お皿は、どんどん、どんどん転がって、だんだん速くなり、とうとうひらけた草原に
たどり着きました。
 草原の真ん中には大きな木が一本、立っていました。
 その下には、折り畳み式の椅子に座ってワイングラスを傾ける男がいました。男の
足にぶつかると、ようやく、お皿は止まりました。
「このお皿は、君のかい?」
「はい。ミリィちゃんのでっす」
 ミリィはこたえました。
「何故、ここへ来た?」
「あなたは、ナイブズさんですね? あなたに用事があるんです」
「用事?」
 ナイブズは鼻白んだ嗤いを浮かべました。
「ヴァッシュさんの影、取ったでしょう? 返してくださいっ!」
「アレなら、たべた」
「たべた、って…」
「ヴァッシュには必要ないからね。僕がもらっていても、構わないだろう?」
「ナイブズさん、ちょっとこっちに来てください」
 邪気のない笑顔を浮かべるナイブズに、ミリィはこわい声で言いました。
 ナイブズは不承不承といったていで、ミリィの前に立ちました。
「何で、ひどいコトするんですか!」
 ミリィはそういうなり、ナイブズのおしりを嫌というほどたたきました。
「何でたたく! 痛いじゃないか」
「なんで、何でヴァッシュさんの影、取っちゃったんですか? もしヴァッシュさん死ん
じゃったら、先輩も、あの人も、あたしも、みんな、みんな悲しみます!」
 いつの間にか、お尻をたたいているミリィもたたかれているナイブズも、わんわん泣
いていました。
 泣いているうちに、とうとうヴァッシュの影が、ぴょん、とナイブズの口から飛び出し
ました。
 ミリィは、あわててヴァッシュの影をつかむと、パンパンと洗濯物のようにのばして、
きちんと畳んでポケットに入れました。
 振り向くと、ナイブズがしょんぼりと座り込んでいます。
「ごめんなさい、ナイブズさん。でも、あたし、どーしてもヴァッシュさんの影を連れて
帰らなければならないんです」
「……嫌いだ」
 ぷい、とナイブズは横を向きました。
「あ、あのですねぇ」
 ミリィはエプロンのポケットを探ると、牛乳をナイブズに渡しました。
「こんなこと、言えた義理じゃないんですけど。イライラしたときは、牛乳が一番です
よ?」
 もう一度ごめんなさい、というとミリィはいそいで走って帰りました。
 走り去るミリィを見つめながら、ナイブズは、つぶやきました。
「人間なんて、嫌いだ…」



◆NEXT◆

◆BACK◆