Side ARC 大きな衝撃が1度、次いで地鳴りに似た揺れが波のように響く。 振動が収まると同時に、チョピンがシルバーノアの内部チェックを始めた。 一歩遅れて、チョンガラも他からチェックを行う。 イーガとトッシュは固唾を飲んで2人の様子を見守っていたが、そこへ、駆けつける足音と共に鋭い声が届いた。 「みんな、怪我はないか!?」 イーガとトッシュはもとより、チョンガラまでもが思わず声の主を見やる。 剣を片手に、アークが立っていたのだ。肩が大きく上下している。普段ならこの程度の距離では息を乱さないはずのアークだが、その様子が彼の疲労を物語っていた。 「一体どうしたの?…アーク!寝てなきゃダメじゃない!」 ゴーゲンと共に一足遅れてきたポコが、彼の姿を見るなり声を上げた。 そんなポコに、アークは苦笑してみせる。 「非常事態に寝てられないよ。それより、状況は?」 「エンジンがやられています。まず修理が急務ですね。他にも数箇所被害がありますが、こちらは応急処置で何とかいけるでしょう」 アークの問いかけに、チョピンは明確な答えを返した。 「火災は発生していないんだな」 「ええ、今の所その心配はありません」 「シルバーノアの現在位置は?」 「東アルディア北西部、西アルディアとの境界付近になります。ここからでしたら、インディゴスが近いですね」 2人の問答によって、シルバーノアの現状が徐々に明らかになってゆく。 「破損個所の修理は、メンバーだけでできないか?」 「…残念ながら、無理です。エンジンの被害が深刻すぎますので、我々の手には余りますよ」 「そうか…」 チョピンの最後の返答に、アークが考え込んだ、その時。 トッシュが彼の頭を叩いた。 「ってっ!」 「要は修理の人手がいるってこった。わかったからお前は寝てろ」 「いきなり何をするんだよ」 まるっきりの不意打ちだったらしく、アークは咄嗟に壁に手をついていた。やや非難の色を見せているが、相手は全く意に介していない。 「その程度でフラつくぐらいなら何もできねぇだろうが。ポコ、ついてってやれ」 |
半ば無理矢理アークを休ませ、残るメンバーは作戦室で今後の話し合いを始めた。 急を要するシルバーノアの修理はもちろんだが、ロマリアの密輸ルートの調査も必須である。 密輸ルートに関しては、手がかりが得られるか微妙な所かもしれないが。 「東アルディアの主だった街はプロディアスとインディゴスの2つじゃな。プロディアスはこの国の首都だけあって、空港も完備しておるぞ」 チョンガラが大雑把に概要を語り、最後に付け加えた。 「技師の方はワシに心当たりがある。夜が明けたら連絡を取ってみるわい」 「頼んだぜ。とすると残るは密輸ルートか…」 「お尋ね者のわしらが表立って行動することはできんが、さてどうするかのぅ?」 言葉の上では困っている様子だが、口調と態度が飄々としているせいか、ゴーゲンからは緊張感が伝わってこない。 イーガは腕を組み、無言で地図を眺めていた。 この場にいる全員がそれぞれに考え込み、作戦室に沈黙が訪れる。 その沈黙を破ったのは、呑気な口調のゴーゲンだった。 「蛇の道は蛇というが、何か手はないかのぅ?トッシュ」 話を振られた赤毛の剣客は、顎に手を当てたままの姿勢を変えずに、目線だけを声の主に向ける。 「…スメリアならともかく、ここじゃあちょいと手間がかかるな。ま、俺は裏から当たってみるとするか」 トッシュの言葉に頷き、イーガも顔を上げた。 「では私は街中を探るとしよう」 「わしもイーガに同行させてもらうとするかの」 指針が決まったことで、全員が作戦室の椅子から立ちあがる。 「ともかく、シルバーノアの修理が先決だ。頼んだぜ、チョンガラ」 トッシュの呼びかけに、シルバーノアの船長が力強く答えた。 「まぁ、任せとけ。優秀な技師を捜してくるわい」 |
翌日、陽のあるうちにゴーゲンとイーガが情報収集に出たが、成果はかんばしくなかった。 一方のアークは、身体の疲れを癒すべく一日ゆっくり眠ることとなり、ポコがその看病とメンバーの食事の準備を任されることになった。 その間、トッシュは夜の行動に備えて仮眠を取っていた。目的地もさることながら、彼自身が目立ちやすいこともあり、トッシュは夜間に行動することになったのだ。 チョンガラは技師の調達依頼の連絡を済ませると、チョピンと共にシルバーノアの修理にかかり、作業は夜が更けてからも続いていた。 そうして陽が落ちた後、トッシュはプロディアスの街に入ったのだ。 裏のルートは表沙汰にできないものだ。ゆえにそれを使うことには、危険がつきまとう。 しかし、一度裏のルートで取り引きが成立した依頼は、決して約定を違えられることはない。違えた者は裏で仕事を続けることはおろか、潰されると思って間違いないだろう。この世界の契約は、表立って行われない取引であるがゆえに、契約自体を守ることが唯一無二の絶対の規律となるのだ。 問題は、仕事依頼をする相手をいかにして見つけるかである。 何人か当たりをつけてはみたものの、今回の密輸の一件に関しては、誰に依頼をするべきかトッシュは決めかねていた。 正面から近づいてくる人影を見るとも無しに見つめながら、彼は考える。 その時。 「…あんたがトッシュか?」 立ち止まった人影が、問い掛けてきた。 都会とはいえ、人通りの少ない深夜の裏通り。自分を名指しで呼び止める人間の心当たりは少ない。 トッシュは一歩だけ動いた。その一歩で、いつでも鯉口を切ることができるよう体勢は変わっている。 「だとしたら、どうする?」 鋭い眼光を向けながら、赤い髪の剣客は訊き返した。 |
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