【実験】Bluetoothカセットアダプタの製作

 昔よくあった「カーステレオ用カセットアダプタ」をBluetooth対応に改造してしまうお話しです。特に難しい工作は必要ありませんでした。残念ながらとある事情から「実験」と銘打たないといけないのですが…。

発端

 2014年初頭、IONというメーカーがBluetoothで接続するカセットアダプタ発表しました(ニュース)。カセットアダプタというと本来はカーステレオにカセットテープの代わりに突っ込んで、CDやポータブルオーディオ機器の音声を車の中で聴くものであり、これももちろんそういう製品なのでしょうが、我々レトロPCユーザからはデータレコーダーに入れてWAV化してあるテープ音声を使ってロードさせるツールとしてどうか?と考えるわけです。日本法人もあるようですし、正式に日本国内で発売されるのが楽しみな商品です。

 でも…Bluetooth接続できるカセットアダプタって、以前にもあったみたいなんですよね。今はほとんど売ってないようで、私自身それが現役商品だった時に存在に気づいてなかったのですが、なんだか今でも全然話題になってないような…?
 と思ったら、どうも「カーステレオを携帯電話の受話器にする」アダプタだったようです。Amazonの商品のページでは、音楽とか聴けるという説明にもかかわらず、全くその通りではなかった失望のレビューが集まっています。いやぁ、ジャンクとかゴミとかひどい言われようだ。レビューでも触れられていますが、音楽の再生のためにはA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)というプロファイルをサポートしている必要があります。ハンズフリー通話、いわゆるスピーカホンなんかのためにはHFP(Hands-Free Profile)とHSP(Headset Profile)が必要だったと思います。

 ふと考えると、従来のコード式のカセットアダプタなんか中身はほぼスカスカみたいなものですから、部品を詰めれば似たような物を作れそうな気がしてきます。もちろん詰める部品の大きさも小さくないといけませんが、最近の部品って結構小さいよね?

 というわけでA2DPをサポートするBluetoothモジュール、できれば技適を取ったものがないかと探してみたのですが…なかなかないなぁ。
 そんな中で見つけたWT32というモジュール、ヘッダボードという基板とセットが技適の条件になってるけど、機能としてはなかなかよさそう。バッテリ端子やその充電回路も内蔵しているようで、モバイル機器用ということでしょうか。ただ初期設定のためにマイコンみたいなのが必要のようで、それだと部品が増えちゃうな…。さらに探すとaitendoに目的としてはぴったりなモジュールが…こちらもバッテリ対応のようですが、さすがに技適は取ってないよね…。

 考え方を変えて、どうせMZとかに入れるのだからシャープPWM方式さえ再生できればいい、だったらシリアルのモジュールとマイコンの組み合わせはどうだろう…ということで調査。
 マイクロテクニカRBT-001なんかもいいですね。あらかじめコネクタが付いてますが外してしまえばカセットハーフにも収まりそう。データ転送の手順は以前Spartan-3版MZ-700を作った時XMODEMでMZTデータをバイナリ転送する方法でわかっていますので、あとはマイコンとちょっとしたD/A回路か…。でもこれだとバッテリ回路とかないので、そういうモジュールなり資料なりをどこかから見つけてこないといかんなぁ…。

 そういえばバッテリは手に入るの?せっかく音声はワイヤレスにしても電源が有線なら何の意味もないよ?…といろいろなショップを巡りましたが、どうもほとんどバッテリ系の通販はなさそうな雰囲気。可能性がありそうなのはラジコン用ですが、わりと容量が大きくてカセットアダプタの中には入らないみたい。

 うーん…と唸りながらそれでもしつこく探していると、なんとBluetoothヘッドホンを分解して基板を埋め込んだというブログを発見!なんか基板の大きさがおあつらえ向きですよ?さらにはそのブログを参考にしたと思われる動画も発見!

 なるほどね…これなら最初からちゃんと動いているものを使うので間違いも少ない。手持ちのカセットアダプタの改造に挑戦してみますか!


パーツ集め

 先のブログや動画ではeBayなんかのオークションサイトでヘッドセットを入手したとのことでしたし、もしかしたらヤフオクで見つかるかな…と思ったら業者が同形品らしき商品を大量出品しておりました。なぜか色によって値段が違っていたのですが、外装はさっさと取り払って廃棄する運命なのでどうでもよく、一番安かった黒を落札。

 届いたヘッドセット。いかにも中国製という感じで、なんだか説明もいいかげん…でもまぁなんとなく使えるもので、バラしてしまう前にMacとペアリングして音楽再生に使用できることは確認しました。

 落札後出品ページやその業者が運営する楽天のサイトなんかを確認して不安に思っていたんですが、これ技適取ってないっぽいですね。いかにもジョギングなんかで使うのにピッタリな形状ですから、屋外でバンバン使ってる人も多そう…。そんなわけで、残念ながらこのページも「実験」と銘打たなくてはならなくなりました。実は技適取ってるよとか、同形の技適取れてるヘッドセットがあるといいんですけどね…。

 早速分解。防水ということではめ込みパーツが多く、ネジが少ないので簡単にバラせました。基板も動画とかにあったものと同じ大きさみたいですね。

 次にカセットアダプタ。以前から2つ持っていて、ひとつはよく使っているAIWAのもの、もうひとつはフィリップスのAZ6826というポータブルCDのオプション品であるカーマウントキットに含まれていたもの。後者は光デジタル出力付で安売りしてたので買ったんですが、カーマウントキットまでタダで付いてきたんですよね…。前者のAIWAのはそもそも何の目的で買ったんだっけ?
 MZ-700とかにはコードが細かったのでAIWAのやつを使ってたこともあり、コードが太くて使いにくいフィリップスのを生け贄にしたかったのですが…。

 SBC3558というフィリップスのカセットアダプタ。商品ページがかろうじて痕跡だけ残ってました。コードはカールしていて、結構長いです。  ヘッドを傷つけないようバネで固定するのですが、それが不必要なくらい横に広く、基板を置くスペースが確保できません。

 うーん、これはちょっと…。かといって今更新品が100均や電器店なんかの店頭にあるわけでなく、Amazonの通販では(一部昔の値段のままのもありますが)価格に対して送料が高すぎ…と新たに調達するのもためらわれる…まぁAIWAのが調子よかったのでいじりたくなかっただけなんですが、この際仕方ない、こちらも確認してみるか…。

 これがAIWAのCAP-1というカセットアダプタ。型番がやっつけすぎる…。DAT用のアクセサリだったんですね。  おっ、バネの配置も必要最小限だし、基板のスペースがちゃんとある!すげぇ、初めからこのために用意されてたみたいだ…。

 同じ機能の製品なのに内部構造はバラエティに富みますね。中央の基板はインピーダンスマッチングのためかチャンネルひとつに抵抗2本を使った簡易な回路が搭載されています。ヘッドはデッキのヘッドを痛めないようバネで前後するようになっています。リールが歯車になっているのは動力のないもう片方が止まるとテープエンドと判断してしまうデッキがあることへの対策でしょう。動画では基板やヘッド周辺はもっと小さくなっている代わりにキャプスタンから動力をもらってリールを回せるような機構が入っているようです。なおリールの歯車と軸受け用の突起の部分は別パーツで、遊びを持たせるようになっています。カセットテープシステムってわりと単純なようなイメージがあったんですが、こうして見てみると細かい部分でよくできてるなぁと感心します。

 んじゃまぁ、AIWAのを改造することにして、フィリップスのはAIWAのコードを移植して、カールコードはX1のキーボードの補修にでも使うとするかな。


製作

 ぶっちゃけ基板とバッテリをカセットハーフの中に組み込むだけなので、たいした工作をやっているわけではありません。ヘッドホンのドライバ部(音の出るところ)に行く線を切ってカセットアダプタのヘッドに行く回路につなぎなおしているだけ、とも言えます。元ネタであるブログで使用したヘッドホンは操作ボタンが耳の所にあったのでその移植作業が加わってますが、動画で使われたものや私が使ったのは操作ボタンが基板にありますので、基板をどう収めてボタンをどう出すかが考え所になりますね。

 ヘッドホン基板のアップ。LSIなど主要部品は裏側にあります。

 基板の両端には「L+」「L-」と書いてある端子パターンがあります。これに限らずリード線を接続できるパターンは裏表両面にあって、基板の実装によって便利な方を使えば良くなっています。右側のパターンの側には「M+」「M-」と書かれたパターンもあり、これはハンズフリー通話用のマイクのようです。USBコネクタの左には「B+」「B-」と書かれたバッテリ用のパターンがあります。

 元のカセットアダプタ内部の配線は、ステレオミニプラグで受けた音声をそのまま基板の端子に接続しているだけです。アダプタ基板にそのまま使用することにします。この端子への線はポータブル機器だとヘッドホン端子に接続されることになりますし、ノイズキャンセリング機能付きでもなければヘッドホンのドライバ部に直接つながりますから、ヘッドホン基板の音声出力とアダプタ基板の端子を直結して問題ない、はず。

 とりあえずフタを閉められるぐらいの加工だけ施して、仮止めにて実験します。

 本当に問題ないか、仮止め状態でラジカセに突っ込んで再生…音が小さいのと、なぜかモノラルなんですが、一応目論見は果たせそうです。ラジカセのボリュームを上げるとラジカセ自体のノイズが大きくなるので送り出し元を大きくするのと、Bluetoothレシーバも音量をアップしておきます。

 しかしモノラルなのが解せないなぁ…ラジカセは左右均等な音量で再生できてるので、アダプタ内部で片チャンネルだけ音声が通っているというわけではないはず。気になるのは基板に書かれていた文字で、マイクもバッテリもその頭文字「M」「B」とあったのに音声は「L」とあったのは、LineじゃなくてLeftだったなんてことはないだろうな…?まぁ本来の目的(データレコーダーに突っ込む)ではモノラルで十分なのでこれでもいいのだけれど、ヘッドホンの形をしていた時にもっと念入りに確認しておくんだったな。

 ともあれ、これでなんとかなりそうなので(というかこれ以上なんともならなさそうなので)最後の仕上げにかかります。この基板は充電にUSBコネクタからの電源を利用しますが、仮止め状態では(および動画では)そのUSBコネクタが中に隠れてしまい、ケーブルを挿すことができません。動画の方はその後利用する予定もないのかもしれませんが(むしろ動画を作ることが一番の目的、最後の再生音だってカーステレオから聞こえてきたものとは思えない)、こちらは継続的に利用するので充電は必須です。

 ということでUSBコネクタは取り外してしまい、代わりにDCジャックを取り付けることにしました。千石電商にてDCプラグに変換するケーブルがありましたので、径の小さいものを選んでジャックと一緒に発注しました。

 部品組み付け終了。ちなみにバッテリとヘッドホン基板は両面テープで貼り付けてあります。  元々ケーブルを出すためのところが切り欠いたようになっていましたので、ここにDCジャックを瞬間接着剤で固定しました。

 うん、いい感じに収まりました。後は蓋を閉じてネジ留めすれば完成です。


完成

 余計な突起が許されないカセットハーフの制約ということもありますが、こうして組み付けると元のカセットアダプタと見た感じの変化はあまりないようにも思ってしまいますね。
 一部を削って操作ボタンを見えるようにしています。最小限にと思ってボタン部分だけ削ったんですが、指で操作できなくなりピンセットやボールペンで押すことに…。ここは動画のように広く削った方が良かったかなぁ。  動作状態が分かるよう、基板裏面にあるLEDが見えるよう穴を開けました。これは充電中の様子。動作中は青いLEDが点滅したりします。

 フィリップスのカセットアダプタもケーブルを入れ替え、問題なく使用できることを確認してから、いよいよこのアダプタでのロードに挑戦。

 MZ-800にてBASIC 1Z-016ロード成功の図。

 送り元は最初にペアリングしてあるMac、ソフトはAudacityを使用しWAVファイルになっているBASICのシステムを読み込ませ、見事に成功しました。おお、こりゃいいですねぇ。今まで細いとはいってもそれなりの太さのケーブルをうまく出しながらなんとかアダプタを収めてたんですが(そもそもカーステレオ用なのだから、普通のカセットデッキにすんなり入るわけがない)、これなら使いやすそうです。

 本命はもちろん冒頭で紹介したアダプタです。日本国内で売ることになれば技適も取るでしょうし、操作も簡便でもしかしたら早送り・巻き戻し操作にも対応できるかもしれません(カセット型MP3プレーヤは対応するらしい)。それまではこれを活用することにしておきましょう。

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