ドロロンえん魔くん

放映

昭和48年10月4日〜昭和49年3月28日、全25回
フジテレビ系
毎週木曜19時〜19時30分

概要

閻魔大王の甥っ子であるえん魔くんは、大王の命令で妖怪パトロール隊隊長になる。 妖怪パトロールとは、人間界に逃げ出して悪さをする非行妖怪たちを捕まえて地獄に送り返す役目である。

えん魔くんの仲間は、博識のシャポー爺さん、雪女家の姫君である雪子姫、調査係のカパエルである。 更にえん魔くんは人間の小学生、ツトムと友達になる。 かくしてえん魔くんは非行妖怪たちと戦い、本当は地獄に送り返さないといけないのだが大抵の場合相手を殺してしまうのだった。

解説

妖怪もののアニメと言うと、どうしても大御所「ゲゲゲの鬼太郎」を無視することはできない。 特撮番組を作る際に、いかに「ウルトラマン」「仮面ライダー」を越えるかがポイントになったのと同様である。 いかに鬼太郎を越えるか、鬼太郎と違うものを作るかがポイントとなるのだ。

だが、この作品は驚くべきことに設定上は鬼太郎とさほど差別化を図ろうとはしていない。 それどころか、鬼太郎にわざと似せていると見受けられる部分が多々ある。

主人公は少年(声:野沢雅子!)。眉毛(髪の毛)で妖怪を探知し、変幻自在の妖怪マント(ちゃんちゃんこ)とステッキ(リモコン下駄)で妖怪と戦う。 主人公には常に博識のシャポー(目玉親父)が付き添い、他にも何人か仲間がいる。 だが、敵にも味方にもなるダラキュラ(ねずみ男)なんてのもいる。

ほら、基本設定がほとんど同じでしょ。 じゃあキャラクタを置き換えたら、どっちの作品のエピソードかわからなくなるのかと言うとそんなことは全然ない。 これこそ、この作品のカラーのなせる技。

原作が永井豪だというだけで、もう水木しげるとは作品カラーが全然違うのが分かる。 例えば、鬼太郎のエピソードで血が流れる話はあるか? 実はあるんだけど、全然思い出せないでしょ。鬼太郎の世界とは、そういった乾いた印象のある世界なのだ。

じゃあえん魔くんはどうかというと、もう生理的嫌悪感をしばしば誘起するウェットな世界。 時計台の歯車に挟まれるネズミ、部屋の中を飛ぶ大きな蛾、など、何気ないところで神経を逆なでしてくれる。 妖怪も血を流しまくるし、とにかく不気味で気持ち悪いのだ。やっばりこういうところは永井豪。

が、そんな世界を陰湿なままでは終わらせないのがメインキャラクターたち。暗さを持ったキャラクターが全然いないんだから。 この作品はキャラクターシフトが実に見事。キャラクターの魅力が爆発している。 無鉄砲な暴れん坊のえん魔くん。 そのえん魔くんとは対照的に理知的でえん魔くんを抑える役目となり、また話に華を添えるお姫様の雪子姫。 ギャグメーカーでやられ役のカパエル。 仲間全体をまとめる知恵袋である老人のシャポー。 各キャラの位置付けが非常に明確で分かりやすい。子供番組はこうでなくっちゃ。 戦いはとにかく相手が死ぬまで続けてしまう過激なえん魔くんは単純でパワフルで、思慮分別のある鬼太郎よりアクション面でもマル。

しかし何より注目すべきは雪ちゃんこと雪子姫。 彼女目当てにこの番組を見ていた人は多いに違いない。 まずは何と言ってもそのコスチューム。 雪女だからお約束で白い和服、しかしそれがミニスカート状になってるってんだから。 肌を完全に隠してしまう日本伝統の和服をこんな風に切り刻んでしまうなんて、初めて見た当時はなんか伝統への冒涜って感じで、背徳的エロティシズムを感じたもんだった。 まあこの格好っていうのは多分、和服を着せるのはいいけど活動性が悪くなるので、活発なキャラであることをアピールするためにもこうした、てところだろうけど。 しかしこのスタイルを考案したのは、実に偉いとしか言いようがない。

週刊少年ジャンプに連載している漫画で「地獄先生ぬ〜べ〜」ってのがあって、そこに雪女のゆきめという子が出てくる。 その子が雪ちゃんと同じ格好をしてるんだけど(いや、雪ちゃんよりはるかに裾は短く、股下数センチ!)、明らかに雪ちゃんがベースだと思われる。 さてはこの作者も雪ちゃんに魅せられて育ったな、などと邪推したりしてしまう。 けど、ゆきめは結構ポンポン脱いじゃうキャラで、逆にそこがイマイチ。

で、これが雪ちゃんの次の魅力なんだけど、とにかく雪ちゃんはごく普通のまっとうな羞恥心の持ち主。 いやそれだけじゃなく、雪女家の姫君だけあって、プライドも高いし戦いの中で女であることを言い訳にしたりしない。 そんな凛々しいお姫様が、帯を解いてミニの着物を脱いだらすっぽんぽんという過激な格好をしているのだ。 このアンバランスさがなんとも言えない魅力になっている。 子供の頃は、雪ちゃんの裾がふとめくれるだけでもドキドキしたもんだった。 元から簡単に脱ぐキャラクタであるキューティーハニーやゆきめではこうはいかない。

雪ちゃんのおかげで性に目覚めたという良い子の男の子はたくさんいるんじゃなかろうか。 ということで、全話あらすじ紹介では雪ちゃんに焦点を絞ってドキドキ見所チェックを行なっている。 下品な奴だと軽蔑するならするといい。だが、私と同じ思いで子供時代を過ごした人は必ずいるはずだ。 そんな人に少しでも共感してもらえれば幸いである。

…などといったことばかり書いていると品性を疑われそうなので、最後は真面目な話。 この作品の出来はどうなのか? これが、半年で終わった作品とは思えないほど完成度が高い。

一応アニメと同時進行の原作漫画があるものの、この作品はほとんどがアニメオリジナルの話。 どうしても原作の呪縛から逃れられなかった鬼太郎のエピソードとは違い、上原正三、辻真先といった脚本家たちが書きたい物を自由に書いているのだ。

とにかく妖怪が出さえすれば話は成立する。えん魔くんは放っておいてもそこに現れるのだから。 これだけ自由度が高ければ、もうやりたい放題。 かくして、スタンダードな戦いの話に混じって、カラーの全く異なる話が続出する。

例えば、全編に渡ってさりげなく語られる文明批判に混じって、「妖怪地獄おくり」「妖怪雨女郎」「妖怪くるった竜魚」などはストレートに文明批判を行なっている。 「日本列島大爆発の日」のラストのシャポーの台詞もなかなか痛烈。 それに対して「妖怪あすなろ小僧」「妖怪火々爺」「妖怪父ちゃん」などは感動の作品。えん魔くんの戦いにほとんど意味がない。 また、「妖怪イヨマントの復讐」なんかは救いのない悲しい話。この話でもえん魔くんの存在に意味はなく、単なる傍観者に過ぎない。 よくもまあ、これだけバラエティの豊かな話が揃ったもんだ。

キャラクターは秀逸だし、ストーリーも非常に内容が濃い。それでいてファンサービスも充実した娯楽作品。 ある意味では鬼太郎を超えた作品だと思う。 雪ちゃんだけにうつつを抜かすのではなく、じっくりと内容を味わいたいものだ。

更に最後にもう一言、漫画版について言っておきたいことがある。 アニメの「日本列島大爆発の日」に出てきた妖怪の怒黒。これはこの話では日本に水爆を落とそうとする奴である。 だが、漫画版に登場した怒黒は地獄界の無冠の帝王と恐れられた大妖怪。水爆なんてチンケなことを考える奴とはわけが違う。 漫画版では最長のエピソードで描かれ、最後にはえん魔くんと空前絶後の凄まじい戦いを見せてくれるのだ。必見だぞ。

…漫画版を知ってる人へ。ウソはついてないでしょ?(笑)

登場人物

えん魔くん(野沢雅子)
閻魔大王の甥っ子。地獄学校中退だそうだ。地獄界でその名も高い暴れん坊で、妖怪パトロール隊隊長に任命される。
単細胞でわがままで聞き分けがない。ほんとに見かけ通りのガキだ。雪子姫に惚れている。
太くて長い眉毛は妖怪レーダーとなる。実は本人自身には攻撃能力はない。 だが、妖マントや火炎ステッキを使うことで凄まじい攻撃力・防御力を発揮する。 妖マントは主に空を飛んだりバリヤーにしたりして使用。色々なものに変形もする。 ステッキの方は主に炎を放つのに使用するが、棒状のものになら変形させることができる。 一度、ステッキで妖能力ロケットパンチというのを披露したことがあり、初めて見た時はひっくり返った。 ちゃんとジェット噴射で飛んでいってくれるんだ、これが。 が、このステッキ、実はアニメでは火炎棒と呼ばれていた。漫画ではステッキと呼んでいたのに。どっちなんだよ。
お、実はミニスカートをはいているんだな。パンツは純白だ。(笑) 得意技は火炎ステッキを回転させて炎の輪として敵に叩き込む、妖能力火炎車。
最終回で激闘の末に死亡するが、閻魔大王の力で甦る。
シャポー(滝口順平)
えん魔くんの帽子。妖怪のことに詳しい博識の爺さんで、しゃべる前にいつもくしゃみをする。 が、別にカゼをひいているわけではない。と思ったらホントにカゼをひいたことがあった。妖怪でも病気になるのね。
いつもえん魔くんと共に最前線に赴くが、全然怪我ひとつしない。 例えばえん魔くんがマントをバリヤーにしている時なんか、いつもシャポーは無防備なのだが。運がいいのね。
ちなみに大妖怪耳ずきが又従兄弟。似ても似つかぬこの二人。妖怪には遺伝の法則というのは通用しないのだろうか…。
雪子姫(坂井すみ江)
地獄界の名門・雪女家の姫君。プライドが高いので、なれなれしく「雪ちゃん」と呼ぶと「あたしの名は雪子姫!」と怒る。
指から冷凍光線を放ったり、口から氷の息を吹いたりする。逆に暑さに弱い。草履を敵にぶつけることもある。鬼太郎みたい。 ご存知の通り、ミニの着物の下には下着なんて無粋なものは着けていない。
勝ち気な性格で、えん魔くんとよく口喧嘩をしていた。でも実はえん魔くんのことを好きなようだ。 根が真面目なので、いつも非行妖怪を殺してしまうえん魔くんに対して妖怪を送還するのが任務だと口すっぱく言っていた。 更に、いつも物怖じせずに最前線に出るのだが、実力が伴わないためよく敵に捕まっていた。
最終回で閻魔大王の許しを得て、えん魔くんの許婚になる。
カパエル(肝付兼太)
カエルと呼ばれると怒る肥満体の河童。でもカエルには見えないのだが。 鬼太郎みたいなヘアスタイルだが、ちゃんと両方とも目はある。
調査・偵察係で、情報収集のためテレビの修理をしたりもする。凄いぞ。 食事の担当でもあり、毛虫やミミズの料理などが得意なようだ。(げー、雪ちゃんもそんなの食べてんのぉ?)
結構臆病であまり戦いの役には立たないが、忘れた頃に活躍する。 ひいじいさんの名はカパえもん。
ツトム(近藤高子)
洋海小学校3年2組の生徒。えん魔くんたちの正体を知るただ一人の人間で、えん魔くんの友達となる。 それからは何かと妖怪の事件に巻き込まれる散々な日々を送る。担任はトバッチリ(鳥羽尻)先生。 最終回では金の塊にされたが、ちゃんと元に戻ったんだろうか?
ダラキュラ(神山卓三)
ドラキュラの子孫で、ゴミ箱の残飯をあさる貧乏貴族。 元妖怪パトロールだが、無能なため首になった。こんな奴を選ぶ閻魔大王の方が無能だと思うが…。 首にされた腹いせに、非行妖怪と手を組んでえん魔くんの邪魔をする。 しかし根はそんなに悪い奴ではないので、えん魔くんの味方になったりもする。
閻魔大王(柴田秀勝)
時々登場する地獄界の支配者。もちろん地獄界最強の能力の持ち主。えん魔くんの叔父さんだ。 一度えん魔くんが喧嘩を売ったことがあるが、えん魔くんはあっさりやられてしまった。 えん魔くんに御妖船ドロロン号を貸し与えた上、地獄別荘までプレゼントしてくれる。 最終回では命を救ってくれるし、地獄の支配者と言えども親戚の子には甘いのね。
ハルミ(桂玲子)
ツトムのガールフレンド。最初はただのクラスメートだったのだが、いつの間にかいい仲になった。時々妖怪事件に巻き込まれる。

全話リスト

全話あらすじ付き。
アニメのメインページに戻る