結果を見れば、この行動は失敗だった。
 荻原とベイツがA.D.1995にたどり着き、目黒技術研究所へ向かう最中、爆発が起きたのだ。
 荻原は直後に“DIO”を暴走させ、悪魔の力を利用して東京を制圧した。
 ベイツはその後、目黒技研のデータ収集、ディスクのデータとして所持していた“FASS”の製造、情報分析と、為すべき仕事をこなしていった。
 ──彼は普通のアクシズの者ではない。
 それは、荻原に初めて会った時のベイツの直感だった。実際、すぐに証明もされた。彼の持つ生体マグネタイトは常人を遥かに凌駕しており、通常では有り得ないものだったのである。
 荻原の正体に疑問を抱きつつも、ベイツは己の役割を完遂させていた。
 現状において、ベイツは荻原にとって必要不可欠な存在となっている──内心はどうであれ。
 そんな荻原のもとに、ベイツはある報告をした。
「パルチザン?」
 荻原がその名を反芻した。
 遊撃隊、という意味だったか。
「悪魔からこの東京を解放するために作られた組織です。いくつかあるようですが、人員的に最大なのは新宿パルチザンでしょう」
「資料は?」
「こちらに…」
 書類を渡そうとしたベイツが口を閉ざした。その様子から、彼がなんらかの情報を知ったのだと理解し、荻原は待つ。
 無線での連絡を終え、ベイツが荻原に向き直った。
「渋谷が陥とされました」
「ほう…」
「どうも彼らは目黒に向かっているようです」
「なかなかやるようだな。リーダーは…橘薫、か」
 文字を追っていた視線が、止まった。
「…成程、目的は目黒技研か」
 呟き、彼は立ち上がった。
 荻原が何を納得したのか、ベイツにもわかっている。彼もまたパルチザンのメンバーの中に同じ名を見つけていたのだから。
 資料を机に置き、荻原はベイツを振り返った。
「新宿パルチザンを片付ける。そろそろ“FASS”が完成するはずだ。完成次第連絡を頼む」
「承知しました」
 荻原は本営を出て行った。
 “FASS”に関してのメインプログラムはベイツが担当し、技術者への情報は必要最低限のものとしている。外部へのデータ流出を防ぐため綿密なトラップを張り巡らし、内部コンピュータはデータをすべて消去したため、“FASS”の情報漏洩の可能性は限りなく低い。完成すれば技術者たちはこの一年の記憶を失うよう手を打った。
 目下の問題は、別のところにあった。
 荻原が残した書類を取り上げ、ベイツは一つの名前を拾いあげる。
 武内直樹。
 “DIO”システム開発者武内博士の一人息子。
 そして、ベイツ自身が選んだ人間。
 行動を監視する為に荻原の下についたベイツは、こうして武内直樹との接点を持つに至ったのだ。
 そろそろ、頃合いだった。
 荻原がどう出るか。否、彼の行動は明白である。
 ベイツは視線を窓の外に転じた。
 絶対数は低いながらも、自然を残している。
 彼の知るA.D.2052は、無機質な街という印象が強い。木々や生物は造り物のようで生きている実感がなく、自らを主張しない。
 それが時代の人間にも反映されるのだろうか。
 A.D.2052で現状打破のため動きを見せたのは荻原だけだった。少なくとも、彼は他にそういう人間を知らない。
 A.D.1996では東京各地で人々がパルチザンという組織を作り、立ち上がっている。
 勿論、その時代における敵の差はいちじるしい。A.D.2052は政府上層部が悪魔により支配されており、A.D.1996では悪魔を指揮しているのは、強いとはいえ一個の人間でしかない。
 だが、根本が違うのだ。
 ──人は信じるに値すると私は思う。
 普段の冷めた口調の中に少しだけ異なるものを含ませ、『彼』は言った。
 ──少なくとも、私の知る者は信ずるに値した。だから我々は彼らに力を貸したのだ。確かに過ちを犯す者はいる。だが信じられる者もまた存在する。ゆえに彼に賭けた。そして彼は我らの期待に充分に応えてくれた…。
 それはあくまで運が良かっただけだ。
 向けられた笑みは冷めた、けれども落ち着いた…大切なものを見守るような、そんなものだった。
 ──君もそういう人間を識れば、私の言うことを理解できるだろう。…彼に会うまでは、私も同じ思いを抱いていたのだから。
 現にアクシズは崩壊への道を進み、後戻りはできないのだ。
「…たかが一人の人間のために、私の価値観は変えられぬ…」
 見えるはずのない何かを睨みつけ、彼は足早に部屋を出た。


 新宿パルチザンをほぼ壊滅させた荻原の前に、黒で統一した服装の青年が立ちはだかった。
 今、荻原のいる部屋までには何体かの悪魔がいたはずなのだが、それらはすべて倒したらしい。
 震える肩は怒りによるものか。悪魔に対する、敵に対する、そして己に対する…怒り。
「君がリーダーの橘薫か。君の勇名は私も聞いている。どうだ、その力、私の元で使ってみないか?」
「ふざけるな!」
 声を荒げる青年に対し、何故か荻原は笑みを返す。
「そう言うと思っていたよ。しかしまだ若いな」
 しゃにむに突っ込んだところで力量の差は歴然としている。こういう時は生き残り、反撃の機会を窺うのが最善の策と言えるのだが、眼前の青年はそれを一蹴した。
 すべてを論理的に考えようとする荻原だからこそそう思うのだが、橘薫は感情を優先させていたのだ。
 そこに、一人の人間が現れた。
「…ベイツか」
「荻原様、システムは完成しましたが、A.D.2024を経由しなくてはA.D.1995へのイントルードはできなくなりました。如何なさいますか?」
「そうか、厄介だな。では行くぞ」
 さほど厄介とは思えない口調で応え、荻原がきびすを返した、その時。
「逃げる気か?貴様の相手は俺だ!」
 激昂した薫の声に、ふ、と荻原が笑った。できの悪い生徒を見る教師のそれに近いが、幸か不幸か薫にその表情は見えない。
「ベイツ、先に逃げた二人を始末しろ!」
 荻原がここを襲撃した最たる理由はそれである。直に手を下すつもりだったが、この青年を見過ごす気にはならなかった。
「はっ」
 頭を下げ、ベイツが出て行く。
 荻原はその彼に何かを感じた気がしたのだが、それは背後の殺気によって一時的に記憶の片隅に押しやられた。
 薫はちら、とベイツの後を目線で追った。
 その彼の注意を引くように、荻原が言う。
「薫とやら、よかろう…相手になってやる」
 薫が斬りかかった。が、あっさりと流される。
 舌打ちと共に二回、三回とかかって行くが、激情した彼の攻撃は、荻原にとって難なく見切ることができた。
 実力の差はもちろんだが、周囲が目に入らない人間の行動など、冷静な者には手に取るようにわかる。薫が唯一押していると思われるのは、怒りからくる勢いだ。
 しかし、それも荻原が守りに入っていた為である。 彼が攻撃に転じると、たちまちに形成が逆転し、薫は追いつめられた。
「覚悟はいいな」
 満身創痍の薫に対し、荻原が言い放った。
 死の宣告に対しても、相手は闘志を失っていない。最後の反撃を計算に入れ、荻原が刀を振り下ろした。 刹那。
 血飛沫が飛ぶ。荻原が斬った相手は、ゆっくりと地に伏した。
「…勇也っ!」
 薫が絶叫に似た声を上げた。自分を庇った仲間を助け起こす。敵のことは眼中にないようだった。
「カオ…さ…逃げ…」
 袈裟がけに斬られた傷から、骨が覗いていた。衣服は赤黒く染まりつつある。息も絶え絶えの少年が、それでも薫の腕を押した。
 行け、と言うように。
 斬られた少年に、もはや体力は残されていない。先程の動きも弱々しく、その命の灯は消えつつあった。
 だが、未だ開かれた瞳は訴え続けていた。全身全霊を込めて、ただひとつのことを。
 今、手にしている刀を一振りすれば、この組織は完全に壊滅できる。
 リーダーの青年は自分にまったく注意を払っていないのだ。これほど簡単な動作はない。
 しかし、荻原は動かなかった。
 薫は少年を見つめ、唇を噛んでいた。
 突然、彼は窓へと動いた。体当たりで窓を破り、外へと逃走する。
 ひどく静かになった部屋の中で、荻原は少年の顔を見、嘆息した。…理由はわからない。
 橘薫の最後の判断は正しい。勝ち目のない戦いで命を落としたところで、何も変わりはしないのだ。敗者はそのまま葬り去られる。
 彼にその決断をさせた少年は安堵の表情を浮かべ、息絶えていた。
「荻原様」
 戸口に目をやると、ベイツが立っていた。肩に誰かを担いでいる。
「…申し訳ありません。一人取り逃がしました」
「その男は?」
「殺すよりも洗脳し、手駒にした方が使えると判断しました」
 荻原が一瞬、嫌悪感を見せたが、首を振った。
「…好きにするがいい。私はA.D.1995へ向かうが…」
「何か?」
「このパルチザンのメンバーを弔いたいのだがな」
「……」
 ベイツのサングラスの下の目が、少し見開かれた気がした。
「…私に任せていただけますか?」
「ああ…頼む」
 不思議な時代だと荻原は思う。
 56年といえば、歴史的に見れば短い間である。だが生きている人間にとっては長いものだ。
 A.D.2052とA.D.1996。
 時間にひどく隔たりがあることを、荻原は骨身に染みて感じた気がしていた。


「これが“DIO”システムだ。今おまえの周囲にいる悪魔への指示に必要不可欠のものとなる」
 菊池智晴がベイツから“DIO”を受け取った。その目に生気は感じられない。
 洗脳により、彼はベルゼブブの意のままに動く。決して己の意識が表層に現れることはない。
 そうして智晴は武内直樹と戦うことになる。結果がどうなるのかはわからないが、これによって直樹が“DIO”を知るだろう。資質さえあれば、己の力次第で強大な悪魔さえ従わせるプログラムを。
「さて、どうなるか…」
 冷笑を浮かべ、ベイツは品川を去った。
 直後、彼はA.D.1995へのイントルードを果たした。
「早かったな」
「さほど時間を要するものではありませんでした。こちらは?」
「新宿に一部隊を残した。まもなくだろう」
「そうですか」
 時間待ち、と言ったところである。だが作戦が終わるのもほぼ確実だろう。
 モニター画面に目黒の様子が映った。
 目黒技研の爆発が起きた日付までに、二週間ほどの猶予がある。悪魔が総攻撃を開始し、二人が技術者たちの死を確信した。
 その時。
 妖鳥が断末魔の悲鳴を上げ、地に伏した。
 続いて妖鬼、魔獣、闘鬼などのあらゆる悪魔たちが倒されて行く。
 攻撃が止んだのを見計らったように、研究所から人影が四つ、出現した。
「馬鹿な…!」
 思わずベイツが声を出した。傍目にも、その表情がどこかこわばっているのがわかる。
 荻原はそんな彼を横目に、苦笑にも似た表情を浮かべた。
「どうやら彼らには時の女神の加護があるようだな」
 しかし、その声もベイツの耳には届いていない。
 A.D.2024に“FASS”は設置していない。だからこそベイツはあの時代に智晴を残し、A.D.1996の “FASS”時間軸をA.D.2024に設定してきたのだ。こちらの一件が片づいてから、彼らをここへ呼ぶために。
 ベルゼブブか、という考えも一瞬頭をよぎったが、即座に否定する。
 もっとも強大な力を持つ代行者といえども、己の属さない世界への干渉はほぼ不可能である。ベルゼブブが智晴を操れたのは、彼自身の手助けあればこそだったのだから。
 操られているはずの智晴と武内直樹、どういうルートでかは不明だが彼らに合流できた橘薫、そして見慣れぬ娘。この四人が目黒の悪魔たちをすべて倒したのである。
「どうやらおまえの仕業ではないようだな、ベイツ」
 ベイツが絶句し、荻原を見た。
 先程の呟きは、画面を見ながらだったらしい。視線に応じるように、彼はベイツに顔を向けた。
「武内直樹、あの男が鍵だったのだろう?」
 質問というよりは確認する口調だった。
「…ご存知でしたか。存外お人が悪い」
 驚きを通り超せば動揺は微塵もない。
 すべてを認めると、ベイツはどこか感嘆した声音で荻原に応じた。
「利用される立場というのは気分のいいものではないが、それでも目的が果たせるならば構わんさ」
「貴方の考えに反対するつもりはありませんでした」
「だろうな。利害が一致しなければ協力など申し出られん」
 四人は池袋へ向かっている。どうやら東京の悪魔を倒しつつ、この品川までやって来るつもりらしい。相手が攻めに転じてこなければ、有効な作戦である。
「ベイツ、ひとつ訊きたいことがある」
「何でしょう?」
「この“DIO”はどうやって入手した?」
「…“DIO”、ですか」
 自分の目的などを訊かれるかと思っていたベイツは少し拍子抜けした顔を見せたが、即答した。
「エティエンヌ・アルフォンス・ラ・フレーシュという方から譲られたものです。元はA.D.2024にコンピュータネット上に無差別にばらまかれたものだと聞きました」
「SLUM・TOKYOでか…」
「……」
 当時、事態の収集に乗り出したのは一人の民間人だった。
 プログラムを使いこなすには資質が必要である。そういう人間が少ないのもまた事実だ。しかし、あの時もまた自発的に行動した人間は彼一人だったはずである。その人間にエティエンヌ──ウリエルは力を貸した。人間性を信じたラファエル、ガブリエル、ミカエルもまた力を貸し、当時のサタンの目論見は潰えた。
 しかしA.D.2052に至り、事態は更に悪化している。
 彼自身、サタンの行動に納得している部分があり、アクシズの未来になど興味はなかった。ミカエルの言葉であったが故に、カマエルはアクシズへの関与を承諾したのだ。
 ミカエルの望んだ人間は、武内直樹だろう。
 確かに彼はこの渦の中心人物である。そして、これらの事態を収拾すべきは彼なのだろう。それは理解できる。だが…。
「…私は、貴方の行動を間違っているとは思わない」
「ベイツ?」
 彼の耳に、荻原の声は届いていなかった。
「あの時代、あれだけの人間がいながら誰一人として自発的に行動するものはいなかった。時代を、人間を、己自身を守ることを放棄していた者たちに、何の助力ができる…」
 あの時は、ただアムネジアを救うことだけを考えていた。人間というものに対し、もはや何も望むつもりはなかった。人間へ手を差し伸べようとする四大天使の意図が無駄に思われてならなかった。
 ミカエルが憂えた状態をわざと作り出し、後戻りのできない状況になってなお、荻原以外の人間は行動を起こさなかった。
「誰でも良かったわけではない。己が利益に走ることなく時代を守るという信念の持ち主が…悪魔の支配を断ち切らねばやがては身の破滅に繋がるということに、何故誰一人として気づかない!」
 自身の声に、ようやくベイツは我に返った。
 荻原から視線を逸らす。
 ひどく、動揺していた。何故こうも激情したのか、四大天使の人間への信頼か、それを平気で無にしようとする人間に対してか、あるいは眼前の男の行動の結末に対してか。
 自分の感情がつかめないことが、動揺をさらに大きくする。
「ベイツ」
 荻原がその名を呼んだ。
「礼を言う。君の協力がなければ、私は何もできなかっただろう」
「…荻原殿…」
「迷惑ついでと言ってはなんだが、最後にひとつ頼みたい」
 荻原はモニター画面を見た。東京の地図で表している彼の勢力は、徐々に減少しつつある。
「武内直樹たちに協力してもらえないか?」
「……」
「私が言うまでもないかもしれんが、少なくとも彼らは何もしていない人間ではない。私の率いる悪魔に占領された東京を開放するべく、命を賭けて戦っている」
「……」
「君が洗脳した男もまた彼に同行しているな。…このことからも助力するに足るものだと認めているのだろうが……」
 ベイツは声に出しては何も答えず、ただ荻原の背に軽く頭を下げた。
 戸口に向かっていた彼の背に、荻原の声がかけられる。
「達者でな」
 ベイツが歩みを止めた。
 わずかに背後の男を振り返る。
「貴方に運命が力添えをするよう、祈っています」
 そうして、荻原の唯一の部下は姿を消した。


 武内直樹たち四人が次々と敵を倒して行く様子は、荻原を感心させていた。
 全体的な作戦は橘薫によるものだろう。しかしリーダーが誰かといえば、それは間違いなく武内直樹である。
 “DIO”システム開発者の息子が、“DIO”を用いて悪魔と戦う──皮肉と言えなくもないこの構図は、嘲けられるものとは思えなかった。
 明確な解答は導けないが、彼が己が力を駆使して街を守ろうとしているのはわかる。彼──そして、彼らが。
 荻原は、ふとパルチザンを壊滅させた時のことを思い出した。──橘薫に止めを刺そうとした時、身を挺して彼を庇った少年のことを。
 この時代もまた、自分の時代へと連なってゆくのだろうか。
 先程のベイツの激昂には驚いた。しかし同時に、なぜか寂しさを感じた気がした。そして、彼が事態に抱く憤りが、荻原には嬉しく感じられもした。
 悪魔の存在さえ排除できればA.D.2052もA.D.1996と同じように、人間が人間らしい活気を取り戻せるだろうか。
 彼らが品川に到着した。
 理由はどうあれ、仲間を殺した相手を赦すほど人は寛容になれはしないだろう。仲間という言葉の概念から、荻原はそう考える。
 また赦してほしいなどと思ってはいない。荻原がとってきた今までの行動は、彼の信念に基づくものであり、必要と考えたものなのだから。
 同様に、彼らには彼らの信念がある。
 混じりあえぬものであることは百も承知だ。しかしその中で共通できる思いを通し、A.D.2052を託したい。
 共通の思いを持つ人間に後を託すのは、彼らの言う仲間という概念に近いのかもしれない。
 ──そう、荻原は思った。



 再会した時も、必要な言葉以外の会話はなかった。必要がなかったと言うべきだろうか。
 荻原が武内直樹たちと共に行動していると知った時は、安堵した。
 ──人間も、まだ捨てたものではないのかもしれない。
 ミカエルやウリエルの言葉をよもや身をもって感じることになるとは、カマエル自身考えもしなかったことである。
 一個の人間に肩入れすることは判断を鈍らせる。そう彼は考えているのだが、それでもなお信ずるに値する人間の存在は、天使にとってかけがえのないものらしい。
 彼らの存在が三界を救うことになるか否か。
 以前の彼ならば、アムネジアが救われることを念頭に物事を捉えていたが、今はかなり異なっている。 できることなら三界を救ってもらいたい、と。
 アクシズは天使が愛しむ人間の地であり、パラノイアもまた存続すべき世界なのだ。……そう、感じている。
 人間全体への不信感がぬぐいきれたわけではないが、少なくとも彼らは信ずるに値する。
 ウリエルの信じた人間と、自分の信じた人間。
 その数奇な繋がりに思いを馳せつつ、カマエルは彼らの生還を望まずにはいられなかった。



──了


◆BACK◆

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<あとがき>

 本当は別の話を書く予定だったんですが、「荻原が何故1年もAD1995に残っていたのか」が気になって書いた話です。同時にカマエルの動向がひっかかり、いつの間にか彼が主役になってしまいました(笑)。
 真・女神転生をプレイしていると四大天使が悪者のように見えますが、とあるPBMのストーリーの中で、天使が人間に向けている愛情を知る機会を得まして、この話が出来ました。でも、個人的に好きなんです、カマエルが(笑)。メガテンと魔神シリーズでは大天使の位置づけがかなり違うような気がします。
 これは真・女神転生シリーズで持ってしまった四大天使(熾天使)への偏見がなくなった後に書いたものです。もともと魔神シリーズは天使に対する偏見を持ちにくかったので、その辺りの矛盾がなくなったおかげで書き上げられたものだと思います。
 実は密かにお気に入りなんです。この話(笑)。