトル(四隅を時計回りに回ってるって知ってた?)が、今回だけは中央に安定した形で配置される。 今回で大団円を迎えるのだと言いたげに。

さあ、神の国を作り出したアスカに、最強の悪魔が戦いを挑む! ちなみにクレジット表記で、アスカはついにトメの位置となった。 両者はまさに立場も互角ってわけね。

原作デビルマンでは明確には描かれなかった最終決戦。 それはそれで完成された形ではあるのだが、それを描くのが小中千昭の野望であり、それがこの最終回で結実したのだ。

かくしていつものノリで、やりたい放題の戦闘シーンとなった。 おどろおどろしい空模様は平野監督いわく、「東映まんがまつり」してるそうな。なるほど言い得て妙だ…。

そしてアスカの戦闘スタイル。 神の子の姿から一転して…、シ、シレーヌ!? デビルマンの敵と言えばやっぱりシレーヌでしょうということで、そういうスタイルに決定したとか。 しかもそれだけではない。

あの雷撃を落とすシーンでハッと思ったんだけど、あれって「いかづちよ、あれ!」てな感じがしない? そう、原作デビルマンのテイストのみならず、アニメ版デビルマンの最終回の敵、妖獣ゴッドのイメージも含まれてるんじゃないかと思うのだ。 そういう話は聞いたことがないんで、考えすぎかもしれんけど。

そしてとにかく巨大でパワフルな白熱バトル。平野監督、やってくれますねえ。 最後までビシッと決まってる。

で、その最後、上半身と下半身が別れてしまうアスカ。 それで当初は、上半身だけになってジュンと語らうシーンがあったとか無かったとか…。 おいおい。やって欲しかったぞ。(笑)

かくして最後に考えてみれば、最終バトルまで原作デビルマンと裏返しに進んでいる。 神は人間の王国を作ろうとし、デビルマンはそれを破壊しようとする。そしてデビルマンが勝利する。 それは何を意味するのか?

アスカは神の王国を築いた。それによって人間から争いは消え、祝福された時代がやって来た。 と、ここで人間の立場で考えると、それって凄くめでたいことじゃないの?と思ってしまう。

片やジュンは、その王国を築くために犠牲になった、かつて人であった獣たちの怨みを受けて立ち上がる。 見ようによっては、単なるビーストの逆襲であり、人間にとっては迷惑この上ない。 さあ、ここで考えてしまうのだ。一体どっちが正しいのだ?

多くの屍の上に、より平和な時代を築く。 そんなことは、残念なことだけど、人間が歴史の中で何度も繰り返してきたことだ。 そう考えれば、アスカは歴史を正しく導くための最後の粛正を行なったのであり、ジュンはまさしく単なる悪魔ということになる。

しかし従来人々は、犠牲になった人達のことを胸に刻み込み、そんな悲劇を繰り返さないために新たな時代を築こうとしていた。 だがアスカがもたらしたのは、獣達の犠牲を闇に葬って作り出した、偽りの神の王国だった。 人々は獣達のことも知らぬまま、自らの意志が作り出したものではない偽りの平和に酔いしれる。 それが人にとって正しいことなのか?

そんな偽りを砕くものが悪魔、ジュン。 最後に勝利の咆哮を轟かすジュンを、人々は恐怖に満ちた目で見つめていた。 神は死んだ…。偽りの平和が消え去った。

ラストシーン。昔のように復興した街。 ジュンの髪が元通りの長さに戻っていることから、かなりの時間が経過していることが分かる。 そこにビースト少女達が、自らの尻尾を隠すことなく駆け抜けていく。 そう、長い年月を経て、ついに人々はビーストと共存する世界を作り上げたのだ。めでたしめでたし。

…って、ちょっと待て。そんな風に見えるからそう思うかもしれないけど、そんな甘いものじゃない。 人が獣になる、それが何ら変わったわけではないのだ。 あれだけ大騒ぎをして、神と悪魔の大決戦まで繰り広げたというのに、結局何も変わってはいないのだ。 ただ、人が獣の存在を認めただけ。

原作デビルマンでは現実は全て崩壊してしまったけど、本作品では現実は元通り、ある意味では更に過酷な形で戻ってきたと言える。 ひょっとしたら原作デビルマンの方がましなんじゃないかと思うほどに。 人々は、この過酷な現実を自らの意志で切り開いていかねばならない。 だがどんなに苦しくても争いが絶えなくても、それが人の正しい姿だ…と私は思う。 現実から目を背けても何も解決はしないのだ。

そしてそんな世の中でも、猛と多香絵は「三人」で生きていく。 まあそれが、この作品の希望と言えばそうかな。 ちなみに猛は元々そのために男性キャラが必要だということで生み出されたキャラで、単に不動明もどきを出そうというお遊びではなかったのだ。 しかしそれが不動明になってしまうところが…やっぱ遊んでるね。

片やジュン、結局最後まで救われることは無かった。 一応変身ヒーローものの主人公なのに。両腕を失うまでの激しい戦いを繰り広げたのに。 (余談:相手がシレーヌなだけに(?)、あの腕は「ひろってきてくっつけた」ら元通りになるような気がしたのは私だけ?)

自分自身が愛せない…最後になってもこんなセリフが出てくるのだから、救いも何もあったもんじゃない。 そりゃまあ変身ヒーローものの中には、戦いが終わって自らの存在意義を失い孤独に去って行く、なんて悲しげな終わり方もあったりした。 しかしジュンは、最後まで自分の存在意義すら見つけ出せずに去って行くんだからねえ。 ジュンは「ヒーロー」にはなれず、最後まで「普通の人」だった。 自らの能力を前向きに受け止めることはできなかった。

こういう、自分のアイデンティティを否定する主人公は、最後の戦いでは壮絶に相討ちになるというのが相場だ。 自分という呪わしい存在を断ち切るという点では、まだその方が救われてるように感じるし。 が、この作品ではそれすら許されなかった。 これからもジュンは、己を認めることのないまま生き続けるのだろう。それって死ぬより残酷かもしれない。

一見めでたしめでたしのようで、実は大団円とは程遠い、この最終回。 それはそれでこの作品に合ってはいるんだけど、せめてジュンは何かしら報われてほしかったとも思うな。


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