Side ARC ビビガはアーク達と共にシルバーノアへやってくると、チョンガラやチョピンにエンジンの状況を確認し、すぐさま修理に取り掛かった。必要な工具や機材を運びつつ、チョンガラとチョピンが作業を手伝う。 アーク達も手伝いを申し出たが、「専門知識のない奴は役に立たねぇ」と一蹴されてしまった。 だが、そう口にするだけあって、腕は確からしい。チョピンが頻りに感心していることからも、それは察せられた。良くも悪くも職人気質なのだろう。 結局、シルバーノアの修理は三人に任せることになり、アークたちは作戦室でビビガの情報の検討を始めることとなった。 ビビガの持っていた情報は密輸航路に関するもので、彼の知人の飛空挺整備士が、航路地図の所在を知っていたのだ。 だが。 「…その整備士さんって今回の事件で関係者として捕まったんだよね」 「施設の書類も押収されたのでは、具体的な手がかりを得るのは不可能だろう」 落胆したポコの言葉を受けて、イーガが淡々と事実を口にする。 彼らは事件の概要に関してのみという条件で、ビビガを通じてギルドの情報を得ていた。 「せっかくの情報だったのになぁ…また一からやり直しになっちゃうね」 「いや、そうでもないさ」 「え?」 確信に満ちたアークの声に、ポコは驚いて彼を見る。 「確かに航路自体は不明のままだけど、ビビガの情報でロマリアの密輸行為が事実だとわかった。それに、ロマリアは今までに有能な技師を拉致しているんだ。技師を必要とする『何か』を作っていると考えるのが妥当じゃないかな」 「あ、そっか…」 「問題はそれがどういったものかだけど」 「他にも気になることがありはせんかな?」 真っ白い鬚をなでながら、ゴーゲンがアークに言う。彼が目線で問い返すと、ゴーゲンはどこか教師のような口調で意見を述べた。 「あの男が助けようとした技師のほかにも、何人かが幽閉されておったのじゃろう?失踪者が出たのになぜ警察が動かんかったか」 「上からの圧力、か」 「そういやぁ、プロディアス市長はロマリア出身らしいな。ビビガに聞いたんだが、あの建設業者を斡旋したのもその男だって話だぜ」 アークが思考を巡らせようとしたところへ、トッシュが新たな情報をもたらす。その口調は珍しく真剣だった。 「え、ちょっと待って。さっきニュースであの事件の続報が流れたけど…」 「業者はプロディアス市の管轄下で、事業を再開するという話じゃったな」 作戦室が、一瞬、水を打ったように静まりかえった。 軍事国家ロマリア。スメリア大臣であり、アーク達を陥れたアンデルの関わる国。そして、このプロディアス市長もまたその出身であるという。 偶然にしては、できすぎている。 「プロディアス市長とロマリアの関係を調べてみよう。後はロマリアが何を作ろうとしているのか…。当分の調査対象は、この2つに絞ってみる」 異存のある者はいない。リーダーの決定に全員がそれぞれに頷いた。 |
シルバーノアの修理には3日を費やした。ビビガの腕がかなりのものであることは証明済みである。この日数によって、如何にエンジンの故障が深刻であったかがわかろうというものだ。 「これで今回はもう心配いらねぇが、これからは機体を休めての定期的なメンテナンスをするべきだ。いくらこいつが丈夫でも、無茶すりゃ壊れて当たり前だぜ」 修理を終えたビビガは、シルバーノアを降りながら、最後にこう言った。 「確かに、あまりおおっぴらにできんとはいえ、ムチャをさせすぎたわい」 シルバーノアの外壁をなでながら、チョンガラが相づちを打つ。船長を豪語するだけあり、彼のシルバーノアへの愛着は、この機体に最初から乗船しているチョピンに勝るとも劣らないものがあるのだ。 「本当に助かりました。ありがとうございます」 「こっちこそ、世話になった」 アークの丁寧な礼に、ビビガは短く答えた。ぶっきらぼうな口調だが、アークにも彼の言葉から謝意を汲み取ることができるようになっていた。元来、不器用な男なのだろう。 ビビガはトッシュを見やった。 「今度飲みに行かないか?いい酒を置いている店があるんだよ」 「そりゃあいい。厄介事が片付いたら、飲み明かそうぜ」 「ああ、楽しみだ……それじゃあ、元気でな」 そして、何も問わずにビビガは去って行った。 シルバーノアに乗り込む全員が見送る中、彼の後ろ姿が見えなくなると、ポコがぽつりと呟いた。 「いい人だったよね。あんな技師さんがいて良かった」 「そうだな。まったく、一時はどうなるかと思ったぜ」 消えた後ろ姿に笑みを送り、トッシュが応じる。そして、不意に現実的な話題を振ってきた。 「…で、次からはどこでシルバーノアをみてやるんだ?」 「ああ、そうだな…」 「やはりトゥヴィルに戻るのが一番じゃろう」 答えを探そうとしたアークを余所に、ゴーゲンがあっさりと言ってのける。 「いや、でも……」 「そうだよね!ククルも心配してるだろうし、久しぶりに戻ろうよ」 ためらうアークの声にかぶせるように、ポコが勢いよく喋った。 普段ならトッシュの横槍が入るはずだが、彼は口の端を上げて笑っている。 その場の全員の顔を見回し、やがてアークは苦笑した。 「…そうだな。久しぶりに、戻ろうか。トゥヴィルへ」 仲間の心遣いを嬉しく思いながら、アークは空の彼方へと視線を送り、遠く離れた少女の姿を脳裡に想い描く。 ──まだ、行きつく先は見えないけれど。 彼らが共にいるならば。共に在ってくれるなら。 大丈夫だ、と思う。 一人なら挫けていたかもしれない。 でも、責任の重圧に押しつぶされてしまうように思われた時。助けてくれた仲間がいた。 アークは振り向いて、仲間たちを見る。 向けられたのは、強い意志を秘めた瞳。それはまさに彼らの心を魅了した勇者の姿だ。 そして、アークは力強い声で仲間に告げた。 「さぁ、行こう。みんな」 ゆっくりと巨大な飛空挺が高度を上げてゆく。 次なる目的地に向かって、シルバーノアは発進した。 飛空挺に乗り込んだ勇者たちの意志と共に……。
──fin
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