Side ARC 滋養強壮の薬草をスープにして服用し、アークは一呼吸ついた。 窓からは晴れ渡った空が見える。久しぶりに落ち着いて日の光を浴びたせいか少し気分もいい。自分のものではないような重い身体と、ズキズキと痛む身体中の神経もいくぶんかは落ち着き、一昨日に比べるとずいぶん意識がはっきりしてきた。 そこへ、ポコが空いたお皿を取りに現れた。 「調子はどう? アーク」 「だいぶいいよ」 アークはゆっくりと身体を起こした。まだ起きあがった直後に体が宙に浮かぶような感覚がするが、いつまでも皆に心配をかけてもいられない。 アークはトレードマークの赤いハチマキをきりっとしめて、皆のいる作戦室へとむかった。またアークが倒れはしないかと、はらはらしながらポコがその後をついてくる。 作戦室に入ると、皆の視線が一斉にアークに集中した。アークは少し照れくさそうに「心配かけてごめん」と笑顔であやまる。 回復の証拠とでもいうのか、アークは皆が巧妙に隠していた不穏な空気を感じた。改めて見回してみるとトッシュの姿がない。 「トッシュは?」 アークの問いに傍らにいたポコが答える。 「ロマリアの密輸ルートを探りに行ったよ」 「いつから?」 「えーと…。ほ、ほら、もうすぐ戻ってくると思う…」 ポコは無理に笑顔を作ってみせたが、アークの眼差しを見ているうちに何も言えなくなってしまった。 「…トッシュは昨日の深夜から出かけたままだ」 言葉に詰まってしまったポコの代わりにイーガが答える。 「プロディアスとインディゴスのギルド間の無線を盗聴したんだが、どうやらギルドの関係者がトッシュと接触したらしい」 「…接触?」 訝しげにアークが聞き返す。 「依頼した技師か、あるいはそれになりすましたハンターか…敵か味方かは判断できかねぬ。とにかく捕まったという情報はまだ聞かない」 「そうか。何らかの状況で動けないのかもしれないな…」 アークは思案したあと、愛用の剣を腰帯に結びつけた。 「俺が様子を見に行くよ」 「だめだよ! まだ、回復したばかりなのに…!」 「このまま何もしないでいるのは嫌だ!」 心の底からふりしぼるような声が響き、作戦室がしんとなった。 仲間は、感じた。 静かで。それでいて圧倒される空気を。 「俺が倒れたとき、皆に心配をかけただろう? この船が墜落して大変なときに何も出来ずにいるのは本当にもどかしいと思った。でも、皆が助けてくれたおかげで、俺はここにいる。これからも目標に向かっていける」 少年はまっすぐな瞳で言う。 「誰も失いたくないんだ。今回は意見をゆずらないよ」 |
アークの言葉に、皆は承諾せざるを得なかった。それでも、さすがに一人では危険だということになり、トッシュが負傷して動けない場合を想定し、癒しの術を心得るポコと仲間内では一番医学に長けているゴーゲンが同行することになった。 落ち合う場所として決めていたのはインディゴスの郊外である。プロディアスへと続く歩道からは少し離れているため、人の目に触れることはない。しかしここにもトッシュの姿はなかった。何か手がかりが残されてはいないかと、3人は探索をはじめる。 「アーク、これ!」 ポコは側にある木に何か書かれているのを見つけた。アーク、続いてゴーゲンが駆けつける。 「トッシュの字だ。…でも、なんだ? この文章」 「暗号じゃよ」 「暗号?」 「うん。単独行動が多くなりそうだからってみんなで決めたんだよ。伝えたい言葉を別のいくつかの言葉で表すことにしようって」 「たとえば森ならば『木のかたまり』と表現するようにのう」 「へえ」 トッシュの残した文章は『海に浮かぶ大地は人』という言葉を表している。 「…わかんないね」 ポコが不思議そうに頭をなやませる。たまにどこかはずしてしまうトッシュの言動にアークはくすくすと笑う。パーティーのムードメーカーでもある彼は、知ってか知らずかこんなときでさえ空気を和ませてくれる。 「抜けているんだよ、単語が」 アークはトッシュの書いた文章の終わりに『作る』という意味の単語を書き足す。すると文章は『海に浮かぶ人が作った大地』という意味を成した。 「人工島だね」 「…さて、どうするかの。あそこでは今、大規模な工事が展開されているらしいが」 人工島の方を見やり、アークは最善の方法を思考する。 「悪名が役に立つな。手配犯が正面から飛び込めばきっと警備が手薄になるだろう」 アークは2人に指示を出し、危険な状況になったら速やかに撤退するよう付け加えた。 「わかってるとは思うけど、なるべく人を傷つけないでくれ」 「もちろん」 「心得たぞい」 「よし、派手にいこう」 |
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