ガン予防の基本的な考え方



我が国のガンによる死亡率は、昭和56年以来脳血管疾患を抜き第1位となっています。年間15万人の人がガンでなくなっており、これは日本人の4人に1人の割合と言えます。このため、ガンの治療と予防を目的とした研究には大きな比重がかけられていて、多くの重要な発見がされています。ここでは、その中から今までに明らかになった報告を元に、ガンを予防するためにはどうしたらよいのか、基本的な考えを簡単に説明したいと思います。


1.何がガンを引き起こすにか?


Cause of cancer人間をはじめとして生物の遺伝子についての研究が進むにつれ、ガンは細胞の中の遺伝子に起きる異常が原因で発生するということが明らかになってきました。 さらに、遺伝子の以上が原因であるが、遺伝的つまり先天的な要素よりも、人が外部から受ける影響つまり後天的な要素によって発生する可能性のほうが大きいことも判ってきました。

そこで、発ガンの原因は、次の3つの可能性が考えられてきました。
@生物学的要因・・・発ガン遺伝子を持つウイルスによる感染
A物理的要因・・・・ガンマ線、ベータ線、紫外線等の自然放射線
B化学的要因・・・・発ガン物質と呼ばれる化学物質

しかし、疫学的研究が進むと、生活環境中の化学物質による発ガンに注目が集まるようになってきました。我々は、これらの化学物質を発ガン物質と呼んでいます。
1970年代に微生物の突然変異を検出する試験方法が開発されて以来、発ガン物質についての研究は、多大な成果を挙げることができました。これらの研究を通じて明らかになってきたことをまとめると、この円グラフのようになります(R.Doll and Peto,The Cause of Cancer より)。 つまり、ウイルスや放射線による発ガンの割合は小さく、発ガン物質が原因と考えられるものが80%以上を示し、中でも最も大きく関与しているのは、食物とタバコであるというのです。

発ガン物質というと何か特殊なものを考えがちですが、我々の身近な一般的なものの中に含まれている事を覚えておいて下さい。




2.発ガンのリスクを下げる


ガンの予防といえば、人間ドック等による早期発見と思われがちですが、これはいわば二次予防に当たるものです。
それでは、一次予防は何かというと、発ガン物質を取り除くことです。
つまり、環境中の発ガン物質が原因でガンになる割合が高いのだから、その発ガン物質を見つけ出し、これを取り除いてその影響を受けないようにすることが、一番重要であるという考え方です。
これを一番簡単な例でいうと、喫煙という悪癖をやめるという世界的な動きです。 タバコの煙からは数多くの発ガン物質が発見されています。喫煙習慣は長期間連続して同じ発ガン物質の作用を受けることが考えられるので、極めて発ガンの危険性の高い行為です。 これだけで、発ガンの原因の30%以上を占めているのです。
まずは、これを減らさなければいけません。嫌煙というと「好き嫌い」の問題になるようですが、ちゃんとした科学的根拠の基づいたことなのです。

次に多くの発ガン物質が見つかっているのは、食生活に関するものです。ナッツ類に付くカビの作るアフラトキシン類、ワラビ等の山菜に含まれるプタキロサイドなど、1970年代から1980年代にかけて、食物や食品添加物の中に多くの発ガン物質が見つかり、食品の安全性が問題となりました。
このため、これら発ガン物質を含む、特定の食品や特定の部位については、大きくマスコミで取り上げられ、広くその情報が伝えられて、それを食べないように注意するようになってきました。
また、食品添加物についても、発ガン性があるものについては、法律で使用を禁止し、または制限しています。




3.おこげが悪い?


このように、私たちは、様々な研究により、多くの物質に発ガンの危険性がある事を知識として得ることができました。同時に、これらの物質の影響を受けないようにして、発ガンのリスクを低減させるための努力を続けていく事が大事であると言えます。
しかし、すべての発ガン物質を完全に除去することは不可能なのです。その代表が食品の調理時に、アミノ酸の加熱分解によって生じるヘテロサイクリックアミン類です。アミノ酸はタンパク質の分解物としてどのような食品にも含まれているので、アミノ酸を食品から全く取り除いたりできません。また、毎日お刺し身と生野菜だけ食べるようにするのは、出来ない相談でしょう。このため、ヘテロサイクリックアミン類を完全にとり除いた食事は不可能なのです。
Trp-P-2

肝臓のP450酵素
Trp-P-2-NOH
トリプP2活性化トリプP2
ヘテロサイクリックアミン類の代表的なものにトリプP2が挙げられます。トリプP2は、我々が栄養分として必ず摂取しなければならないトリプトファンというアミノ酸が加熱分解して生じる物質で、体内に吸収されると肝臓で代謝活性化されて遺伝子と結合して突然変異を引き起こし、肝臓ガンの原因になっていると考えられています。
このような物質が食べ物の焦げた部分に多く含まれているのです。
火を使い調理した食事をする事が、人類とその祖先を分かつ鍵とも言われています。 このヘテロサイクリックアミン類のような発ガン物質の攻撃の前に、我々人類は為すすべもないのでしょうか?




4.発ガン抑制物質


しかし、逆の考え方をしてみて下さい。 火を使いようになって以来、これらの物質の危険にさらされてきた人類は、すべてがガンになり絶滅したかというとそうではありません。 何かこの物質の攻撃を防ぐ方法があったので、生き延びてこれたのです。
つまり、「もし、発ガン物質を体内に入れてしまったとしても、発ガン物質を取り除いたり、その作用を打ち消したりする方法があるはずだ」という考え方です。 1980年代後半からは、この考え方に基づいて研究が進められてきました。
発ガン物質を発見し、これを取り除くといった言わば消極的な方法から一転して、発ガン物質を攻撃する積極的な方法への転換がなされてきたのです。

こうした中、発ガン物質の攻撃で損傷を受けた遺伝子を修復するシステムや、それを助ける新薬の研究がなされる一方で、我々の普段の生活において発ガン物質の攻撃を抑えるための方法も見つけられました。
それが、発ガン物質を分解したりその作用を抑える、発ガン抑制物質と呼ばれるものです。それも、特別な薬でなく 普通に口にする食品の中から見つけられたのです。
例えば、緑黄色野菜を食べる事でその中に含まれる食物繊維やビタミン類の働きで、発ガン物質の吸収を妨げたり、その作用を弱めたりする事が判ってきたのです。
また、サンマを食べる時も大根おろしやレモンを一緒に食べれば、少々焦げていても大丈夫という訳です。 このような発ガン抑制物質をできるだけ多く食べるように工夫する事が、これから「ガンにならない生活」を目指す上で大変に重要となります。




次回に続く


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