母乳育児体験談

ここではおっぱいルームで母乳育児に取り組んでいるお母さん達の体験談を掲載します。

目次

おっぱいと母子の関係・・・(濱口 陽子)

 おっぱいを飲むのが下手な2ヶ月の息子。そのせいか、しこりがちなおっぱいに手を焼く毎日。こんなふうにおっぱいに真剣に向き合ったのは10年ぶり? 6年ぶり? いや、おっぱいを通してこんなにいろいろ考えたのは初めてかもしれません。

 2人の娘たちは今、10歳と6歳。福井母乳育児相談室の福井先生に「乳児期を一緒に過ごさなかった上の娘と、生まれてからずっと手もとで育てた下の娘と、あなたの2人に 対する感情はどう?」と聞かれたとき、私は胸の奥にある何かをパッとつかまれたように感じたのでした。

長女の出産

 10年前、長女出産の時は一人でおっぱいと格闘していました。先天性の腸疾患を持って生まれた長女は、初乳をわずかに口にしただけで入院。病気に気づくのが遅く、まず敗血症の治療をしていた娘。「(敗血症が)良くなれば、母乳から飲ませていきましょう。」というお医者さんの言葉に私は、「おっぱいが出なくなったら大変。新生児は3時間毎におっぱいを飲むらしいから、その間隔でしぼろう。家に帰ってきたらたっぷりと飲ませてあげよう。」と、−日中搾乳していました。どうやってしぼればいいのかも知らず、また乳房の手当ても知らず、ただやみくもに搾乳器も使い、それでも娘に飲ませたい一心で毎日毎日しぼっていたのでした。しかし、1ヶ月たっても「母乳を飲ませる」と言ってもらえません。毎日の搾乳に疲れてきた私は,冷凍にするのをやめ、洗面器にしぼって捨てるようになりました。

 面会に行くと、まず手を洗い、帽子と予防衣を着けて新生児ICUの扉が開くのを待ちます。保育器の前に行って看護婦さんに娘を手渡してもらいます。チューブだらけの娘を抱くのに緊張し、目をあけていれば「お母さんだよ」と話かけたり、ほっぺをつついたりします。眠っていることも多く、そんな時は抱っこするだけでそっと保育器へ置いてきます。

 チューブも取れ、別の部屋で抱っこできるようになってもまだ「母乳OK」がでません。看護婦さんに聞くと、腸に負担をかけないためにカスの残らない特殊ミルクをあげているとのこと。私は何だかがっくりときました。けれど、そのミルクの次は母乳かもしれないと気を取り直し、相変わらず搾乳する毎日。しかし、結局―度も病院へ母乳を運ぶことなく娘は退院。生まれて2ヶ月たっていました。

 「さあ、おっぱい!」と、勢いこんで飲ませてはみるものの、私のおっぱいはいつしか硬くなっており、母乳もあまり出ないようでした。それに、手元に帰ってくるのを待ち望んでいた娘だけれども、いきなりポッと2ヶ月の赤ちゃんを渡されてもどう扱っていいのかわかりません。とまどいながらもとにかく必死で世話をしました。そして6ヶ月になった時、2回目の入院、手術。もうその頃には私のおっぱいは出なくなっていました。

 8ヶ月になって退院。いきなり大きくなって戻ってきた娘を私はまたどう扱っていいのかわかりません。そして3回目の入院――と、長女は生まれてから病院と私の間を行ったり来たりしました。病院にいた日数は合わせて6ヶ月ぐらいでしょうか。病気を治す方が先決と頭ではわかっていても、手元に赤ちゃんがいない生活は寂しく、病院から帰ってきた時は思いっきりかわがるという生活が一年続いて私の育児休暇は終わりました。

次女と長女

 長女と4年10ヶ月離れて次女が生まれました。二人目とはいえ長女のことがあるので、私はまるで初めて子どもを育てるようにドキドキしながら、けれど楽しみながら育てました。長女も大きくなっており、手がからずゆったりと過ぎた1年でした。

 そして今、二人が大きくなるにつれ私が感じるようになってきたこと。まさにそれを福井先生にピタリと言いあてられたのでした。次女は文句なしにかわいい。長女には何かしら構えてしまう――。

 長女は次女と同じように私の膝に座りたがり、抱っこされたがり、夜は添い寝してもらいたがります。長男の哺乳瓶のお茶を飲みたがります。どっちが私の横に座るかを妹と真剣にケンカします。そんな長女に「大きいのにいいかげんにしたら」と言いたくなる言葉を飲みこみます。そして「この子はやっぱり小さい時の母子の触れ合いが足りなかったのかも。今、それをやっているのだ」と思うのです。

 しかし、いつまでも「お母さん」を卒業しない長女を目にすると、新生児期の母子関係に不安を感じながらもその感情を押し込め、母子関係は必ず修復できると信じてやってきた今までが揺らぐような気がして、いつまでもそう思う自分もイヤ、そんな態度をみせる娘もイヤと、長女を膝に抱っこしながらそんなことを考えている自分もイヤになります。

 次女を抱っこする時は理屈など何も浮かばず、ただかわいい。抱っこの時間を二人で楽しんでいるという感じなのに。抱っこも添い寝も長女には「してあげなければ」という思いが先にたち、次女のように無条件にその時間を楽しむということがなかなかないのです。長女に対しては、何か気合を入れてから向かっているような、確かにある壁を感じながらもそれをわざと無視しているような―そんな気持ちなのです。そう思わないように、思わないようにするのはそう思っているということでしょうか。

 この違いはなんでしょう。やはり乳児期の母子の過ごし方でしょうか。そう明言されるとつらい。けれどそうかもしれません。生まれたばかりの赤ちゃんとお母さんというのはお互いに肌を擦りあわせて過ごしていく時間の中で初めて「母と子」になるのだと思えます。「母子関係」は最初からあるものでなく、創っていくもの―その触れ合いの最たるものが、“おっぱいの時間”とも言えるでしょうか。

 長女は息子をよくかわいがります。「世界一かわいい」と言って飽きずに抱っこしています。そんな姿を見て私はまた心の中で娘に「ごめんね。いっぱい抱っこしてあげられなくて。ごめんね、おっぱいを飲ませてあげられなくて」と、手を合わせるのです。

 追記 

 一人目。どこにも相談する術を持たず、結局おっぱいは止まってしまいました。

 二人目。乳腺炎になり病院に行ったものの投薬で終わり。乳腺炎になった原因を考えることもなく、結局おっぱいは出なくなりました。そして、三人目の今、福井先生の助けを借りて息子にたっぷりとおっぱいを飲ませています。私にしては「おっぱいの最長不倒記録更新中」です。

 生まれた子どもに、病気や障害がある時、病院もまわりも子どものケアに目が向きます。

母親の「おっぱい」は二の次になります。病気や障害を持つ子どもを母乳で育てたい』と思った時、どこに相談すればいいのでしょうか。今さらながら、もっと早くに福井母乳育児相談室を知っていればと思わずにはいられません。おっぱいやアトピ―や育児や子どもに関するあらゆることに、これほど親身に、きめ細かく相談に乗ってくれる所を私は他に知りません。

 そして、事は「おっぱい」にとどまらず、健康な母体を作ることを教えてくれ、人間が生きていくために大切なことを考えさせてくれ、健全な衣・食・住を選びとる知恵を授けてくれ――と私たちが生きていくスタンスを示唆してくれるのです。

 一歩、部屋に入ると、子どもと、思い思いに過ごすお母さんたちの姿が目に入ります。

自分の膝にあまる大きな子どもにおっぱいっをあげるお母さん。そのまわりには穏やかで、ゆったりと豊かな時間が流れています。

<おっぱい先生からのコメント

 濱口さんは、来院されてから、2週間経つか経たないかで、私の仕事の目的を正確に把握してくれています。来院前から私の本を読んでくれていたから、より理解が深まったのでしょう。仕事の内容をより深く理解してもらえたことをとても嬉しく思っています。

 彼女に体験談を依頼した理由は、彼女のようにどうしても出産直後から我が子と長期間離れなければならない母子間の人間関係がしっくりいかない傾向を示すケースを過去に多く体験したからです。(未熟児など…)

 生の声を出してもらって、できるだけこのような体験をしてほしくないと願う私の気持ちが伝わった上で、では、どうしてほしいのかを知ってほしかったのです。

 福井おっぱいルームでは、妊娠初期から来院してもらって、妊娠中の生活指導を実施しています。母子共健康になってもらって安全な分娩、元気な産後を目指してもらっています。妊娠中の来院時、赤ちゃんの世話など色んな体験をしてもらいますので、産後に困ることは少ないようです。丈夫で元気な赤ちやんを、元気なお母さんが世話をすると、当然母乳はスムースに出てくるわけです。

 そして、もし、このように余儀なく長期入院をしなければならなくなっても、子どもが帰ってきた時、母乳をタップリ飲ませることができて、長期間離れていた距離感を埋めることができるように乳房管理をしてほしいのです。

 どんなに長期間離れて直接授乳ができていなくても、おっぱいマッサージを受けていれば分泌は止まりません。病院に頼んで、できるだけ早くから直接授乳を可能にしてもらえるようにしなくてはいけません。そして、私達が開発したピジョンの「母乳相談室」という哺乳瓶を使われることを勧めます。

 殆どの病院は、濱口さんも言っているように、子どもが退院してからの母親の心を考えた援助などしてはくれません。ただ子どもが元気に育つことだけの援助に終始しています。

 今、おっぱいルームに777gの超未熟児を産んで1歳半の現在も、母乳育児を続けているお母さんがいますが、子どもとの距離感は殆どなくなっているようです。

 母乳育児は、どんなに出産後離れていても、その溝を埋める強力な力を持っています。

 どうか簡単にミルクだけにしないで、少しでも母乳を与え続けてあげてください。その行為があなたの心を満たし、あなたを安定させます。

 それが心の安定した健康な子どもを育てるためのあなたの原動力ともなるのです。

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