【古代ローマ神名事典】補足説明
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『古代ローマ神名事典』は、一般に「ローマ神話」と呼ばれるものの中の神々の
うちから、ローマ独自の神の名を抜き出して事典にしたものです。
ローマ本来の神は、寧ろ我々が「精霊」と言う様なものに近く、ありとあらゆるも
のに宿り、次々と生まれ、また人格や姿、実質を殆ど持たないものでした。「神話」
と呼べる様なものも殆どなく、ただ古代ローマ人によって額ずかれていた、それだけ
のものだったのです。
故に一部の上位の神々を除いては、その名がそのままその神の性質を表します。例
えば、コンコルディアは和合の女神ですが、そのコンコルディアという単語は、その
まま、共感、一致、調和などを意味していました。
神名の表記は、先ず一般的な神の名前をカタカナで、その後に、[ ]の中にラテン
語による表記を入れました。
カタカナ表記にある「^」は、本当は小さい「ル」です。
また、[ ]の表記が( )で囲まれているものは、そのカタカナ表記のうち、特に長音
について情報の欠如がある事になるため、発音に関する正確性は劣ると考えてくださ
い。
例
>コンコルディア[CONCORDIA]
同じ神を表すが、若干綴りの違うものがある場合には、[ ]の中に更に( )付きで
入れました。
例
>ウェルトゥムヌス[VERTUMNUS(VORTUMNUS)]
ラテン語の表記をする際に、長母音が判明する限りにおいてそれを記しました。
母音の上に線が引いてあるものがそれです。
例
> _ _ _
>フェーリーキタース([FELICITAS])
> _ _
>クロアーキーナ[CLOACINA]
長母音表記を可能にする為に、ラテン語の綴りを全て大文字で書きましたが、本
来的には最初の文字だけを大文字にして、後は小文字にすべきものです(尤も、現
代では、の話です。この事典が対象とする時代には大文字しかなく、また、J、Uな
どの文字は存在しませんでした)。
長母音表示がないものは、そのまま発音して構わないという事です。しかし、綴
りは確定出来ても長母音が判然としないものや、或いは綴りが確実でない場合には、
[ ]を( )で囲んで記しました。
例
>フェブリス([FEBRIS])
> _
>フィデース([FIDES])
また、神の名とその語源が判明しており、綴りの最初の方は確定出来るが、後ろ
の方の綴りが判然としない(尤も、ラテン語に於いてはカタカナ名が分かれば大体
一義的に綴りが決まるのではありますが)場合には、([ ])の中に神の名及び語源
となった単語の最初の部分だけを記し、その後をハイフン「-」で省略してありま
す。
例
>フェッソナ([FESS-])
また、神の名が分かっていても綴りや語源が分からない場合には、敢えて綴りを
全く記しませんでした。それらは全て([?])で記してあります。
例
>フルゴラ([?])
それぞれの神の説明に就いては、基本的には参照した資料の記述を尊重し、敢え
て完全には統一しませんでした。同一の内容を司る神々がたくさんいますが、恐ら
く実際にそうだったのでしょう(笑)。また、「ローマの」という言葉が付いてい
る事が良くありますが、それ以外の神がローマの神でない、という意味では勿論あ
りません。単に参照資料の記述を尊重した為です。例えば、
> _
>ウィクトーリア[VICTORIA]
> 勝利の女神。ギリシア神話のニケにあたる。
>
>ウィトゥラ[VITULA]
> ローマの勝利の女神。
となっていますが、ウィクトリアがローマの女神でないわけではありません。寧
ろウィクトリアの方が一般的な勝利の女神です(もしかしたら、ウィトゥラはウィ
クトリアの別称なのかもしれませんが、確実ではない為、別個に書いてあります)。
神々の別称は、それこそ『別称一覧表』が出来てしまいそうなほどたくさんある
のですが(笑)、この表に於いては別称が別の神の名前と見なされる程になったか、
或いはその神の或る一部、時には違う能力がその別称に付加されている場合にのみ、
その名を挙げました。
ローマの外来の神々との峻別は難しい問題でした。ローマの宗教は極めて折衷的
な性格のものであった為、帝政の頃まで視野に入れればあらゆる神々(ギリシア神
話はいうに及ばず、エジプトの神やオリエントの神、新興の神々まで)がその宗教
の中に存在しています。この表に於いては、共和政ローマの中盤までにローマに入っ
たと思われる神々は基本的に入れてあります。その年限は一応、紀元前204年のキュ
ベレ女神の導入までです。エトルーリア起源やサビーニー起源の神々は、王政以前
の導入(つまり紀元前509年以前)である事が確実です。
それに伴ってギリシア神話起源であると思われる神を注意深く排除しましたが、
もしかしたら未だ残っているかもしれません。特に、復讐の女神アレクトは恐らく
ギリシア神話起源なのですが、ウェルギリウスの『アエネーイス』に出てくるので
取り合えず入れてあります。
この事典の企画は元々、『ローマ神話神名一覧表』という名前だったのですが、
良く考えるとこのローマの神々には『神話』というものが殆どない(後にギリシア
神話の神々と同一視される様になってそれらを取り込んだものが殆ど)ので、「神
話」の語を外しました。神々の、妻、夫、息子、娘などの関係も、恐らくは本来的
なものではないと思うのですが、取り合えずそれは記しました。
また、のちに「一覧表」の記述が多くなり、一覧表というよりは事典と言った方
が良い分量になったので、『古代ローマ神名一覧表』の名を『古代ローマ神名事典』
と改めました(原書房の『古代ローマ人名事典』のもじりでもある(笑))。
参考文献は以下の通りです。
『ローマ神話』青土社 スチュアート・ペローン著 中島健訳
『ローマ神話』大修館書店 丹羽隆子著
『羅和辞典』研究社 田中秀央編
『ギリシア・ローマ神話』角川文庫 トマス・ブルフィンチ著 大久保博訳
『神の国(一)』岩波文庫 アウグスティヌス著 服部英次郎訳
『神の国(二)』岩波文庫 アウグスティヌス著 服部英次郎訳
『プルターク英雄伝(一)』岩波文庫 プルタルコス著 河野与一訳
『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店 高津春繁著
『ローマの神話』J・F・ガードナー 丸善ブックス
『The Encyclopedia Mythica』(http://www.pantheon.org/mythica/)
『ローマ市建設以来の歴史』鈴木一州訳註
この企画は、【World History/臨時】古代ローマ時代 の方々のご助言、特に市
川並樹さんの下さったきっかけなしには出来得なかったでしょう。ここに御礼を申
し上げます。
DSSSM:dsssm@cwa.bai.ne.jp