【 3 】


 夜。
 ふと目が覚めてしまった。昼間はほとんど眠っていたので、夜になって眠りが浅くなったようだ。
 瞼を開いて、ベッド脇の窓の外を見た。夜空には青い月と赤い月。まだ夜明けまでは遠そうである。
(おや?)
 体を少し動かして、少し様子が違うことに気づいた。片側だけが重い。顔ごと視線を移してみると、ベッドサイドにミリィがうつぶせていた。
(まったく……。風邪でも引いたらどないすんねん)
 いつの間にやってきたのか。
 サイドのイスに腰をかけたミリィは、ベッドに顔を俯せて、そのまま眠ってしまっているようだった。
 柔らかそうな長い髪が頬にかかりながら、緩やかなカーブを描いている。寝顔は至極穏やかだ。いったいどんな夢を見ているのだろう?
 ワイは上半身を起こし、手近にあったカーディガンを彼女の身体に掛けてやった。
(…………)
 ワイの中に言葉に言い表しがたい温かい想いが生まれる。今までに感じたことのない程の、穏やかな時間がここにあった。けれどこの薄暗い部屋の中にある、安らぎともいうべき「今」はいったいなんなのだろう。夜とは恐怖であり、緊張ではなかったか。闇とは戦うものではなかったか。
 もう一度、窓の外を見る。あの恐ろしいほどに広がる暗き空の月よりも、闇を照らしてくれるものがあるというのか。この「安心感」はいったい……。
 ほんの少し頭を垂れて、両手を膝の上で組んだ。祈りの言葉は浮かばなかったが、そうやって「なにか」に感謝する。
(今、この「時」をお与えくださったことに……。そして、この者に巡り会えたことを……)
 厳粛で、なんだかとても神聖な気がした。今まで祈ったどんな時よりも。
 月よりも、太陽よりも、自分を明るく照らすこの存在が、もうしばらくは自分の側にあることを、心から願わずにはいられない。
 ……不信心者が、笑わせる話しやけどな。


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