帰ると、ウルフウッドが、
「どこ行っとったんや!」
と怒鳴りました。
「ナンボ医者に診てもろても、ヴァッシュの病気はわからへん。そやのにアンタはどこ
へ何しに行っとったんやっ」
「ごめんなさいぃーっ。怒らないでくださいーっ」
ミリィは言いました。
「ヴァッシュさんの影、取りかえしてきましたっ」
「でかしたっ、ハニー」
ミリィは、目をつぶっているヴァッシュの足に、影を張り付けました。
ところが、くっつきません。ノリでつけてみました。セロテープでつけてみました。
それでもつきません。ミリィは泣き出しました。
「ご飯粒…でもダメですよねぇ」
「どうしましょう、もう一度お医者さんを…」
「アホやなぁ。ノリであかんかったら、こうするんや」
ウルフウッドは、ヴァッシュの影をぺろっとなめて、足にペンペンと貼りつけました。
影はぴたっとヴァッシュにくっつき、ヴァッシュはぱっちりと目を開けました。
そして、言いました。
「…おなか、すいた」
「人をさんざん心配させといて最初に言う言葉がそれかいっ、トンガリぃーっ!」
「ウルフウッドさんっ、ここは押さえてっ」
「なんで僕が殴られなきゃいけないんだよぉーっ」
頭を押さえながらぼやくヴァッシュを見て、三人は吹き出しました。
何も知らないなら、そっとしておこう。暗黙のうちに、三人はそう決めました。
「あー、なんかほっとしたら腹減っとったん思い出したわ。ワイ、朝御飯まだやろ?」
「そうですよ。いそいで作りますね、ダーリン」
「ねぇ、僕の分はー」
「お昼用に、パンケーキ作っていたんですよ。そっちにあるんで、先輩、お願いしま
す」
これですわね、とメリルがフタを開けると、いい匂いが部屋中に漂いました。
ミリィが作った目玉焼きと、メリルが切り分けたパンケーキを、みんなでおなかいっ
ぱい、食べました。黒猫様も、もちろんご相伴に預かりました。
みんなでかこむテーブルは、本当に楽しくて、おいしく食べることが出来ました。
…ナイブズさんは、独りでさびしくないのかな。
ちらりと、ミリィはそう思いました。
ナイブズもそのころ、フタを開けて牛乳を一口、飲んでいました。
なんの変哲もない牛乳なのに、なんだか、ひどく懐かしいような気分になりました。
「今だけ、だからな…」
その言葉を聞いたのは、ただ、通り過ぎる風だけでした。
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