そんな彼の前に唐突に相棒として登場した陽気な男、霧島五郎。 彼こそ、弦太郎をサポートする特命を帯びてアイアンキングに変身する能力を授けられた男だったのである。
だが弦太郎は五郎がアイアンキングであることなど知る由もなく、二人仲良くでこぼこコンビとして、敵の本拠を目指してさすらいの旅を続けるのだった。 そんな彼らの前に次々と立ちふさがるのは、不知火族、独立幻野党、宇虫人タイタニアン。 果たして日本に平和は戻ってくるのだろうか…?
という、いきなり異色な設定から始まるヒーローものがこのアイアンキングだ。 一般には、ひたすら弱いヒーローとして知られているアイアンキング。 しかしそりゃあ無理もない。主人公は変身ヒーローの方じゃなくてただの人間の方なんだから。
そしてそのただの人間、巨大ロボットや怪獣相手に主人公やってるくらいだから、実はただ者ではない。 鞭一本でロボット/怪獣をしばきまくる、とんでもない男なのである。 そしてアイアンキングが倒せない敵を自ら倒してしまう。 どうだ、凄いだろう。巨大ロボットと戦わせたら間違いなく日本一だ。 ただしその腕前は日本じゃあ二番目だ、などとは言わせない。
制作した宣弘社は、前作「シルバー仮面」が視聴率の面で苦戦したことによる反省から、明るいアクション路線を最初から明確にして企画した。 脚本は全話を佐々木守が担当。 そして主役に抜擢されたのが、「飛び出せ!青春」などで人気絶頂だった石橋正次と、日活青春映画で活躍していた浜田光夫。 この二人がいればこそ、このなんとも言えない独特の作品が生まれたのだ。
脚本が佐々木守ということで、設定も凄い。 大和民族に住処を追われた日本の先住民族である不知火族が、復讐と一族再興のため大和政権を打ち倒そうとする不知火族編。 続いては日本に革命を起こして自分達の世界を築こうとする独立幻野党編。 ヒーローものに今までこんな敵いたか? 反体制派の脚本家として有名な佐々木守ならではの、凄い敵だ。 あ、宇宙から来たタイタニアンというのもいるのだが、まあ細かい話は後で。
さて、こういった設定の凄さは単に奇をてらったというものではなく、実に計算し尽くされた効果を挙げている。 なんと言っても、静弦太郎の性格が実に絶妙。
無邪気な笑顔と軽い口調。一見して軽薄男に見えないこともないが、その実は全く違う。 いざ任務となると非情の男となり、その眼光は途端に鋭くなる。 なんと利用できるものは全て利用し、必要とあらば他人を見殺しにすることも厭わない。
典型的かつ強烈なのは第7話。 敵ロボットを迎え撃つため急いでいた弦太郎は途中で、ロボットの攻撃のせいで死にかけている老人を発見する。 が、弦太郎は無視して通り過ぎようとする。 そこでその話のゲストヒロインが、弦太郎に老人を助けるようにと懇願する。 が、弦太郎はそれでも無視して行ってしまう。 そして、その老人は結局死んでしまう。 どっひゃー!
一体何なのだ、これは。これが主人公の姿か? …が、それがそうなのである。これはまさしく正義の主人公の姿なのだ。 なぜか?
弦太郎が老人を助けてたりすると、その間にロボットが進撃して更に大きな被害が出てしまう。 そう、彼が行かなければより被害は大きくなる。 だから弦太郎は多少の犠牲を払ってでも先に進んだのである。 これは、彼が普通の人間でありながら巨大ロボットを食い止める実力の持ち主であるが故に非情に…あ、いや非常に説得力のある理由である。
これが等身大変身ヒーローだったりすると、そもそも等身大の敵はそんなに大規模な破壊はしないから、老人を見捨ててまで敵を倒しに行くというのはあまり説得力がない。 ならば巨大ヒーローだとすると、スケールの大きい戦いをしてるんだから一人や二人の人間は目に入らないだろう。 それに、他のヒーローものはこういうシチュエーションをずっと避けて通っていたのだ。
が、弦太郎は等身大の普通の人間でありながら巨大な敵を倒す力を持っている。 だからこういうシチュエーションは必然とも言えるわけで、そこにこの作品の本質がある。
大を生かすために小を殺す。 こんな弦太郎を非難するのは簡単だが、別にそれは弦太郎独自の非情な性格のなせる技というわけではない、という点に注意したい。
弦太郎は国家の秩序を守るために戦っている男である。 しかしそもそも国家の秩序というものは、国民の自由(権利)を強制的に抑制する、すなわち国民に多少の犠牲を強いることで成り立つのである。 それを分かりやすく、しかも極端に体現しているのが静弦太郎という男だ。 また弦太郎は敵をひたすら殺しまくったりもするが、これも秩序を守るためだ。 体制を守るとはこういうことなのだ。 そこに佐々木守の痛烈な皮肉を感じ取るのは私だけだろうか。
かくして驚異のヒーローものとして出来上がったこの作品であるが、いかんせん視聴率は全然上がらなかった。 開始当初はまだ裏番組に「ミラーマン」があったとか、すぐに怪物番組「マジンガーZ」が始まってしまったとかいうのもあるが、いくらなんでもこれ、子供向け作品ではない。 こんな凄まじい主人公、情操教育上良くないぞ。 しかも変身ヒーローのアイアンキングはやたらピンチになるばかりで敵ロボットを倒すこともできないし、これでは子供に人気も出ない。 どこの子供がアイアンキングごっこをしたがるものか。
そのため最後にテコ入れ、ということだったのか、最後のタイタニアン編は前の2部とは全く異なるものになっている。 その特徴は、
が、この終わり方について一言。
最後はタイタニアンが全滅して、皆で砂浜で戯れるという青春ものみたいな終わり方をするのだが、これがくせ者。 そもそも、不知火族が滅んだ後は独立幻野党が、独立幻野党が滅んだ後はタイタニアンが何の脈絡もなく現れたのである。 そう、この作品はそういう世界。
ならば、タイタニアンが滅んだからとて次に何も現れないとは限らない。 いや、現れるに決まっている。 静弦太郎と霧島五郎は、これからも何度も何度も新たな敵と戦い、そいつらを滅ぼしていくだろう。 そこに体制がある限り、それを崩壊させようとする者は必ず何度でも現れるのだから。
何も終わっていない終わり方。 だがそれこそがアイアンキングらしい終わり方とも言えるだろう。
さあ、与えられた平和の中をのんきに生きる者達よ。 アイアンキングが弱いなどと言って笑ってないで、「国家を守るということ」を非常にストレートに描いたこの作品の深さをもっと味わいたまえ。
P.S.
この作品はゲストヒロインも多彩。一般の有名人から特撮ならではの有名人まで様々な女優が登場している。
要チェックだ。