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ガイウス・テレンティウス・ワルロー(218法務官、216執政官)?-?
ルキウス・アエミリウス・パウルス(218,216執政官)?-216
前の話の後、ファビウスはその地位を去り、執政官が再び任命され、それらの
執政官はファビウスが命じた戦争の仕方を守ってハンニバルに対しては正規の陣
を張る戦争を避け、同盟軍に援兵を送ってその離反を防ぎました。
ところが216年、ガイウス・テレンティウス・ワルローが名もない商人の家柄か
ら民心の収攬と性急で知られた性格を以て執政官に選ばれると、その無経験と軽
はずみから国運の全部を一挙に賭する事は明らかでした。と言うのは、民会に於
いて大声で、
「ローマがファビウスの様な将軍を使っている間は戦争は続く。自分は敵の前に
現れた日に敵を破るであろう!」
と叫んだからです。
この演説と共に、それまでローマ人がいかなる敵に対しても使った事のない程
多くの軍隊を招集しました。八万八千名が戦に向けられ、ファビウスをはじめ思
慮のあるローマ人に甚だしい恐怖を抱かせました。これだけ多くの壮年を以ていっ
たん敗れればローマの町は再び立つ望みはないと思われたからです。
そこでワルローの同僚のルキウス・アエミリウス・パウルス(大氏族・貴族派
で、第3次マケドニア戦争に勝利したマケドニクスの父)という、戦争は数多く
やって経験を積んでいるものの、何か公事で罰金を課せられてから民衆の受けの
良くない、気が滅入っている人を、ファビウスは起こし励まして、テレンティウ
スの熱狂を抑えさせようとし、祖国の為にはハンニバルよりも寧ろテレンティウ
スを相手に戦えと教えました。
「パウルスよ、ハンニバルの事に就いてはテレンティウスより私を信ずる方が正
しいと思う。その私が保証する。この一年間誰も戦争を仕掛けなければ、あの男
はここに留まって滅びるか、逃げてここを去るかに決まっている。今勝って支配
していると思われているのだから、カルタゴから援軍はやって来ない。しかもハ
ンニバルには自分が連れて来た軍隊の三分の一も残っていないのだ。」
これに対してパウルスはこう答えました。
「私としては自分だけの利害を考えれば、また市民の投票を蒙るよりも、敵の投
げ槍を受けて倒れる方がましである。しかし国家の事情がそうなっているのなら、
貴方と反対な事を強いる全ての人よりも、貴方から立派な将軍と思われる様に努
めよう。」
この決心を抱いてパウルスは戦に出掛けました。
ところが、テレンティウスは一日交代の指揮を固執し、アウフィドゥス川(ア
プリア川)に沿ったカンナエと呼ばれる町の近くでハンニバルと対陣して、夜が
明けると同時に戦端を開きました。対するハンニバル軍の軍勢は四万強。ローマ
軍は二倍以上の戦力を有しています。しかしカンナエの戦いは世界戦史に於いて
今日に至るまで例を見ない包囲殱滅戦となり、ハンニバルの用兵の妙を思う存分
発揮させたに過ぎませんでした。
テレンティウス・ワルローは僅かの供を従えてウェヌシアの町へ馬に乗って逃
げ込みました。もう一人のパウルスは潰走の渦の中で多くの矢が傷口に刺さった
まま、身も心も大きな悲しみに重くなって石に寄り掛かり、敵が止めを刺すのを
待っていました。顔も頭も血まみれになって、多くの人々にはそれと分からず、
友人も家来も分からずに通り過ぎたのですが、ただ一人コルネリウス・レントゥ
ルスという身分のいい若者だけが彼の姿を見てはっと思い、飛び降りて自分の馬
を寄せ、パウルスに、それに乗って身を救い、その時優れた指揮を最も必要とし
ている人々の所に行く様に頼みました。しかしパウルスはその願いを拒み、涙を
流すその若者を再び馬に乗らせてから、右手を差し延べて立ち上がり言いました。
「レントゥルス、君が証人になってファビウス・マクシムスに伝えてくれ。アエ
ミリウス・パウルスは最後まで貴方の判断を守り、貴方に対してした約束は一つ
も破らなかったが、先ずワルローに負け、次にハンニバルに負けたと。」
これだけ頼んでレントゥルスを去らせ、自分は殺戮する人々の中に飛び込んで
死にました。この戦いで死んだローマ人は五万人、生け捕りにされた者一万五千
人。ハンニバル軍の損害は五千人でした。
テレンティウス・ワルローはその後、ローマに逃げ帰って来ましたが、ローマ
の民衆は高官達を先頭に総出で城門に敗将を迎え、彼があれ程大きな不幸の後に
もローマの国家に就いて絶望せず、国政を司り法律と市民を出来るだけ救おうと
して帰って来た事を称賛しました。
テレンティウス・ワルローはその後も対ハンニバル戦争に従軍したと伝えられ
ています。
次はハンニバル戦争に於いて「ローマの剣」と称賛され、シラクサを攻略し、
アルキメデスを図らずも殺してしまうことになったマルケルルスです。
DSSSM:dsssm@cwa.bai.ne.jp