ちなみにそれぞれの鬼太郎役は、野沢雅子・野沢雅子・戸田恵子・松岡洋子となっている。 ちゃんと覚えておかないと、いいかげんな記憶では全部同じ声に聞こえるので気をつけよう。
しかし、鬼太郎はどうやって生まれたのか、どうして目玉が父親なのか、ということは案外知らない人が多いのではなかろうか。 ということで、鬼太郎の誕生秘話である「鬼太郎の誕生」(アニメ化されたかどうかは知らない)のあらすじを後で示そう。
早速病院に向かう水木。会ってみるとその患者は、脈が止まっており体温が死人と同じで、何も食べずに生きて(?)いる。 その原因は輸血した血以外には考えられないと聞き、その供血者を調べる水木。 すると名前は書いていなかったが、なんと住所は彼のものと同じだった。
家に帰り母親に聞いてみたが、同じ住所は近くの古寺くらいしかないという。 そこで水木はその晩、寺に行ってみる。
すると無人と思われた寺には不気味な女がいて、彼にカエルの目玉を食べないかと勧める。 逃げ出そうとする水木。ところが全身に包帯を巻いた不気味な男が彼の行く手を阻む。 そして水木はやむをえず彼らの話を聞くことにする。
彼らは太古から続いてきた幽霊族の生き残りの夫婦であったが、夫の方が不治の病にとりつかれてしまった。 そこで身重ながら妻の方は、治療のために金を手に入れようと血を売りに行ったのだという。 それを聞いた水木は、一度は銀行に報告しようとするが彼らに説得され、しばらく黙っていることにする。
数ヶ月後、水木は再び寺を訪れてみる。すると二人とも死んでいた。 哀れに思った水木は、ドロドロに腐っていた男の方はあきらめて、妻の方だけ墓を作って埋めてやった。
数日後の嵐の夜、赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。墓に行ってみる水木。 すると女の墓の中から、片目の赤ん坊が這い出してきたではないか。 この子は化け物の子だ、と殺そうとする水木。だが殺すことができず、赤ん坊を放って逃げ出す。
一方、古寺の男の死骸。腐った体から落ちた目玉に、なんと手足のようなものが生えてきて動き始める。 奇怪にも喋るその目玉は墓の方へ行き、鬼太郎と呼ぶその赤ん坊を水木の家に連れて行く。
家に帰っていた水木、家に赤ん坊が来たのに驚くが、赤ん坊が彼に甘えるのを見てかわいそうに思い、育ててやろうと決心する。
赤ん坊はどこからともなく手に入れたちゃんちゃんこを着て下駄を履き、目玉親父に見守られながらすくすくと育っていく。 しかし不気味なその容貌のせいで、「墓場の鬼太郎」と呼ばれて近所では誰も遊ぼうとしない。 やがて水木の母親は、鬼太郎が夜な夜などこかに出かけるのに気付く。後をつけてみる水木。 鬼太郎は目玉親父に導かれて墓場に向かっていたが、水木は突如鬼太郎を見失う。墓場には下駄だけが残っていた。
翌朝、鬼太郎を問い詰める水木親子。鬼太郎は「死人の世界」に行っていたと白状する。 二人は、これからも夜な夜な出かけるようならこの家から出ていってくれと鬼太郎に言う。
目玉親父は、不自由な人間の世界からは抜け出そうと鬼太郎に言い、二人は一緒にあてもなく足の向くまま旅に出るのだった。
幽霊というのは成仏できない人間の霊魂がさまようもののはずだ。 だがここに出てくる幽霊族は人間よりも歴史の長い種族だそうで、夫婦になって子供を産むなどといった普通の生物的な面が強い。 それが幽霊というのは何故?
これが我々の言う幽霊とは別の種族とはいえ、その幽霊と無関係ではないだろう。 幽霊とは精神的な存在だが、彼らもかなりそういう面が強い生き物なのではなかろうか。 つまり、肉体の破壊は彼らにとってさほど重大ではなく、どちらかと言うと精神の衰えの方が深刻な問題となるのではないだろうか。
実際、鬼太郎はほとんど不死身と言っても良い。体が溶かされようとバラバラになろうと、平然と甦る。 水虎との戦いでは、自分は幽霊の子だからいくら体が冷えても平気だと言って体を氷点下まで冷やしていた。 親父も目玉だけになっても生き続けるとは相当なものだ。母親が死んだのは、鬼太郎に全霊力を注いだせいだろう。
一方、妖怪というのは物の怪、つまり物体が妖気を帯びて生物のようになったものである。 つまり体がまず在りき、なのである。従って、再生能力がいくら優れているとは言っても体を完全に破壊されればそれで命は尽きる。
そうなると、体を破壊されてもなんということはない鬼太郎と戦えばどうなるかは目に見えているというものだ。 鬼太郎が強いのも納得。
その鬼太郎に弱点があるとすれば、精神の源、すなわち霊魂を直接攻撃された場合だろう。 例えば死神に霊魂を持ち去られそうになるという話があったが、これは鬼太郎危機一髪の大事件と言えるのではなかろうか。 もっともこの事件、目玉親父のおかげであっさりと片がつくのだが。
では何だったのかと言うと、鬼太郎は元々自分なりの価値判断で善悪を決めて、悪と見なせば人間だろうが妖怪だろうが徹底的に懲らしめる存在だったのである。 人間相手に妖力を振るうのは実にアンフェアで正義の味方らしからぬところだが、鬼太郎は案外平然とそういうことをしている。
信じられない人のために、実例をいくつか紹介しよう。 なお、これらのエピソードは昨今のアニメ化においても放送されることはあるようだが、鬼太郎のイメージが悪くならないようにストーリーがかなり歪められていることが多い。 ここでは原作そのままの紹介を行なう。アニメ版とストーリーが違うと言われても困るのでそのつもりで。
まずは「地獄流し」。 二人の銀行ギャングが逃亡中に鬼太郎の家に辿り着き、そこで地獄行きのバスの切符を見つける。 隠れ家として格好だと思った彼らは、一枚しかないので一人はそれで地獄に出入りすべく停留所に向かう。 そしてもう一人は、家にあったピカピカ光る宝石のようなものを覗き込んでいた。そこから別世界が見えるのだ。
その内、鬼太郎が帰ってくる。ドライブに連れていってごまかそうとするギャングだが、車は変な所を走ってしまう。 やがて、お化けに囲まれた相棒を発見する。なんとここは地獄だというのだ。しかもあの切符は片道切符で、帰ることができない。 車に乗ってきた方はあわてて周りを見るが、鬼太郎の姿は既になかった。 悪いことをすると、生きながら鬼太郎に地獄に流されてしまうのだ。
とまあ、こんな話。鬼太郎にしてみれば彼らは単なるコソ泥なんだけど、それを地獄流しにしてしまうとは凄い。 いくらなんでもやりすぎである。
では、次に「幽霊電車」。 二人の男と飲み屋(?)で話をしていた鬼太郎(なぜか横にねずみ男がいる)、お化けの存在を信じない男を笑うが、そこで男に殴られてコブができる。 そこで鬼太郎、同じ大きさのコブでお返しをすると言い、その場は別れる。 二人の男は電車に乗ろうとするが既に終電は出た後。だが、駅長(に扮した鬼太郎)は特別に多摩霊園行きの臨時列車が出るという。
その電車に乗る二人。だがその電車は不気味な名前の駅にばかり止まり、車内には線香の匂いがたちこめ、乗客は死者をたたえる歌を歌う。 挙げ句の果てに乗客は骸骨に変わり、運転席からはお化けが大量に現れる。恐怖が限界に達した彼らは電車から飛び降りる。
翌朝、彼らは自分たちが廃棄されたボロ電車の中にいることを知る。 全ては鬼太郎の妖力が見せた幻だったのだ。 そして飛び降りた時に、見事に鬼太郎と同じ大きさのコブができていた。
大体こんな話。たかが一発殴られたくらいで相手を死ぬほど怖がらせるとは、これまたいくらなんでも酷すぎるぞ、鬼太郎。 ちなみにこの話、ほぼ同じストーリーで3回目のアニメ化でも放映されたが、そこでは鬼太郎がその時の顛末を楽しそうにユメコちゃんに語っていた。 ユメコちゃんも笑いながらその話を聞いていた。どーゆー神経しとるんだ、この子は。
もっととんでもない話もある。「おばけナイター」。 墓場で鬼太郎のバットを拾った少年がいた。 そのバットは念じた通りに打球を飛ばせる凄いバットで、たちまち少年のいるチームは有名になる。 が、ある晩、鬼太郎がバットを取り返しに来る。しかし少年はバットを渡そうとはしない。 そこで目玉の親父は、試合でかたをつけないかと提案する。 少年のチームが勝てばバットはあげるが、鬼太郎のチームが勝てば魂をもらうというのだ。
深く考えずに少年のチームは鬼太郎の妖怪チームに挑む。試合は真夜中に始まる深夜ナイターだ。 だが鬼太郎はバットをよけるボールを使っており、少年チームは鬼太郎のバットでも手が出ない。 そこで少年チームは抗議し、両者のボールとバットを審判が没収することで話がつく。 だがそれでも、ホームラン性の当たりもマンモス男が難なくキャッチするなど、全く相手にならない。
そして最終回、大量の点差に絶望した少年チーム、ようやく自分たちの命が無くなるのだと実感して打席に立とうともせず泣きはじめる。 それを見て、早くしてくれと催促する鬼太郎。 が、そこで夜明けが訪れ、鬼太郎チームのメンバーは次々に逃げ出していく。ついに鬼太郎だけが残る。 これでは試合にならないので鬼太郎は、バットはこちらに命はそちらに、ということで話をつけるのだった。
とんでもない話でしょ。前途ある少年たちの命をなんとも思ってないのだ。 しかし、なぜ魂を取ろうとしたのかは全くの謎である。 鬼太郎が人間の魂もらってもしょうがないだろうに。
人間相手でも容赦しない鬼太郎、ましてや相手が人間から変化した妖怪では、ますます容赦しない。 妖怪になってしまった悲しい理由を持っていても、だ。
例えば「土ころび」。これは工業排水を飲んで妖怪になってしまった百姓。 ねずみ男にそそのかされて鬼太郎の妖力を手に入れようと鬼太郎を食べるが、その強大な妖力に耐え切れずに爆発してしまう。 ケロリとして現れた鬼太郎。現地の人に、元はかわいそうな百姓だから供養してやってくれ、などと淡々と言って去って行く。 口ではそんなことを言っているが、罪悪感を感じている様子もない。 土ころびは無知なるがゆえに魔がさして、鬼太郎を食べようとしただけの元人間の三流妖怪じゃないか。 しかも妖怪になりたくてなったわけじゃない。 少しは悪かったなとか思ったらどーなんだ、おい。
もっとひどいのが「おどろおどろ」。自らを毛生え薬の実験台にしていた科学者が、薬の副作用で妖怪になってしまう。 そして人間の血を吸わないと生きられない体になってしまったのだ。 そこで子供をさらって血を吸うのだが、死ぬほどは吸わずにある程度吸ったら足がつかないように生きたまま霊界に送り込む。 なんか極悪妖怪のようで極悪ではない。さすがに元人間、といったところか。
そのおどろおどろと戦おうとする鬼太郎。そこでおどろおどろの子供(もちろん人間!)が割って入って、父を殺さないでと事情を話す。 が、おどろおどろは我が子をはねのけ、鬼太郎の血を吸おうとする。しかし逆に鬼太郎が血を吸い返し、おどろおどろは小さくなって死ぬ。
「鬼太郎のバカー!」と子供は石を投げる。 鬼太郎はちょっとだけ複雑な表情になったものの、霊界送りにされた子供たちを救って去って行く。 子供に憎まれる鬼太郎ってのも珍しい。もっと他に手段はなかったのか、おい。
と、こんな具合に初期の鬼太郎は独特の価値観で動いている。アニメの勧善懲悪な鬼太郎しか知らないと非常に違和感を感じる。 鬼太郎が好きな人なら、アニメだけでなく原作にも触れてみよう。 きっとあなたの知らない鬼太郎の意外な一面を見ることができるに違いない。
P.S.
以上述べてきたことは全て記憶のみに頼っているので、間違ってたら指摘して下さい。