だがその村には度々治安維持のための米兵が訪れていた。 それを見て、忘れていた記憶がジュンの脳裏に甦る。 ビースト、それが人の進化した姿。 しかし自らも進化した体を持ちながら、そのビーストを敵に回したがためにビーストから裏切り者とののしられ、また人からも敵と見なされた日々。 無意識にジュンに怒りがわき上がる。
ほとんどの人は自分を化け物と呼んだ。 またある者は獣の体を持つ自分を受け入れようとしてくれた。 だがいずれにせよ、自分は既に人ではなかったのだ。
戦いの日々。血で血を洗う殺し合い。 その記憶は夜毎にジュンを責め続ける。 あの殺戮。それこそが本当の自分の姿? ふと横から声がかけられる。心配そうに自分を見ている千夜子。
翌朝、米兵達が無惨な姿で殺されているのが発見された。 その現場を脅えた様子で見るジュン。自分が昨夜、彼らを殺してしまったのではないか…? そんなジュンの側にいつの間にか来ていた千夜子。
その頃、千夜子の家に警官が来ていた。米兵殺害現場に、ジュンが千夜子のために作っていた折り鶴が落ちていたのだ。
千夜子はジュンを秘密の場所へと案内する。そこは小さな滝のある奇麗な沢だった。 だがそんな景色を見ても、ジュンには黒崎あおいや和美のことが思い出されて苦しいだけだった。 泣き崩れるジュン。
その時、突如銃声がして千夜子が倒れた。ジュンが見ると、脅えた様子の米兵が銃を握っていた。 ジュンの目が怒りで輝き出す。と、その時、眉間を撃ち抜かれた千夜子が平然と起き上がった。 眉間の傷は見る間に治り、その代わりに青く輝く第3の目が開く。 響く銃声。米兵は自らの銃でその命を散らした。
「千夜子ちゃん、あなた…いつから…?」
「お姉ちゃんに会ってからだよ」
無邪気に答える千夜子。ビーストの存在がビースト因子を誘起する…。千夜子は自分のせいで!
そして千夜子こそが昨夜の米兵殺害の犯人だった。
それは…ジュンが彼らを殺したいと思っていたから。千夜子はジュンのために彼らを殺したのだ!
もう二度と目の力を使わないようにと言うジュン。 すると千夜子は、約束したら行かないかと問う。ジュンの心の中にいっぱいの、アスカのところへ。 途端にジュンの心に甦るアスカの記憶。千夜子が今まで閉じ込めてくれていた、アスカの記憶。
家路につく二人。そこで警官がジュンの行く手を阻む。 おとなしく逮捕されるジュン。 が、ジュンが自分の元を去って行くと察した千夜子は目の力を解放する。 炎上するパトカー。暴発する拳銃。 ジュンは千夜子を守るため、人々が見ている中で変身して飛び去る。
家に送られてきた千夜子。が、千夜子は物陰にジュンを見つけてジュンの元に駆け寄る。 しかしジュンは千夜子を祖父母の元に返す。 自分もアスカも人ではない。だが千夜子は人だから、自分と一緒にいてはいけない。 目の力を使わず、人として生きて欲しいと。
一方、アスカはずっとジュンを待っていた。
「ジュン、まだなの? まだあなたは何をしたいか気付いてないの?」
「戻ってらっしゃい、私のところに」
「私を殺しに…」
そしてジュンはアスカの元へと向かう決意を固める。
今回の話は総集編的な位置づけがなされており、そのため回想シーンの類が非常に多い。 それでも他の作品の総集編的エピソードとは異なり、しっかりストーリーが進んでいるところは好ましく感じる。
しかし今回の話、総集編的内容に決まる前のプロット段階では真紀猛が結構活躍する話にするつもりだったらしい。 なんと明…じゃなくて猛がベルトをビシバシいわせてアスカと戦うんだそうだ。おいおい。 あ、わけ分からん人はアニメ版デビルマンを参照のこと。 で、それだけじゃなくて、猛にとって美樹の位置づけになる多香絵が平手打ちするシーンまで想定してたとか。 でも平手打ちするのはやっぱり「平手美樹」じゃなくちゃやだなあ。
けどそんなプロットのままだったら実際に映像化までこぎつけられたのだろーか? なんか悪ノリし過ぎ。 しかし何かの勢いで映像化されてしまいそうな気がするところが、この作品の凄いところなんだよね。
さて、前回の戦いでズタボロになってしまったジュン。 ついに戦いを完全放棄し、かりそめの平和に身を委ねる。
これは千夜子がジュンの心を閉じ込めてしまったからというのもあるが、どっちにしてももうジュンには戦う理由は何もない。 かくして半年もの間、ジュンはほのぼのした日々を過ごしてしまったのだ。 とんでもない主人公だな、やっぱり。
そして今回の重要キャラ、千夜子。 本作ではサトル以外の子供キャラは本物の子役が演じているのが通例なのだが、さすがに今回は最も重要な役なので実力重視ということか、こおろぎさとみを起用。 その名の由来はアニメ版デビルマンのチャコからで、またその能力はサイコジェニーをほうふつとさせるものがある。 やっぱりデビルマンへのオマージュにあふれているわけね。
で、その千夜子が引き金となってようやくジュンはアスカとの戦いを決意するわけだが、そこに至るまで半年だよ、半年。 アスカはその間ずっとジュンを待っていたわけなのだが、もし千夜子がいなければジュンは戦う気など起こさなかったはず。 そうなってたらどーする気だったんだろう? …でもジュンは必ず来ると確信してたのかもしんない。 ジュンも永遠に現実から逃げるわけにはいかないからね。 かくしていよいよ最終決戦が始まることになるのだ。