彼は復讐のためダブルライダーに改造人間にしてくれるよう頼むが、改造人間は自分たちだけでいい、と拒否される。 しかしダブルライダーがデストロンの罠に落ち絶体絶命となった時、彼は身を挺して二人を救う。 瀕死の重傷を負った志郎を救うため、ダブルライダーは彼を改造人間にし、仮面ライダーV3として蘇らせたのだった。
アニメの話になるが、グレートマジンガーは「マジンガーZ」最終回での衝撃的主役交代劇によって登場した。 その時にマジンガーZを遥かに凌駕するその強さは存分にアピールされたが、同時にマジンガーZファンにグレートへの反感を抱かせることにもなった。 剣鉄也より兜甲児の方が絶対いいという人は多いはずだ。
グレートがコケた作品とは言わない。実際、放映は1年間続いている。 そして、この主役交代劇を劇場で見せた「マジンガーZ対暗黒大将軍」はロボットアニメ史上最高の名作という人もいる。 が、前作に思い入れが深いほど、続編の登場による主役交代は諸刃の剣になってしまうということなのだ。
では本作はなぜ成功したか? はっきり言えば、新番組でありながら何も変わっていないのだ。 元々ライダー1号と2号という二人の主人公を擁していた前作に、新たに3番目の主人公を加えた上で前の二人を退場させる。 それは今まで1号と2号がやってきた主役交代とほとんど変わりがない。 誰でも素直にV3の登場を受け入れられたのではなかろうか。
少年ライダー隊の存在や藤兵衛のおやっさんもそのまま。 敵も同じく、前の二つの組織に続いて同じ首領が同じような組織を作って同じような怪人を送り出す。 戦闘員もパッと見ただけでは前と同じである。
そしてもちろん、同じようでありながらグレードアップも忘れない。 だがそれも一味違った作品を作ろうなどというものではなく、あくまで前作の直接の延長としてである。 こんな調子なら、番組人気に傷などつくはずもない。
そのグレードアップというのは例えばヒーロー側においては、比較的地味だった1号・2号に対して、派手に原色を多用してカッコ良さをより強調したV3のデザイン。 また技の1号・力の2号に対して技と力のV3という、二人の能力を併せて受け継いだという単純明快な設定。 そして多彩になった技の数々。これは個々の技のインパクトを無くしてしまうという欠点を持ってはいるのだが、ホッパーなどの特殊能力はさすがパワーアップ!という感がある。
そしてなんと言っても主役! ヒーローものに初めて挑戦した、今や特撮界にその名も高い宮内洋! なんとこの人、剛柔流空手3段、柔道初段、剣道3級の腕前だそうだ。ほんとに生きてる特撮ヒーローって感じ。凄い。
ヒーローものは教育番組だ!という信念を持つに至るこの人。当時から熱心だった。 彼はV3の主役が決まった時になんとビデオデッキ(オープンリールの!)を買い、「仮面ライダー」を録画して研究したそうだ。 更に、撮影の打ち合わせにも積極的に参加。台本でのV3登場シーンをどんどん後ろにずらし、風見志郎のままのアクションシーンを増やしていった。 …いや、自分の出番を長くしたいとかいうんじゃなくて、それで風見志郎がピンチになるシーンを多くすることで、V3に変身した後の爽快感を高めようということなのだ。
とにかくこの作品は、前作と比べて主人公がやたらピンチになる! 変身してても敵の攻撃にやられたりして、その度に風見志郎は傷だらけになっていく。 顔に傷が出来たり、唇が紫色になってたりして痛々しい。ちなみにこれは全て自分でメイクしたんだそうだ。 それであんまり傷だらけになるんで、局の方からヒーローがあんまり傷ついちゃいかんと言われたそうなんだが、全く引き下がらなかった。 ここまでこだわったからこそ、耐えて耐えて耐え抜けば正義には必ず勝利が訪れるという主張が説得力を持った映像となって出来上がったのだ。
ヒーローとしてあるべき姿を徹底的に研究し、それを見事に映像に反映させたこの作品。 こういう作品が仮面ライダーの最高のブームを作り出したのはむしろ当然ではなかろうか。
なお、最初の1クールくらいは宮内洋はかつらを着けていた。 別の作品に出演したりしていた経緯で、その頃はまだ髪が短かったのだ。 だが髪は長めにしてくれとのことで、最初の頃はかつらを使っていた次第。 そのため、ヘルメットを脱ぐと一緒にかつらが取れてしまうということで、ワンカットでヘルメットを脱ぐシーンは無かったりする。
余談ついでにもうひとつ。当時「キイハンター」に出演していた彼は、V3の話が出た時に師匠の丹波哲郎に相談しに行ったそうだ。 そしたら、お面被ってたら誰だか分からないからやめとけ、と言われたんだって。いや師匠、変身前の役なんですけど…。
ところで内容の方。 最初は、V3には体に26の秘密があり、それが順番に解き明かされていくという趣向だった。 26という数字、いかにも最初の2クールはそれで引っ張っていこうという魂胆がミエミエだが、途中でその設定はうやむやになった。 ちなみに、その26の秘密とは未登場のものも含めて以下の通り。資料によっては少々違いがあったりするかもしれない。
なまえ | とくちょう | |
1. | ダブルタイフーン | 右の風車は1号の技、左は2号の力だぞ |
2. | 超触角アンテナ | 頭の触角はホッパーからの電波を受信したり、1号2号と通信したりするんだ |
3. | V3ホッパー | 上空へ打ち上げ、回りを偵察するぞ |
4. | ライダー遠心キック | 空中回転で生み出す遠心力を使った凄いキックだ |
5. | 特殊強化筋肉 | 胸に仕込まれた人工筋肉は、弾丸も跳ね返す強いものだ |
6. | V3スクリューキック | 体をスクリュー状に回転させながら放つキックだ |
7. | 特殊スプリング筋肉 | 肩に仕込まれた、どんな衝撃も吸収する凄い筋肉だ |
8. | V3ドリルアタック | 体を回転させて体当たりするぞ |
9. | Oシグナル | 額の怪人探知器が2km先の怪人も見つけ出すぞ |
10. | レッドランプパワー | ダブルタイフーンに付いているランプで、体内のパワーを2倍に上げるぞ |
11. | V3バリヤー | 回りにバリヤーを張って、怪人の攻撃を防ぐことができるんだ |
12. | V3反転キック | 一度キックした後、反転してもう一度キックする凄い技だ |
13. | 逆ダブルタイフーン | ダブルタイフーンを逆回転させ全エネルギーを放出する、凄いけど危険な技だ |
14. | レッドボーンパワー | 胸のレッドボーンにエネルギーを集中すると凄い力が出るんだ |
15. | 細胞強化装置 | 腕をクロスすると腕の筋肉が強くなって、刃物でも受け止められるぞ |
16. | 空気ボンベ | 胸に付いていて、これで水中でも3時間は平気だ |
17. | グライディングマフラー | マフラーを羽根にして空を飛ぶぞ |
18. | マトリックスアイ | レントゲン装置で敵を透視するんだ |
19. | プロペラチョップ | 両手を回しながら出すチョップは、普段の5倍の力が出るぞ |
20. | エレクトロアイ | 目の下の黒い部分から光線を出し、怪人の足跡を探知するんだ |
21. | エナジーコンバーター | 右腰に付いているエネルギー貯蔵装置だ |
22. | フリーザーショット | 全身から冷気を出し、怪人を凍らせるぞ |
23. | スクランブルホッパー | ホッパーで運ぶ特殊リングで、音波を出して怪人の機能を狂わせるぞ |
24. | V3サンダー | アンテナからは100万ボルトの稲妻が出るんだ |
25. | レッドボーンリング | レッドボーンが膨張して体を包み込み、怪人に体当たりするぞ |
26. | 火柱キック | 足の原子炉で熱を放ち、炎のキックを放つ凄い技だ |
なお、V3には4つの弱点がある。 そのひとつが逆ダブルタイフーンで、これを使うと3時間は変身できなくなってしまうのだ。 だが残る3つは明らかになっていない。デストロンに知られたら大変だからね。 逆ダブルタイフーンのこともデストロンにはナイショだよ。
V3自身が自分にどんな能力があるのか分かってないので、ピンチになることもしばしば。 藤兵衛のおやっさんに特訓を手伝ってもらって新必殺技を編み出す、というパターンが確立した時期。
そして本作でもうひとつ特筆すべきはライダーマン。 終盤にわずかに登場しただけながら、そのアンチヒーロー的なキャラクターで強烈な印象を残している。 かっこいいヒーローの典型だったV3との対比で大いに盛り上がった。
しかし風見志郎の出番を食ってしまったりすることもあり、ヒーローの同類が現れる作品の作劇の難しさを露呈させた。 終盤だけに登場したというのは賢明な選択だったと言えるだろう。 だからこそあれだけの印象を残したわけだし。
とまあ本作は、ライダーブームを加熱させるのに充分すぎるほどの魅力に溢れた作品に仕上がっている。 ただ後半、あわただしい敵幹部交代劇なんかがあったりしてデストロンという組織の統一感が薄れているとかいった難点はある。 しかしこれも、雑誌社から月に一度はイベントを起こしてくれと言われたが故。 メディアも一緒になってライダーブームを煽っていたということで、それもまた良きかな、ということにしておこう。
作品のカラーがだんだんと変化していった前作と比べると、ある意味では全体として最も典型的な仮面ライダーであるとも言えるこの作品。 仮面ライダーを語る上で、どうしても外せない作品だ。
第31話以降はデストロンは各種部族と結託するようになり、それぞれの部族に特有の能力を持つ怪人を作り出す。 キバ男爵率いるキバ一族は牙を持った怪人、ツバサ大僧正率いるツバサ軍団は翼を持った怪人、そしてヨロイ元帥率いるヨロイ軍団は鎧を持った怪人で構成されているのだ。 …のはずだが若干例外がある。
なお戦闘員はショッカーのものとよく似ている。 体の模様が骨ではなくてデストロンのシンボルであるサソリになっているのがポイント。